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38 情報源との接触




時刻は早朝。皆はまだ寝静まっている。


よし。これは行けるな。

そろりと抜き足で屋敷の外に通じる扉に向かっていく。そっと。そっと‥‥‥


「ケイト様、何をされているのですか?」


「あ、アデル!!」


突然、すぐ後ろから、アデルに声をかけられた。ここに至るまで全く気配がしなかったので、油断した。


「目が覚めちゃったから、少しお散歩を」


「そうですか。お供させて頂きますね」


我ながら、いい言い訳だと思ったのに、すぐにそれも遮られてしまう。これは、流石に厳しいか。しかし、最後まで抵抗することもやめない。


「一人になりたい気分なの。大丈夫よ、外に出たりはしないから」


嘘八百の言葉に、我ながらタラタラと冷や汗が出てくる。これは、きっと強制送還かアデルもついて来るかの2択だな。そう思ったのだがー‥‥


「そうですか。いってらっしゃいませ」


アデルは、予想外にも、あっさりと私を解放したのだった。





⭐︎⭐︎⭐︎





誰もいない屋敷の庭を横切り、私は足早に外に出た。すると、すぐそこに馬車が止められており、中から一人の人間が出てきた。さらさらの黒髪に赤い瞳を持った、アデルの兄・シオンだ。私は彼に駆け寄って行く。

前回会った時は、時間も遅かったため、あまり話を聞くことは出来なかった。なので、シオンとは改めて会うことにしたのだ。

アデルには、反対されそうだったので、内緒で約束した。それもバレないように、早朝という時間帯にしたのだ。結局、無意味だったが。


「うまく抜け出せましたか?」


彼は心配そうに、私の手を取った。


「ええ。けれど、アデルには気づかれちゃったわ。なんとか誤魔化したけれど‥‥」


「そうですか。それなら、次はアデルがいない時にしましょう」


その言葉に、私は驚いた。

アデルがいない時など、彼が買い出しに行く時か、お父様について取引先に行く時だけだ。

そして、取引は夜に行われることが多い。夜は流石に危険なのではないか。そう思ったのだがー‥‥


「それは‥‥‥その方が、いいかもしれないわね」


「そうですよね」


「あなたの言う通りだわ」


シオンは顔を曇らせたが、すぐに私の手を離して、笑みを見せた。


「でも、せっかく抜け出したんですし、今日も少し話しましょうか」


ふわりとした笑みに、癒されて、私も頷く。


「そうね!」


「ええと‥‥そうですね。ルーク様が、次に外に出るのは今日です。公爵家の定例会議に出席する為です。次の予定は明々後日。この日は取引先に行く、としか言っていなかったので、恐らく賄賂を渡しに行くのでは?」


