軽迫撃砲 (けい はくげきほう)
観測機からの報告で、『第一戦隊』を取り囲む霧が、南北に延びるジブラルタル・ロックを東の一辺とした、五キロメートル四方ほどの局所的な気象だということがわかった。
「では、司令。霧の外に出ますか」旗艦『金剛』艦長の金口三郎が尋ねる。
一海里半程も西に移動すれば濃霧の外に出ることができる。
「いや、霧の外に出たところで、城も市街も視認できないであろう」そう言って片田が上空の『銀丸』に尋ねる。そのとおりだ、という答えが返ってきた。
片田がしばし考え込む。
「局所的な霧だというならば、午前遅く、ないしは昼までには霧が引くだろう」片田が言う。船乗りであるならば、誰でもそう思うだろう。
「どう思う。霧が晴れる時、上からか、下からか」
「太陽が上昇するとともに、太陽光の当たる部分の気温が上がって来るでしょう。霧は上から晴れそうですな」艦長の金口三郎が言った。
「おそらくそうだろうな」これは、片田。
片田が観測機の銀丸に向かって言った。
「燃料は十分にあるのか」
「まだ飛び立ってから十五分もたっていない。あと二時間以上は飛べると思う」
「よし、ならば湾内で、濃霧の及んでいない地点、加えて『ムーア城』が観測できる地点に着水して待機せよ」
「何を待機するんだ」
「ジブラルタルの濃霧はしばらくすると晴れるはずだ。おそらく、山上から下に向けて晴れる」
「そうなのか」
「ああ、湾内で待機して、『ムーア城』が霧の外に頭を出したら知らせろ」
「わかったよ」
銀丸は軍人ではないので、言葉使いが少しくだけている。
『ひばり』が湾内で旋回しながら観測機を降下させる。対岸のアルヘシラス沖に着水し、機首を北に向ける。
エンジンを止めると、急に静かになった。湾内の海面は油を引いたように滑らかだ。
ちょうどジブラルタル・ロックと、その上の雲の塊から太陽が顔を出したところだ。
低い角度で陽光が射し込む。海面に反射して金色の道ができている。その先、岩山の影に『ムーア城』があるはずだった。
『港』地区の南東の隅。
高山次郎五郎が新藤小次郎と簡易無線機で会話している。
「敵は『旧市街』地区との間の通路から射撃してくる。防壁と狭間の間から撃ってくるので小銃では制圧できない」
「その通路を押さえなければ、『第一軍』の『港』地区入城ができない、ということか」新藤小次郎が言う。
「できないわけではない。スペイン兵は火縄銃を使っているので、射撃間隔は一分以上だ。ただ、無駄に被害を出すことになる」
「なるほど。で、なにが必要なんだ」
「歩兵用の軽迫撃砲だ。あれならば曲射なので、城壁背後の兵に使える。相手との距離が三十から六十メートルぐらいだ」
「軽迫か」
すでに階段を登った先の城壁通路の偵察は終わっていた。そこは『旧市街』と繋がってはいない。なので、敵兵が攻めてくる心配はなかった。
しかし、いま敵兵が銃を撃ってくる城壁と、ほぼ同じ高さだった。見おろして攻撃することができないことも分かった。
「ああ、発射筒二門、砲弾百発もあれば傾斜路を制圧できるだろう」
たしかに、迫撃砲のような曲射砲であれば、砲弾が頭上から落ちてくるので、城壁の向こう側にいる敵兵にとっては脅威だ。
「『第一軍』は持って来ていないのか」小次郎が尋ねる。
「確認した。持っていないそうだ。艦からの迫撃砲攻撃が前提だったからな」
「そうか、しかし、どうやって手に入れる」
「『第一戦隊』の砲艦に陸戦隊用の軽迫があるだろう」次郎五郎が言った。
「それはあるだろう。しかしこの濃霧では砲艦が港付近に接近するのは難しい。座礁してしまうかもしれん」
「連絡艇を使えないだろうか。連絡艇ならば岩礁があっても壊れることはない」
「連絡艇に軽迫撃砲と砲弾を輸送してもらう、というのか。この濃霧だぞ。『港』を探すことができないだろう」
「マーナを使うんだ」カレクトの王子のことだ。
「マーナを使うっていうのか。どうやって」




