少女
塚本 達也と佐知子夫婦には子供が出来ず、施設にいる子供との養子縁組を希望した。
智恵香は当時7歳、もうすぐ8歳を迎えようとしていた時だった。
智恵香は養女にするには理想の子供だった。
挨拶はきっちりして礼儀正しく、頭も良い。顔も可愛らしいし、愛想良く笑うこともできる。職員の手伝いもするし、下の子の面倒見もよく見た。
ただ、なぜか今まで最終的に養子縁組は上手くいかなかった。
そう、智恵香はあまりにも完璧過ぎたのだ。
多少のワガママや甘えは、この年頃の特権だ。
子供らしい好き勝手な振る舞いも、愛せることで縁が繋がる。
逆に無口で殻にこもるような子も、なんとかしてあげたいという養親希望者が少なくなかった。
そんな中、智恵香は良い子でも悪い子でもなく、普通の平凡な子供でもなく、文字通り『完璧な子』だった。
完璧過ぎて面白くない
完璧過ぎてちょっとかわいげが無い
これが上手くいかない理由であった
その上、智恵香自身もまるで
私は誰にも引き取られるつもりはありません
施設を出たら一人で働いて生きていきますのでお構いなく
とでも公言しているかのような、恐ろしいくらいしっかりした7歳の女の子だった。
塚本夫婦は本来、他の子との話を進める予定だった。
しかし、自宅に戻っても、塚本達也はなぜか智恵香のことが気になっていた。
すれ違いざまに完璧な挨拶をして、そのまま
あなた達には私は関係ないと思いますのでこれで
と心の中で言っているのが聞こえるがごとく、スルーしていったあの子
達也は
自分の仕事の関係で子育ては妻の方が一緒に過ごす時間が長い
妻はもっと子供っぽい子供を望むだろう
と思っていた。
妻から
「あの子のことがどうしても頭から離れないの」
と言われた時、夫婦共に同じ意見だったことに驚いた。
よってもう一度、智恵香と会い、少し一緒に話をさせてほしいと施設に頼み込んだ
施設の責任者が私達に尋ねた。
「なぜあの子にもう一度会おうと思ったのですか」
私達夫婦は答えられなかった。
言葉に表せない思いがあり、ただ口で説明出来なければ、この話は進めてもらえないかもしれないと思った。
「なぜか気になるんです。すみません。こんな言い方ではダメですよね」
そう言って夫婦が落ち込んでいる様子を見せたため
ありのままを教えてあげる方が良いのかもしれない
職員はこう決めた。
「塚本さん、少しこちらから、あの子のことをお話してもよろしいでしょうか」
塚本夫婦はここで、智恵香が5歳の時、この施設に母親に手を引かれ、連れて来られた当時の話を聞くことになった。