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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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一九八八年

 意識が戻る。石畳の上に横たわっているのを感じた。

 外山とびの村の古墳こふん玄室げんしつだろう。石の冷ややかな感触とかびこけのにおいがする。

 まぶたを開くと羨道せんどうの先が明るい。


 古墳の外に出て振り返ると、やはり『片田大権現だいごんげん』だった。『茸丸たけまる』と『いと』が、元に戻したのだろう。

 しかも、前回現代に戻った時は苔むしていたが、今回はやけに立派になっていて、清掃も行き届いている。


 溜息をつきながら、粟原おおはら川沿いを下る。


 すでに三回、現代と室町時代を行き来している片田は、おおよその年代の見当がついている。

 まず一九四三年のニューギニアから一四四九年の大和国に飛んだ。そして、そこで二十四年ほど過ごして、一四七三年に二度目の移動があり、一九六六年のニューギニアに帰って来た。


 これで二つのことがわかる、室町時代で二十四年過ごして現代に帰って来ると、ほぼ同じ二十三年間の時間が過ぎているということが一つ。

 そして、もう一つ。最初に飛んだ地点、つまりニューギニアに戻るということだ。

 二回目に過去へ飛んだ時には、外山から外山だった。


 今回はポルトガルから大和に飛んだ。未来から過去、過去から未来、と移動した方向は違うが、たぶんもう一度過去に飛んだ時にはポルトガルに戻るだろう。想定どおりにならなくとも、外山の村の玄室に戻るのならば、それはそれでよい。


 もう一つ、重要なことが解っている。

 一四七三年の室町時代から一九六六年に現代に戻って来た。そして、約一年と半年を現代で過ごし、二度目に室町時代に戻った時には一四八八年に降りた。その差は十五年だ。

 つまり現代で過ごした時間の十倍もの時間が過ぎていたのだ。


 この一回だけしか試していないので、確かなことは言えない。しかし、現代で一年過ごした後に過去に戻ると十年が過ぎているかもしれないということだ。

 なので、片田はシンガやジョアン・フェヘイロに、いつ戻るか言えなかった。


 たとえば、現代で十日過ごしてから、過去に戻れば百日が過ぎていることになるかもしれない。

 そして、それほどの日数が過ぎていないかもしれない。これは、いまのところ分からないのだ。


 一四八八年の室町時代に戻ってから、二十年が経っている。なので、片田が今いる現代は、二十年が経過した一九八八年あたりに来ているだろう。

 最初に分かっていることから、そう推測している。


 ポルトガルのシーネスの浜辺から片田が消えた。しばらくポルトガル兵は周囲を探し回るだろう。そして、それが落ち着くのにどれくらい、かかるだろうか。

 三十日も過ぎれば、警戒はゆるむだろうか。現代で三日、いや必ず十倍の時間が過ぎるとはかぎらないので五日も過ごしてから過去に戻ればいいのではないか。


 そう、片田は思っていた。


奈良盆地が見渡せるところまで来ると、以前とは異なる景色が広がった。

 盆地の中央あたりには、いくつもの高層ビル群がある。まるで写真雑誌で見たマンハッタンのようだった。


 日本で高層ビルがつくられるようになったのは、一九六五年からだ。最初の高層ビル、『霞が関ビル』が竣工しゅんこうしたのが一九六八年だった。

関西に住んでいた片田は見たことがない。わずか二十年で、これほどまでに変わるのか、そう思った。


 そして、高層ビルの上空に、なにやら飛行船のようなものが見えた。飛行船ならばラグビーボールを横たえたような形をしているが、これは六十度位にも傾いている。

 そして、こちらに向かってきながら、同時に上昇しているように見える。かなりの速さで空へ昇っていき、消えた。

“不思議なものだ”


『桜井』の町に出て、最初に見つけた銀行に入る。銀行の壁に懸けられたカレンダーに目をやると『昭和六十三年』と印刷されていた。

“よし、一九八八年だ。思った通りだ”

 片田のような昭和初期の人間にとっては、昭和十五年と二十五という数字がマジック・ナンバーになる。

 昭和十五年に二十五を足すと四十だ。それが西暦になる。一九四〇年だ。

 さらに昭和十五年は、皇紀こうき二六〇〇年の祝賀の年だった。一九八八年ならば、差の四十八を足して、皇紀二六四八年と暗算できる。


「いらっしゃいませ、本日はどのような御用ごようでしょうか」窓口の女性が声をかける。

 片田が背負っていたリュックサックを降ろして、中から帯封おびふう付きの一万円札の札束を一つ取り出す。一束で百万円になる。

 ポルトガル兵が片田のリュックサックを探った時、『なにかの紙束かみたば』と思ったのは、これだった。彼らは紙幣を知らない。

 片田が前回に現代にいたとき、リュックサックの中に入れておいた。もう一度現代に戻った時に必要になるはずだからだ。


「この紙幣は、現在でも使えますか」片田が尋ねる。聖徳太子の一万円札だった。

「少々お預かりしてよろしいでしょうか」女性がそう言ってトレイを差し出す。片田がその上に札束を置いた。

 窓口の女性が何か小さな装置を札束の上にかざす。そして脇の画面を見て言った。

記番号きばんごうからすると、昭和四十三年頃に発行された紙幣のようですね。本物です。ええ、現在でも使用できますよ」そういって微笑む。

「最近の事にうといのですが、これだけあれば桜井市内のホテルに何日くらい宿泊できるでしょうか」片田が尋ねる。

「さて、ご存じのとおり、物価高ですから、最近だと一日くらいでしょうか」


「一日ですか」片田がうめきながら言った。残りの四日は玄室で野宿するのか。



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