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23 騎士を目指した理由




「キメェわ!!」


あれ???


「え?どういうことかしら?」


「そのままの意味だよ。変態。毎日毎日変な手紙送りつけやがって」


「へ、変って‥‥」


そんな。あれが変だと言うなら、私は中村さんになんてものを送ってしまっていたの‥‥サイモンに何思われてもダメージはない。が!中村さんに引かれてたと思うと‥‥はうっ無理だ。


「よくあんな量、飽きもせずに書くよな。しかも、全部違う内容だから、脅威を感じる」


「あ、読んでくれたのね!」


読んでくれたことが分かって、ちょこっと復活。捨てちゃう人もいるだろうけど、なんだかんだと真面目なサイモンなら絶対読むだろうと踏んでいた。

しかし、私の反応に、サイモンはブチ切れた。


「読みたくて読んだわけじゃねーよ!あまりに長いから、哀れに感じて読んでやっただけだっつーの!もう送ってくるなよ!」


「え?まだ、原稿用紙50枚分近くあるのだけど‥‥」


「ま、まだあるのかよ‥‥」


サイモンは一歩距離を取るように、後ろに下がった。

おかしいな。なんで、私がサイモンから避けられなきゃならない訳?私が一歩近づくごとに、サイモンは一歩下がっていく。しかも、扉の方へ。こいつ、帰ろうとしてやがる。

このままじゃ、作戦が失敗じゃない!!


「ねえ」


「俺は、帰るからな」


「じゃなくて」


「止めても無駄だから。俺だって暇じゃねーんだよ」


「うん。そうだけど‥‥」


「とにかく!あのくそ恥ずい手紙、二度と送るんじゃねーよ!」


「‥‥‥」


そのまま、サイモンは回れ右をして、帰ろうとしたのだが。


「おや、うちのお嬢様に暴言を吐くだけ吐いて帰るなんて、無礼だとは思いませんか?」


扉の前では黒い笑みを浮かべたアデルが、サイモンの行く手を阻んでいた。その禍々しいオーラに再び後ずさることしか出来ないサイモン。


「‥‥‥」


「お忘れのようですが。ケイト様は、サイモン様の目上の身分なのですよ」


「‥‥‥‥」


「お茶でも、飲んで行きませんか?」


サイモンは、黙って2回頷いた。よくやったわ。アデル!!





⭐︎⭐︎⭐︎





こぽぽぽぽこぽ、と紅茶が陶器に注がれる耳心地のいい音がする。アデルがそれを私と、サイモン(少し乱暴に)の元に置いた。

それを静かに飲み、お互いの様子を探り合う。とはいえ、サイモンは何も話す気はないだろうが。


「ねえ、あなたは何故、家督相続に拘るのかしら?」


「単刀直入じゃねーか」


ごほんごほん。仕方がない。だって、変に遠回しに聞くと、嫌な感じするんだもの。


「ほんと、お前はバカなところ小さい頃から変わってねーよな」


しかし、そう言われて、私の闘争意識のスイッチが入った。言うなれば、今世の私が出てきた感じ。


「その言葉、そのまま返すわ。いい年して、親とガチ喧嘩とか恥ずかしくないの?」


「はあ?!」


「”何が違うって言うんだよ!!”とか、”少し、頭冷やしてくる”とか言ってたわよね」


サイモンは口をパクパクしている。あの時の言葉、何かに使えると思って記憶していてよかった!大変だったけどね。

私はニヤニヤと笑って、サイモンを煽った。


「あー、恥ずかしい。いい年して、何カッコつけちゃってんの?」


「うるっせー、‥‥よ‥‥‥」


きづくと後ろでアデルが立っていた。その顔は穏やかだ。でも、何故だろう。彼の持っているポットが、何故か攻撃力の高い武器に見えるのは‥‥


「どうされましたか?」


「いや‥‥」


サイモンが目を逸らすと、アデルは私に目配せをした。

目的を忘れてませんか?と口パクで言われた。アデルの目が笑っていない。

よし。仕切り直しだ。


「それで、あなたは何故、騎士に拘るのかしら?」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


長い沈黙が流れた。その間、サイモンは紅茶を飲んだり、明後日の方向を向いたり、無言の抵抗をしていた。が、私たちも彼をじっと見つめつづけ、無言の攻撃をした。

それが、30分つづいた。

すると、ある時、サイモンが溜息をついて口火を切った。


「昔の話だけど。俺、山で遭難したことがあるんだ」


よっしゃあ!勝った。という顔は一ミリも見せずに、神妙にサイモンの話を促した。


「あれは、スティール家伝統行事、耐久!山籠りチキチキレースの際だった‥‥‥」


山籠りチキチキレースって、何‥‥‥?怖いから聞けない。とりあえず、そこにはツッコまずに、サイモンの話を先に促した。


「その時に、俺は、山で道に迷ったんだ。その時、運悪く、大熊に遭遇したんだ‥‥‥」


「‥‥‥」


「もちろん、この山籠りは競争なので、家族は誰も誰も助けてくれない。そんか絶望的な状況の中で、俺を救ってくれたのが、ちょうど同じ時期に山へ訓練に来ていた王宮騎士団の騎士だった」


いや、助けろや。そう思うが、伝統行事だそうで、それはあり得ないらしい。それで生き残らなければ、有事の際に、足手纏いになると。

昔ながらの体育会系だなあと思いつつも、彼の話を聞く。


「自分の倍の体長はある熊をいともたやすく倒したのを見て、俺は思ったんだ」


「‥‥‥‥‥」


「かっけー、と」


ああ、サイモン。単純だから‥‥‥


「それに、せっかく助けてもらった命だ。やっぱり、騎士となって、誰かのために使いたい」


なるほど。サイモンにそんな背景があったとは知らなかった。

その精神は、素晴らしい。私も見習わなきゃなって思う。思うけども。

私は立ち上がり、サイモンのところへと歩み寄った。


「思い上がりも甚だしいわね」


「は?」


私は彼の胸元を掴み上げた。こういうことが出来るのは、幼なじみという距離感ゆえである。


「あんたねえ!声優が命を救わないなんて思ってるのか!!」


「だって、あれだろう。手紙で読んだけど、役者みたいなものだろう。それが何を救うんだよ」


私の愛する「声優」を愚弄するなっての。

確かに、騎士は立派な仕事だ。直接的に人の命を救うから。


でもね、声優は世界を救うと私は思ってる。


ただの声。されど声。

それで、明日、生きる勇気をもらう人が確かにいる。命を繋ぐために、絶対必要なものではないけれど、それでも救われる人はいる。

‥‥‥かつての、私のように。


けれど、それを言葉にするのは何故だか難しくて。


「この仕事を舐めないで頂戴」


それしか言葉にすることが出来なかった。


「意味わからねえよ」


「そう、よね‥‥」


私たちは沈黙する。私は、何を言うのが彼に響くか分からずに、口を開かないでいた。

このままでは、彼が帰ってしまう。そう、焦り始めた時‥‥


「それでは、サイモン様」


アデルが、一歩前にでた。


そして彼は、剣を片手に人差し指を指した。自信ありげに微笑むその姿は、恭しく、色っぽく、危うかった。


「僕と、決闘するのはどうでしょう」



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