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1-40 貴族の館

「ああ、お前ら、悪ふざけはそこまででな」

 いや、フレンドリーなところを見せておこうと思っただけなのですが。何せ、こいつらの見かけがねえ。


「いやあ、すいません。お騒がせしちゃって。彼らは怪しいものではありません。本日は男爵様に御呼ばれでして」


「お泊りー」

「貴族の館ー!」


 俺達は期待に胸を膨らませて異常にハイテンションだった。すると途端に門番二人の挙動がおかしくなった。


「そうでしたか。いや、それは弱ったな」

「え、何が⁉」

 俺とミョンデ姉は門番の爺ちゃん二人をじっと真っ直ぐに見つめた。


「「じーっ」」

 叔父さんは領主様から貰った書簡を彼らに渡している。


「「じーーーっ」」


「う。そ、そんな純真な目で見ないでくれ。行けばわかるから。ここは通っていいが、あまり町の人は驚かさんでくれよ。まあそういっても、そいつらを見れば驚くのだろうがなあ」


 いや、どちらかというと疑惑の眼差しなのですが。俺達姉弟はティムに抱かれたまま密談を開始した。


「怪しいねー、この人達」

「とっても怪しいよねー」

 そして門番のくせに、町を来訪中の幼児たちに逆に怪しまれて焦っている、おっさん達。


「あっはっは、二人とも。そういう事だから、さあ行こうか」

 叔父さんには何の事だかよくわかっているようだ。


 さすがは町訪問の上級者だな。山を制し、町をも制するイケメンな男。それが我が叔父にして師匠たるフランコ閣下だ。


「うおー、お姉ちゃん。あれあれ、飴玉があんなに並んでいる~」

「それよりも、あそこ見て見て。可愛いお人形があんなに~」


 む。次の子が生まれる前に、このがさつな姉に人形を与えておくのはどうだろうか。少しは赤ん坊への被害が減るかもな。


 しかし、さっきから通りすがる人達の視線が痛いな。何しろ、この全長5メートルに達する大巨人が、はしゃぐ子供を抱き上げて楽しそうにしているのだ。引率の叔父さんがまたいい笑顔なのだし。


 門番が通したのだから問題はないはず。ないはずなのであるが。信じられないものを見たという顔で、何度も何度も振り返っているのがシーフの力で感じられる。


 探索はかなり鍛えたので、強力になっているのだ。今の俺はただの幼児、ただの二歳児なのさ。


 通りすがりの冒険者らしき人々が楽しそうに買い物袋を抱えて談笑しながら歩いてきたが、俺達を見るなり荷物を取り落とした。真っ赤なリンゴがころころと転がってきたので、一回降りた。


「狂王、一緒に拾ってあげて」

 すかさず、ボケっと見ているだけのミョンデ姉にメイジの躾が。


 いつもの草むしりの如くに促され、慌てて手伝うミョンデ姉。今のところ、俺にとってティムを得た一番のメリットがこれだ。お姉ちゃん、これを機会に真人間になってね。この世界でニートをやるのは無理だからさ。


「さあ、どうぞ」

 狂王とメイジからにっこりと素晴らしい笑顔と共に袋を手渡され、彼らはどもった。


「ど、どうも!」

 そして、やはり「信じられないものを見たぜ」という顔で何度も振り返っていくのであった。ま、まあしょうがないよね。すぐに噂になっちゃいそうだけどなあ。


 そして俺達も細かいところは気にせずに町の散策を楽しむ事にしたのだった。ミョンデ姉なんか、さっきからの一幕など歯牙にもかけないだもんな。何しろ我が家で一番大物なんだから。


「どうだい? 二人とも」

「最高~。舐めてた。正直言って、町を舐めていたわ~。都会やないですかー。これもう完全に大都会」

「うん。凄いわ。もう目が回っちゃいそう」


 ただ、それがいつか失望に変わる事もあるのかもな。それが決して手の届かない星だとわかった時に。俺にも記憶があるんだ。


 だが、おじさんはポンっと俺の頭を叩いた。叔父さんがそうしたがっていたので、狂王はわざわざ俺を手の届くところにまで降ろしてくれる。どうよ、この細やかな配慮。


「さあ、先にご領主様がお待ちだ。先に館へ行こうじゃないか」

 なぜか楽しそうな叔父さん。


 これは何かある。もしかしてサプライズ? 何か素敵なプレゼントが待っている? 我が不肖の姉ミョンデも同じ感慨を持っていたらしく、わくわく顔が止まらないご様子だ。


「きっぞくのやかた」

「きっぞくのやかた」


「貴族の館は大きいぞ~」

「貴族の館はでっかいぞ~」

 俺達は、それはもう浮かれていた。ティム達も楽しそうだ。


「そらお前達、目的地に着いたぞ」

「は?」

「へ?」


 ティム達も俺達を降ろしてから首を傾げている。そこにあったのは、そこにあったのは。なんというか、ただの『家』だった。


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