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〜 黄昏 〜  作者: 晴倉 里都
第二章
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39/204

開始

 ワンピースの女性は智恵香に間違いなかった。


 なにか周りに事実を言うことが出来ない理由があるのだろう


 ただ、優斗にだけは、自分が智恵香だとわかる言葉を残していった。



 優斗が智恵香と初めて会った時、智恵香に先ほどと同じような言葉を言われたことを覚えている。

 いや、覚えているどころではなかった。


 その時、智恵香は、優斗が立ち入り禁止場所とわかっていながら許可なく射撃場に入り込んだと思い、優斗を非難した。


 当然、智恵香にすれば危険性があるため優斗に注意をしたのだが『立ち入り禁止』と書かれた看板が壊れていたため、優斗はそれを見ることが出来なかった。

 なので、優斗は入ってはいけない場所だと知らずに立ち入ったのだった。


 優斗が悪くなかったことがわかり、智恵香は何度も謝ろうとしていた。

 なのに、優斗は謝罪を受けないようにした。


 最初は、偶然、タイミングが合わず、他の人が呼びに来るなどして邪魔が入ったため、謝罪が受けられなかっただけだった。

 しかし、それ以降、智恵香は何度も謝るために声をかけてきたが、優斗はこの話題が出そうな時は、違う話を振ったり聞こえないフリをした。


 優斗は智恵香に謝罪してもらう気持ちは無く、全く怒ってもいなかった。

 ただ……

 今思えば、智恵香にとっては、謝罪を拒否されたことで、逆に腹が立っていたかもしれない。


 優斗は思わず、ひとり苦笑した。


 いつか、このことを自分の方が智恵香に謝罪しないといけなくなるかもしれないな


 優斗はカフェから少し死角に入ると、すぐに所長に電話し、自分はもう智恵香の周辺の人間に顔が割れて関われないことを説明した。

 所長の命令で他の事務所の所員達が駆けつけ、彼らが入れ替わり立ち替わり智恵香を尾行した。



 智恵香は現在、佐々木 弘一郎(ささき こういちろう)という人物の家にいることがわかった。

 そこには、佐々木弘一郎の妻の亮子(りょうこ)と20歳くらいの年頃の娘百合(ゆり)がいるとのことだった。

 百合は病気がちで、小さいころからなかなか学校に行けず、入退院を繰り返していたらしいということまでは聞き込み調査などで判明した。


 佐々木家を所員達が張り込みした結果、智恵香はほぼ佐々木家から姿を見せず、どうも佐々木夫婦と一緒でないと外出が出来ないように見えた。

 それも、外出は一週間に一、二回程度、買い物や食事に行くくらいと頻度は高くなく、全て自家用車を使った。


 そして病気がちであるという百合という娘は留守番をしているのか、一緒に車に乗り込む姿は見られなかった。


 病気がちな娘の友人にでもなってほしいと頼み込まれたのだろうか

 それなら、携帯電話から連絡の一つでも入れてくれるはずだ


 何か事情があるにしろ、智恵香が一旦無事だと確認出来たため、全員が安堵した。


 後は智恵香との連絡手段だ

 智恵香はおそらく携帯電話を取り上げられているのだろう


 事情がわからないためむやみに接触も出来ず、優斗達は智恵香から何かしらの合図があれば、いつでも動けるように待機していた。



 その日は良い天気だった。

 佐々木弘一郎は、この日用事があるのか、珍しく朝から一人で歩いて外出していった。

 妻と智恵香は玄関先で見送った。


 玄関から中に入る時、智恵香は亮子に見えないように手を動かした。


『ビ・コ・ウ』


 望遠レンズを設置して張り込みをしていた白川はすぐにわかった。


 暗号だ


 白川は昔、智恵香とペアを組んでいた際、ターゲットに見えないように意思疎通を図るため、手話の代わりになるような、手の動きで会話が出来る暗号を決めていた。


「すぐに佐々木弘一郎を尾行してくれ」

 白川は他の所員達に伝えた。


 おそらくタイミングを図っていたのか……

 智恵香が動き出した。

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