「じゃあ、その現場を明々後日に抑えればいい訳ね?」


でも、その情報だけではどこに行くのか分からない。現場を抑えることはやはり、困難なのかな。


「確かに、これだけではどこに行くかは正確なことは分かりません。けれど、こう考えることが出来るはずです」


シオンは人差し指を立て、1つの仮定を示した。


「あの新聞が出てから、ルーク様は新聞社に行っていません。ならば、新聞社にあの記事のお礼を言いに行くのではないか、と」


「‥‥‥‥!」


「それなら、俺たちで新聞社を張ればいいだけになります‥‥‥どう、でしょうか?」


自信満々な様子から一転。提案を終えると、すぐに不安げな顔をした彼の手を私は勢いよく握った。


「すごいわ!絶対、あなたの解釈は合ってる思う!」


「そ、そうですか」


私が手をぶんぶんと振ると、若干、シオンは引いたようだった。


「それなら、また明々後日ね。アデルもちょうどその日、出掛ける予定があったはずだわ」


「分かりました。では、明々後日迎えに行きますね」


「ありがとう!」


ニコニコと笑い合う。本当に穏やかで、こちらも気が抜けてしまう。アデルとは、最近ギクシャクしてしまっているので、彼と話すのは安心感を得られた。


「ところで‥‥」


そこで、シオンはスッと目を細めた。そして、私の後ろを静かに指差す。細く、綺麗な指が直線上にいる人物を示した。


「そこにいらっしゃるのは、サザンジール家の使用人の方ですか?」


「え?」


私は振り向き、その指が示す方向にある草陰を見る。確かに、そこには人影があった。

使用人?だとしたらアデルだろうか。そう考えたのだが、それならシオンが気づかないはずがないだろう。


恐る恐る草陰を覗くと、そこには、手で顔を隠した大きな図体の人間がいた。その人物は‥‥


「‥‥‥‥サイモン?」


「よ、よう。元気かー?」


私が声をかけると、顔を隠していた手を外して、なんとも間抜けな挨拶をしてきた。挨拶をされたら、こちらも‥‥となるわけはなく。


「なんで、貴方がここにいるのかしら?」


「奇遇だな」


間抜けの次は頓珍漢な受け答えを棒読みでしてきた。そのような返答を続けるなら、こちらにも考えはあるわけで‥‥


「貴方の幼少期の恥ずかしいエピソード大声で暴露するわよ」


「言う言う!ここにいる理由言うから!!」


まったく、とサイモンは顔を赤らめて、恨めしげにこちらを見た。


「アデルが、こっそり外に出ようとしているお前を見張ってくれって言ってきたんだよ」


「アデルが?」


ジーザス。

結局、私が屋敷を抜け出そうとしていたことがバレていたのね。それで、サイモンに見張りを頼んだ、と。


勿論、あんな穴だらけの理由で出し抜けるとは思わなかったけれど、こんな風に黙って見張りをつけるのは意外だった。

いつもなら、自分もついて行くと主張するのに、やはり、無理なことをしようとしている私を怒っているのだろうか。


「えーと、だな。アデルからは絶対に見張っていることをバレるなよ、と脅され‥‥言いつけられていたんだが」


脅され、もとい、言いつけられる。どちらが真実なのだろうか‥‥


「もし、お前にバレたら、伝えて欲しいことがあると伝言を頼まれていた」


「何かしら?」


「こっそり抜け出すことがバレたいとでも思っていたんですか?甘く見ないでください、とのことだ」


「‥‥‥‥」


その言葉に、思わず黙る。何もかもお見通しという感じで、納得いかないような、何処か嬉しいような。後者の感情は気のせいだろう。貶されて嬉しいってマゾじゃないんだし。


「あはは、アデルは相変わらず気が強いなあ」


その言葉に、シオンは朗らかに笑った。しかし、一気に緊張感を高めたサイモンは、彼に向けて剣を抜いた。カシャリと鉄の擦れる音がする。


「おい、お前は誰なんだよ」


「ちょっと、サイモン!その人は悪いやつではないわ!」


「うるせえ。お前の意見は聞いてねーよ」


ちょっと、それが主人に対する態度なの、とか色々言いたいことはあるが。

シオンは、サイモンに弁明をしようとはしない。このままでは、サイモンは彼に切り掛かってしまうだろう。


「こんなんでも、こいつの護衛騎士なんでね。お嬢様に害を成す奴は切り捨てる義務があるって訳」


「そうですか」


サイモンは切っ先をシオンに向けて威嚇するが、彼はどこ吹く風だ。焦る様子を全く見せず、弁明もしようとしない。


「‥‥‥悪く思うなよ!」


敵だと判断したのだろう。サイモンはいよいよ彼に切り掛かった。

このままでは、まずい。

そう思った私は、とっさに叫んだ。


「待ちなさい!彼は、アデルのお兄さんなのよ!!」


「は?」


その時の顔の間抜けさと言ったら、まあ。シオンのクスクスという笑い声が辺りに響く。説明する気はないようだ。


私は仕方なく、サイモンに全ての事情を説明した。



「なるほどな」


私が説明を終えると、納得とばかりにサイモンは頷いた。


「まったく。勘違いしやすいことするなっての。それなら、普通に屋敷に呼んで話せばいいじゃねーか」


「それは、悪かったわよ。でも、アデルはこのこと、反対してるから。気まずいなって」


少しだけ反論すると、サイモンは、私の頭をくしゃっと撫でた。


「分かったけどよ。‥‥まあ、アデルの兄貴なら信用出来るし、アデルにも上手く言っておくから」


「‥‥‥本当?」


「任せとけよ」


それは、頼もしいし、有難い。


「でも、明々後日は、俺も行くからな。いいよな、アデルの兄貴」


「はい。大丈夫ですよ」


サイモンが念を押すと、シオンはあっさりと頷いた。こうして、私とサイモンとアデルの兄という謎のメンバーで出掛けることになった。



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