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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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702/703

それぞれのその後 2

安宅丸あたかまる大越ダイヴィエットのクニヨン港に帰って来る。この港は沈香じんこうなどの香木の産地だった。

そこで安宅丸は支店を設け、地元の住民が持って来る香木を購入していた。


運び込まれた香木の価値を鑑定するのが、盲目の鑑定士、菊丸だった。菊丸は応仁の乱で親を亡くし、安宅丸に拾われてここにいる。


 安宅丸が支店で旅装を解き、隣接している二間続きの小庵に行く。

「菊丸、帰って来たぞ」そう、声を掛けた。香木の目利きをしていた菊丸が振り向いて微笑む。


「おかえりなさい、安宅丸。この度は、何日くらいこちらにおられるのですか」

「もう、どこにも行かない。おつとめは終わりだ」

「そうなのですか、それは、それは、長年にわたるお勤め、お疲れ様でございました」

「うむ。そうだな。思えばずいぶんと長いこと働いたもんだ」安宅丸が言った。

 十六歳の時、堺の片田順のもとに自分の作った舟を持ち込んだとき以来、片田商店で働いてきた。もう、五十年にもなる。


「それでは、お祝いをしなければいけませんね」菊丸がそう言って立ち上がり、障子しょうじを引いていおりの空気を入れ替える。


 障子を閉めた菊丸が香炉の前に座り、抽斗から香木の欠片かけらを出して、銀葉ぎんように載せて、炉にかけた。


「ん、これは相当良い香ではないか」安宅丸が言う。

香名を言い当てることはできないが、安宅丸も香の良し悪しくらいは分かるようになっている。

「わかりますか。蘭奢待らんじゃたいです」菊丸が言う。

「このようなものをいてしまってもいいのか」

「いつか、安宅丸が帰って来た時のため、欠片を少し取っておきました。犬が加えていった香木です。覚えていますか」




茸丸たけまるが所長室で、シイタケ煎餅せんべいかじりながら茶を飲んでいる。


「所長~っ、ちょっと見て欲しいもんがあるんですけど」朝倉あさくら村の夏実なつみが入って来る。

 除虫菊じょちゅうぎくを特定した研究員だ。


「今度は、なにを見つけたんだ」

「所長、ちょっと来てください」


 二人が大部屋の共同研究室に行く。

「所長、ラディッシュって知っていますか」

「西洋から来た、小さなダイコンだな。二十日から三十日で収穫できる」

 ハツカダイコンとも言う。

「そうです、そうです、赤とか白とか、色々な色の根が膨らんでいます」

「ラディッシュがどうした」

「赤いラディッシュと白いラディッシュを掛け合わせたら、何色のラディッシュが出来ると思いますか。赤カブの花粉を白カブの雌蕊めしべに、白カブの花粉を赤カブの雌蕊につけました」


「何色って、赤と白だから、桃色になるか、それとも赤と白と、半々できるかな」

「あ~っ、そうですよね。どっちだと思います」

「どっちか選ぶのか」

「そうです」

「それじゃあ、桃色だ」

「桃色ですね、それでいいですか」

「いい」

「何か、けますか」

「何かって、何も持っていない」

「所長は手に『おせんべい』を持っていますよ」


 茸丸が、うっかりシイタケ煎餅を持ったまま、やって来ていた。

「いいだろう。これを賭ける」そういって、煎餅を前に出した。


「ざ~んねんでした。所長の負けです。そう言って茸丸の手から煎餅を取り上げる。


「一カ月ほど前にやったとき、できた百個のラディッシュの色はこのようになりました」夏実が一枚の紙を取り出す。

 そこには百のマス目があって、それぞれ色が塗られていた。


「なんだ、全部赤じゃないか」

「そうです、多少色に濃淡はありますが、全部赤です」

「赤になるという性質の方が、白になるという性質より強いのか」

「どうも、そのようです」

「なるほど、そういうものか」


「で、ここからが本当の問題です。『おせんべい』を取り返せるかもしれませんよ」夏実が言った。

「どういうことだ」

「この百個の赤いラディッシュを『第一世代』と呼ぶことにしましょう」

「よかろう」

「この『第一世代』の種をいて出来た『第二世代』のラディッシュは、何色になるでしょう」


 夏実がニタニタ笑いながら、茸丸の顔をのぞき込んだ。


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