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13 用心深い男





「こうすればいいのよ」


私は勢いよく扉を開けた。一気に光が差し込み、目の前が一瞬暗くなり、立ちくらみがした。

しかし、それでも立ち止まらずに、私は魔法を発動させた。魔法を発動させる時は、体に力を入れる。そして、どのようなことをしたいのか、イメージをするのだ。

私の魔法は、青の魔法。水を具現化し、氷を出現させ、風を起こす魔法。

青い魔法陣が現れ、私の周りからふわりと僅かな風が上昇していく。

そして、それを目的の場所まで流し、執務室に続く廊下沿いにある絵画を次々と落としていった。


「おい!絵画が‥‥!」


「やばいだろう!あれいくらすると思ってるんだよ!」


急な現象に、警備していた者の慌てた声が響く。そして、執務室前から立ち去るのが見えた。少しの時間だが、彼らは執務室に背を向けた。


「さ、行くわよ」


「はい‥‥」


アデルが鍵を差し込み、ロックを解いた。

音を立てないよう、ゆっくりとドアノブを捻る。カチ、と僅かに音がなるが、そのまま部屋に入ったのでバレていないだろう。

部屋に入った途端、薬品と植物の混ざった匂いが漂ってきた。その部屋の中は‥‥


「う、わ‥‥」


部屋の中は、そう。雑然としていた。

学術書のようなものが無数に散らばり、本はそのまま積まれている。目にしたことのないような植物が、至る所に置かれていた。カーテンは開け放たれており、光の粒が植物たちを照らす。それが、この部屋を幻想的に見せていた。

そして、私は一つのものに目を止め、目を見張った。


「え?これって‥‥」


「ああ、”顕微鏡”ですか?」


「けんっっっ」


びきょう、って。あの顕微鏡?!思わぬことに、変な声が出てしまった。

微小なものを見ることの出来るあの顕微鏡だよね?この世界に、そんな技術があったなんて。


「珍しいですか?確かに、最近出来たばかりなのであまり普及はしていませんが‥‥」


「いえ、まあ、そうね。それよりも探しましょう」


珍しいことではないかもしれない。確か、地球において顕微鏡が完成したのって16世紀だったはずだ。このゲームが、どの時代を舞台に作られたのかは分からないけれど、このくらいの文明なら全然あり得るはずだ。

自分を納得させて、探しにかかろうとしたのだが。次に、私は取手がついた茶色いものに目がいった。


「あれ‥‥これって」


「ああ、”通話機”ですね」


「でんっっ」


電話って!それもう19世紀の話じゃないですか!というか電話がレトロでお洒落なんですけど!!


「これは完全に珍しいですね。発明自体、一部の人しか知らないはずですが‥‥」


「いえ、もういいわ。何も驚かないもの」


私は諦めて、アデルの説明を阻止した。この世界の文明が意外と高かったことにショックを受けているだけなので。

ゲームの設定にそんなことあったか、と考えるが思い出せないので、とりあえず思考を中断させる。

それよりも、早くリストを探さなければならない。


「どこにあるかしら?」


「数カ所目星はつけてあります。執務机か、1番小さな棚の2段目ですね」


「じゃあ、あっという間ね」


「いえ。鍵がついてますので」


「え?」


‥‥‥まーじーでー。無理じゃんか。

あまり痕跡は残したくないし、壊すのは最終手段だと思う。


「本物の鍵はご本人が持っていますが、スペアの鍵はこの部屋のどこかに隠されているはずです」


ということで、まずは手分けして鍵を探す。が、何ぶん雑然とした部屋だ。何かを動かすと、積まれた本が倒れてきそうで恐ろしい。この部屋が散らかっているのは、部屋荒らし防止の為なのではないか、と疑ってしまうくらい。

鍵のかかっていない引き出しを開いたり、机の下を覗いてみたりと、しばらく鍵の在処を探ったが、中々出てこない。


「そろそろ、まずいかもしれないですね」


「何が?」


「帰ってくる可能性があります」


流石に鉢合わせになってしまうのは、まずい。それでも、鍵を壊すのはあまりしたくない。

乙女ゲームを思い出せ。リーフレットに手掛かりとなることは書かれていなかったか。

ルーク・ビリアン。19歳。O型。好きな食べ物はレモン。嫌いなものは、人間。大切なものは、植物たち。植物は裏切らないが座右の銘。利用できるものはなんでも利用する。几帳面な性格であり、用心深い。重要なことは、手元に置いておくことが原則。


私は少し考えてから、アデルに話しかけた。


「‥‥レモンの鉢植えってあるかしら?」


「ありますよ」


アデルが指差した方向には、緑の葉を生やした幹の細い木があった。近くで眺め、土などを軽く掘るが、怪しい場所はない。

私は少し考えてから、アデルにこの鉢を持ち上げるように頼んだ。

私はかがみ、鉢の裏を見せてもらうと‥‥


「あった‥‥」


私はそれを取り、早速、棚の引き出しの鍵穴に差し込んだ。が、それが開くことはなかった。次に、執務机の鍵穴に差し込むと、かチャリという音が聞こえた。引き出しを引くと、開いた。


「あるかしら?」


「‥‥‥」


その中には、一寸大の小さな箱があるだけだった。ガックリと肩を落とす。もう一つの棚のほうにあるみたいだった。また、鍵から探さなければならない。

私が落ち込む一方で、アデルはその箱を取り出し、開いた。


「ありましたよ」


彼が、その中身を差し出してきた。そこには、小さな鍵があった。


「すごい!この机は、あの棚の鍵の隠し場所だったのね!」


「本当に用心深い方だ‥‥」


急いで鍵を受け取り、棚の鍵を開ける。先程のアデルの発言からして、時間は、僅かしか残されていないだろう。1分1秒も惜しい。

棚を開くと、そこには書類がいくつか入っていた。その奥に、「NBリスト」というものが。Bとは、「bribe」(賄賂)の、Nとは「Noble」(貴族)のイニシャルだろう。


「やった!これを持っていけばいいのね!」


その時、ガチャリ、と後ろから音がした。アデルが何かを開いたのかと、後ろを向くとそこには‥‥


「どうやら、俺の部屋に害虫が入り込んだようだな」


そこには、ルーク・ビリアンの姿があった。



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