44 イケオジ萌え
これは、やばいかしらー‥‥
私は暗い部屋で逡巡していた。というのも、私の手を縛っていた縄が解けたためだ。もちろん、縄がひとりでに解けるわけはない。私が解いてしまったのだ。
縄が擦れて痛かったので、どうにか緩めたいなと思った。そこで、前世、歴史の先生が縄の解き方を教えてくれていたのを思い出した。歴史オタクで、そういうのに詳しいらしいって。「皆さんも誘拐された時は、この方法で脱出するんですよ」と言われて、そんなこと起きる訳ないでしょって、笑った覚えがあるのだが‥‥
あったね。普通に、誘拐あったわ。
ということで、とりあえずその方法で縄を緩めようと思ったのだけれど、結果的に縄を解いてしまった。そりゃそうだ。教わったのは縄を緩めるやり方ではなく、解くやり方だったのだから。
解いていることバレたら、やっぱりヤバイよねー‥‥
ということで、今思い悩んでいる。
よし。脱走するか。
縄で縛っても、それを解く方法があると思われたら、もっとひどい扱いを受けるかもしれない。
なら、さっさと脱出経路を見つけよう。
部屋唯一の扉には、やはり鍵がかかっていた。しかし、このくらいはなんてことない。私は魔法で鍵穴に水を入れる。そして、鍵穴の形に充分水が入ったら、すぐに凍らすのだ。すると、氷のスペアキーがあっという間に出来上がり。
以前、公爵家に忍び込んだ時に、「もっと早く鍵を開けられていれば、見つからなかったのではないか」と後悔した。だから、色々と試行錯誤して、鍵の素早い開け方を習得したのだ。
ただし、水が入り込んだことによって鍵は壊れるのでオススメは致しません。
私はそっと扉を開け、外を見る。見張りすらいないところを鑑みると、私は大分侮られているようだった。
この際、都合がいい。
私はさっさと部屋を出て行く。何回か侍女らしき人物とすれ違ったが、それでも、私が堂々としているからか、身バレすることはなかった。
この屋敷の構造は分からないが、壁を伝って歩けば、いつかは外に辿り着くはずだ。迷路の攻略方法と同じである。
そのようにかなりの距離を歩いている中で。
「サザンジール家は邪魔でしかないからな」
ルークの声が聞こえてきた。私は慌てて隠れる。その通りですね、ともう1人の人物が話を合わせている。
廊下上で話しているからか、声は響いて聞こえる。
やっぱり、私は邪魔な存在のよう。そこら辺は予想通りだ。‥‥‥しかし。
「ケイト嬢がいなくなれば、娘が王太子妃になれるのも夢ではない」
あれ、ルークって娘いないよね?というか、これ。ルークの声じゃなくない??この声は‥‥‥‥
私はチラリと身を乗り出し、2人の人物がいる方を覗く。そこには、デヴィッドと、乙女ゲームのサブキャラクターの1人・ノーマンがいた。
それは、渋野さんという声優さんが声を当てているキャラだった。ゲーム内唯一のイケオジ枠。
し、渋い‥‥‥!渋かっこいい!流石だわ!
イケオジ萌え。これは、歳を取らないと分からない良さ‥‥!私も気づいたのは、高校3年生の時だもの。だからこそ、奥ゆかしくて素敵だわ。
という思考はひとまず置いといて。
ここにいるのがノーマンということは。シオンに指示したのは、彼という可能性も出てきた。
いやはや、それにしてもいい声だ。うーん。
「あの、何をしているんですか?」
「渋野さんの声にキュンキュンしているのよ‥‥!」
「‥‥‥‥‥?」
思わぬ耳福に悦に浸っていると、後ろから声をかけられた。それが、誰だか確認もせずに。
「ケイト様。そろそろ、戻りましょうか?」
「もう少しだけ‥‥‥え?」
後ろを見ると、そこにはシオンの姿があった。即座に逃げようとしたが、首根っこを掴まれる。そして、顎を掴まれ、無理やりシオンの方に顔をむかせられる。
「部屋に戻りますよ‥‥ね?」
「‥‥‥‥」
その赤い瞳を私は静かに睨み返した。
「ああ、もう”疑い”があるから、この魔法も効かないんですね」
「そうね」
私は短く答えた。黒の魔法は、とても力が強いが、一方で弱点も多い。
例えば、その魔法を使っていると周りから一瞬でバレてしまうとか。
相手が「疑い」の心を持っていれば、魔法が効かないとか。
「まあ、それなら仕方がないですね。あの部屋の鍵も壊れてしまったようですし」
「‥‥‥」
「私の部屋、来ませんか?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥?!
どういうことだ、と思考が再び始動した時には、強い力の彼女に腕を掴まれ、ずるずると引きづられていた。
ノーマンとデヴィッドの声は段々と遠ざかって行く。
その道中で。私は、場違いにも、「ああ、渋野さんの声が‥‥」と思っていたのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「ふふふ。ケイト様の脱走に気づいた時は驚きましたよ」
「す、すみません‥‥」
「いや、おかしくてね。アデルはどうして、貴方を選んだのかな、と」
私はその言葉の意味が分からず、首を傾げた。
「そうですよ。アデルはああ見えて、警戒心が強い。なのに、何故毒を孕む貴方を選んだのか‥‥」
「毒‥‥‥?」
「そうです。あなたは、存在そのものが毒なんですよ」
シオンはクスリと笑って、私を見た。
「少しだけ、身の上話でもしましょうか?」




