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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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電波灯台船

 ジブラルタル湾は南に向かって開いた湾だ。東側はジブラルタル半島、西側にはスペインの町、アルヘシラスがある。

 アルヘシラスのさらに南に幾つかの岬がある。そのなかにプンタ・デル・アセブチェ(Punta del Acebuche)という名前の岬がある。

『野生のオリーブの岬』という意味だ。かつて、岬には多くの野生オリーブが生えていたのだろう。

 この岬の西側の海はジブラルタルからもアルヘシラスからも見えない。


 そこに片田商店のジブラルタル攻略艦隊が投錨している。編制は『ブレスト沖海戦』の時と同じだ。しかし、魚雷運搬船には魚雷を搭載せず、大量の迫撃砲弾が載せられている。今回は海戦ではないからだ。


 彼らの来航はスペインのタリファや、モロッコのタンジール(現タンジェ)の港には知られているはずだ。

 もしかしたら、アルヘシラスへも知らせが行っているかもしれない。しかし、ジブラルタルはまだ知らないはずだ。

 当時、ジブラルタルの要塞はカスティーリャ女王フアナが支配する場所だったからだ。


 レコンキスタの進展に伴い、ジブラルタルがカスティーリャの支配下になったのは、一四六二年だった。征服したのがメディナ・シドニア公だったので、ジブラルタルは彼に与えられた。

 公はジブラルタルをユダヤ人のコミュニティとした。

 ところが、一五〇二年、王室がジブラルタルを直轄地とした。海峡の交通を支配することの重要性に気付いたのかもしれない。

 メディナ・シドニア公からしたら、面白くはない。


 したがって、アルヘシラスが、ジブラルタルに艦隊の来航を知らせたとは思えない。




 艦隊の背後に夕陽が落ちていく。あと一時間もすれば海峡は夜になるであろう。今夜は満月だった。

 『金剛こんごう』と『榛名はるな』が一隻ずつ、連絡艇を降ろす。魚雷艇よりも少し大きめの舟だった。

 二そうがジブラルタル半島に向かう。夕暮れ時なので漁船などは、とっくに港に帰っている。

 二艘はジブラルタルの二つの湾を目指している。半島南西部の『聖ヤコブの入り江』と、東北部の『カタラン・ベイ』だ。ただ、当時後者の湾は無名だった。


 無名だったこの湾が『カタラン・ベイ』という名前になった由来を書く。

 これは『カタルーニャ人の湾』という言葉から来ている。

 十八世紀初めに、スペインではハプスブルク系の王朝が途絶えた。そこでフランス系の王朝を建てるか、再度ハプスブルク系の王を建てるか、という問題で戦争になった。

『スペイン継承戦争』という。

 フランスと、オーストリア、イギリス、オランダがそれぞれの派閥に味方した。


 この時、スペインの一部、カタルーニャ地方は自治を求めていた。バルセロナなどを含むフランスとスペインの間にある地方だ。

 当時のフランスはルイ十四世の時代だ。絶対王政だった。フランス派が勝利すれば、自治の見込みはない。

 そこでカタルーニャ人がハプスブルクに味方した。


 一七〇四年、『継承戦争』の一環として英蘭連合軍が『ジブラルタル上陸作戦』を行った。その時、カタルーニャ人部隊がこの湾から上陸し、後にここに定住したという。

 そこから『カタラン・ベイ』と名付けられたのだそうだ。




 二艘の連絡艇は、西日のなか、暗くなる前にそれぞれの湾に入ろうとしている。兵は載せていない。この二艘が載せているのは無線機だった。後続する艦隊のために、無線灯台になろうとしている。


 夜半過ぎ、艦隊が動き出した。『金剛こんごう』を旗艦とした『第一戦隊』はジブラルタル湾内に進む。『第二戦隊』は地中海側の『カタラン・ベイ』を目指す。

 音を抑えた低速航行だった。


『聖ヤコブの入り江』に近づいた『翔鶴しょうかく』が艦尾扉から魚雷艇を放出する。それぞれの艇には操舵手と、十五名の陸戦隊、彼らの使用する装備が載せられている。


 月夜ではあったが、ジブラルタル周辺は崖や暗礁あんしょうが多い。陰になっているところもある。

 陸戦隊員の一人がループ型アンテナで、電波灯台船の無線が来る方向を調べ、操舵手がその方向にゆっくりと連絡艇を進める。これも低速で音を抑えている。

 ジブラルタルの市街からは一.五キロメートル離れている。音は市街まで届かないだろう。


 先行した灯台船の導きで、二十艘が入り江の小さな砂浜に乗り上げ、陸戦隊が次々と上陸する。三百名のうち、三分の一がカレクト兵だった。

 満月の光をたよりに、荒れ地の中を北上し、町の近くに迫る。現在のジブラルタル・ケーブルカーの駐車場に相当する地点だ。

 市街の南部に展開場所を確保した後に、半数の兵が装備を降ろし、魚雷艇に置いてきた残りの装備を取りに戻る。


 地中海側に回った『第二戦隊』も同様だった。こちらは五十名のカレクト出身の『ヤシノミ隊』が含まれている。

 この隊は軽快に移動しなければならなかったので、追加の装備はない。背中の背嚢はいのうだけだった。


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