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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第二章
38/204

少女

 塚本 達也(つかもと たつや)佐知子(さちこ)夫婦には子供が出来ず、施設にいる子供との養子縁組を希望した。

 智恵香は当時7歳、もうすぐ8歳を迎えようとしていた時だった。


 智恵香は養女にするには理想の子供だった。

 挨拶はきっちりして礼儀正しく、頭も良い。顔も可愛らしいし、愛想良く笑うこともできる。職員の手伝いもするし、下の子の面倒見もよく見た。

 ただ、なぜか今まで最終的に養子縁組は上手くいかなかった。


 そう、智恵香はあまりにも完璧過ぎたのだ。

 多少のワガママや甘えは、この年頃の特権だ。

 子供らしい好き勝手な振る舞いも、愛せることで縁が繋がる。

 逆に無口で殻にこもるような子も、なんとかしてあげたいという養親希望者が少なくなかった。


 そんな中、智恵香は良い子でも悪い子でもなく、普通の平凡な子供でもなく、文字通り『完璧な子』だった。

 完璧過ぎて面白くない

 完璧過ぎてちょっとかわいげが無い

 これが上手くいかない理由であった


 その上、智恵香自身もまるで

 私は誰にも引き取られるつもりはありません

 施設を出たら一人で働いて生きていきますのでお(かま)いなく

とでも公言しているかのような、恐ろしいくらいしっかりした7歳の女の子だった。



 塚本夫婦は本来、他の子との話を進める予定だった。

 しかし、自宅に戻っても、塚本達也はなぜか智恵香のことが気になっていた。


 すれ違いざまに完璧な挨拶をして、そのまま

 あなた達には私は関係ないと思いますのでこれで

と心の中で言っているのが聞こえるがごとく、スルーしていったあの子


 達也は

 自分の仕事の関係で子育ては妻の方が一緒に過ごす時間が長い

 妻はもっと子供っぽい子供を望むだろう

と思っていた。


 妻から

「あの子のことがどうしても頭から離れないの」

と言われた時、夫婦共に同じ意見だったことに驚いた。

 よってもう一度、智恵香と会い、少し一緒に話をさせてほしいと施設に頼み込んだ


 施設の責任者が私達に尋ねた。


「なぜあの子にもう一度会おうと思ったのですか」


 私達夫婦は答えられなかった。

 言葉に表せない思いがあり、ただ口で説明出来なければ、この話は進めてもらえないかもしれないと思った。


「なぜか気になるんです。すみません。こんな言い方ではダメですよね」


 そう言って夫婦が落ち込んでいる様子を見せたため


 ありのままを教えてあげる方が良いのかもしれない


 職員はこう決めた。


「塚本さん、少しこちらから、あの子のことをお話してもよろしいでしょうか」



 塚本夫婦はここで、智恵香が5歳の時、この施設に母親に手を引かれ、連れて来られた当時の話を聞くことになった。

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