表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/60

20 ケイト、壁ドンをする




伯爵に「サイモンは訓練場にいるだろうから」と言われて、私とアデルはその場所へ向かった。

案の定、彼は訓練場で、一人で模造刀をふるっていた。着替えもしていないので、つけていたネクタイが所在なさげに揺れている。集中をしているためか、訓練場に入ってきたこちらに気づく様子がない。


「どうしますか?」


「そうね‥‥どうしましょうか」


「質問で返さないで下さい」


「私だってこの状況をどうすべきか分かんないのよ」


私たちはコソコソと要領を得ない会話を繰り出す。結構、それなりの声量で話しているつもりなのだが、それでもサイモンは気づかない。もしかしたら、スティール家では大声で話す習慣でもあるのかもしれない。先程の状況を鑑みても、騎士団として働いている点から考えても、全然あり得る。


「大きい声で呼びかけてみようかしら」


「驚きませんかね?」


「いや、寧ろそれが正常なのではないかし‥‥‥」


「おい、何追ってきてんだよ」


と、突然後ろから話しかけられた。振り向くと、サイモンの姿が。私たちの声に気付いたのだろう。挑発的な態度に、私は臨時戦闘態勢に入った。


「なにかしら?文句でも?」


「てめーが追ってきたら、婚約まで丸め込まれるかもしれねーだろうが」


「そんなの。既に、『そうならない』ように説得済みよ」


「信用できねー。そもそも、頭の悪いお前にそんなこと出来んのかよ」


「頭が悪いのは、あなたの方で‥‥」


それ以降は、言葉が続かなかった。後ろから、アデルが私の肩を引いたからだ。いつもよりも笑みが深い。黒いオーラが見える気がするのは、気のせいだろうか。


「ケイト様。そろそろ本題に移られてはどうですか?」


「そ、そうね」


サイモンは、怪訝そうに眉を寄せる。


「あのね。私、今日はあなたにお願いがあってきたのよ」


「結婚はしねーぞ?」


「するかっての」


私は、ゴホンと咳払いをする。


「とにかく、あなたにしか頼めないことで‥‥」


「俺にしか、頼めないこと?」


その時、サイモンはハッと自嘲的に笑った。


「俺に何が出来るって言うんだよ。誰よりも劣っている俺に」


「いや、そういう話ではなくて‥‥‥」


「だったら!」


サイモンは声を荒らげる。その音量に、私は驚いて、言葉を止めた。


「だったら、俺になんの価値があるのか教えてみろよ」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「ほら、言えないだろう?そもそも俺たち仲良くもなんともねーしな」


じゃーな、と言ってそのまま訓練場を出て行こうとする。彼自身複雑な感情はあるのだろう。こちらの話を聞こうともしない。家督相続問題でいろいろ揉めているのかなんだか知らないけど‥‥‥


ちゃんと話は聞けっての!!


気づけば、私はサイモンのネクタイを引っ張り、彼が逃げられないように壁に押し付けていた。


「?‥‥‥‥‥?!」


サイモンは、状況が分からず、混乱した顔を見せている。


「あのね。あんたのいいところなんて、悔しいけど、沢山あるのよ」


「はあ?だったら、言ってみろよ」


彼の言葉に、私はニヤリと笑う。後ろで、アデルが「きましたね」と呟くのがかすかに聞こえた。


「そんなの、あなたの声に決まってるじゃない!!!」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はあ?」


「あなたは、その性格に似合わず。いいえ、その性格だからこそ逆に映える声を持っているのよ!」


「おま‥‥何言って」


「あなたの声が好きな人が沢山いるのよ!それこそ蹂躙されたいって言わしめるくらい」


「お前、とうとう頭がおかしくなったんじゃないか」


サイモンは、恐怖の顔を見せた。本気でドン引きしているようだった。実に心外である。


「おかしくなんてないわよ!私ね、あなたの声を使った職業を新しく作ろうと思ってるの!その依頼をしに来たのよ」


私がそう言うと、サイモンは顔を歪めて口を開いた。


「馬鹿にしてるのか?!騎士の才能がないからって、お情けでそんな職をもらったって嬉しくねえぞ!」


「お情けなんてあり得ないわ!だって私、あなたのこと嫌いだもの!!」


「ああ、俺だって嫌いだね!大嫌いだ」


「それでも、あなたの声だけは好き!!」


「なんだお前?!」


本格的にサイモンが引いている。私だって、意味が分からない。目黒さんの声は滅茶苦茶好きだったけど、その声が大嫌いなサイモンのものになってるなんて。もう、すごくムカつく。ムカつくけれど、好きなものはすきなのだから、仕方ないじゃないか。


「とにかく、俺はお前の頼みなんか聞かねーからな」


そう言いながら、サイモンは今度こそ訓練場を出て行ってしまった。

これ以上追うのは忍びなくて、私たちは顔を見合わせた。アデルは上機嫌に口端を上げており、とても楽しそうだ。


「お見事でした。ケイト様」


「どこがよ。全然だったじゃない」


「奮闘されるお姿は大変おもしろ‥‥‥いえ。可愛らしかったですよ」


「馬鹿にしてるわよね?」


面白いって言ってる。絶対に馬鹿にしてる。悔しいがしかたない。とりあえず、帰って、もう一度作戦を練り直そうということになった。2人で訓練場を出て、外で待機してて下さった侍女の方に、帰るという旨を伝える。そして、馬車に向かったのだが‥‥‥


「あの!」


途中で、後ろから女性に呼び止められる。色素の薄い茶髪を一つに纏めており、ボーイッシュだが、非常に美人だ。


「あの、ケイト様ですよね?」


「はい。そうですけど‥‥」


私が答えると、彼女は勢いよく頭を下げた。


「あの時は、ありがとうございました!!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