21 再会と作戦会議
「あの時は、ありがとうございました!!!」
勢いよく頭を下げ、そしてあげた、その女性は物凄い美人だった。薄い茶髪を後ろで結んでいるラフな格好だが、それでも美しい顔立ちをしているとよく分かる。凛々しい眉毛に、ぱっちりとした目。薄い唇、細い体。その立ち姿は、美しくかっこいい。
「あの?」
思わず見惚れていると、彼女は不思議そうな顔をした。しかし、その顔に見覚えはあるものの、彼女を助けた覚えなどないのだ。
「えーと。私は、貴方を助けた覚えは‥‥」
「あの、公爵家でのお茶会の時の‥‥」
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥?
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ああ!
公爵家の茶会で、モブ1の男に絡まれていた女性か!
「いえ、あの。私は何もしていないので」
そもそも、私があの男に余計なことを言わなければ、ああはならなかったことだし‥‥
「いいえ。あの日、見て見ぬフリをする人ばかりで、助けてくださる方はいませんでした。本当に心強かったです。ありがとうございます」
そう言って微笑む姿の、可愛らしさよ!天使と話しているのかな?というか、今の顔絶対見覚えがある。けれど、それはこの間のお茶会ではない。どこだろう?
「あの、貴方のお名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。私は、リアム・テクニアルと申します」
その瞬間、記憶が雪崩のように押し寄せてきた。そうだ。忘れていた。彼女は、乙女ゲームの登場人物だったはずだ。個別ルート・騎士団編で、王宮騎士団の紅一点として活躍する、リアム。
そうだった。忘れていた。
「貴方様は、ケイト・サザンジール様ですよね?どうぞ、私のことはリアムと呼んでください」
「ええ。じゃあ、私のこともケイトと呼んで頂戴」
「はい」
かーわーいいなあ。もう。大人っぽい声で、破壊力抜群の可愛いことを言ってくれるんだもん。
お姉さんなでなでしたい。でも、この世界では、私の方が年下なんだよね。なでなでしたら、変かな?でも、精神年齢は上だからさ‥‥
と、ほっこりしていると、後ろからアデルが彼女に声をかけた。
「それで、我々に何か用があるから声をかけたのですよね?」
「え?」
そうなの?とリアムを見ると、彼女は気まずそうに頷いた。
「はい。実は、そうなんです」
彼女は再び、頭を下げた。
「お願いします。サイモンを助けてくれませんか?」
「た、助けるって‥‥」
私が言うと、リアムは「少しだけ私の話を聞いてもらえますか」と前置きした。私達が頷くと、彼女は口を開いた。
「サイモンは、私の弟のような存在なんです」
あ、それ知ってる。確か、リアムは遠縁の親戚でスティール家に奉公に出されたんだよね。同じ年代のリアムとサイモンは、姉弟のように育てられたんだった。
「このスティール家を継ぐ長男として、サイモンはずっと厳しく育てられてきました。お陰で、彼は通常の騎士よりも優秀な成績を収めています。けれど、当主を継ぐほどの力は残念ながらありません。それは、誰よりも本人が痛感していて‥‥」
彼女は、それでも彼が騎士という仕事を好きならばいいのに、と目を伏せた。
「しかし、彼は本来、語学の勉強をする方が好きで、騎士として当主になりたい、というのは幼い頃からの刷り込み‥‥彼の中でそれ以外に選択肢はないと思っているからなのです」
それを察したスティール伯爵が彼に当主以外の道を示そうとしているのだけど、あのように口喧嘩になってしまい、中々うまくいかないそうだ。まあ、サイモンも意地っ張りな性格だしさ‥‥
「私は、ケイト様のつくろうとしている仕事は何か分かりませんが、それが彼の選択肢になり得たらと思います」
「なぜ、よくわからない職業なのに、そんな風に言うことが出来るのかしら?」
私はずっと疑問に思っていたことを口にした。すると、なんだそんなこと、と彼女はふわりと笑った。
「それは、あの時貴方が助けて下さったからです」
「‥‥‥‥」
「そんな人が悪いことするわけがないと思うからです」
と、その時。私たちが話し合っていた部屋の扉が開いた。
「私からもお願いしたい!」
「伯爵?」
そこには、伯爵、サイモンの父がいた。
え?いつから聞いてたんです??
「サイモンに私の跡を継がすつもりはない。だが、サイモンはそれを拒否している。幼なじみのケイト嬢だからこそ、あいつの心を溶かすことも出来るだろう。お願いだ」
いや、いつから聞いてたんです?もしかして全部ですか?いや、さっき私も立ち聞きしてたから、人のこと言えないんだけどさ‥‥
「この通りだ!どうか。どうか、お願いする!!」
手を合わせて頼まれてしまう。それに、私の目的と合致している。断る選択肢はないだろう。
「分かりました。やってみます。けれど、得体の知れない職業に誘っちゃって大丈夫ですか?」
「君が、何か不利益になるようなことはしないだろう」
スティール家の私の信頼感とは。まあ、父と提携しているから、私も変なこと出来ないのは事実。だからこそ、こちらも強引なことも出来るんだけどね。
「サイモンを説得するためには、どうしたらいいですかね?」
まあ、とりあえずサイモンをよく知る人に聞くが1番よし。私も失敗しているし。プランは、よく知る家族が、そして実行は他人が。このコンビネーションでいけば、うまくいくはず。
「それなら!そこの君が決闘を申し込めばいいではないか!」
あ、だめだ。その場の全員が思った。
それがスティール家流なんだろうけど。こっちが負かしたとしても、プライドずたずたでしょう。そんな相手と仕事したくないでしょう。サイモンがグレるよ。
しかし、こちらの思いを知らずに、伯爵は顔を輝かせた。
「見たところ、中々の手練れ。うちのサイモンといい勝負だろう」
「いえ‥‥大したことないので」
言葉を濁すアデルに、ぐいぐい迫る伯爵。お、おじ攻め??いやいや、そこは違う。
やっぱり力で屈服させるのは、よくないと思うのよね。こういうのは、暴力よりも言葉で説得したい。それこそー‥‥
「いいことを思いついたわ」
「?」
「?」
「私に、とある作戦を実行させて頂いてもよろしいでしょうか?」




