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三十話 ドSな魔王様

本日二話目です。

「嫌だああああっ! ゾンビになんかなりたくないいいいっ!」


 大の男が泣き叫んでいる。

 俺が、リュエや透歌とデートをしてた時に絡んできたゴロツキだ。

 リーダー格だった男で、札付きの悪。余罪がたっぷりとあったらしく、ゾンビ虫の研究の生贄として捧げられる運びとなった。


 手枷、足枷をはめられた上に、首には縄がくくりつけられて、兵士に引きずられながら小屋まで連れてこられた。

 ゾンビ虫を保管してある小屋じゃなくて、隣の小屋だ。


 こいつがやけくそになって、全員を道連れにしようとゾンビ虫をばらまいたら大変だからな。

 そうさせないように、俺やクート、兵士がいるわけだが、絶対安全とは言い切れない。

 どうやったって危険がゼロにはならなくても、できる限りの対策は必要だ。


 狭い小屋に無理矢理入れられたゴロツキは、猿ぐつわを噛まされて地面に押さえつけられてる。顔は、涙や鼻水、よだれなんかでグチャグチャだ。


 非人道的に思うかもしれないが、領主曰く、甘い措置なんだそうだ。

 本来なら問答無用で極刑になるところを、実験に協力すれば強制労働に減刑される。

 ゾンビになった後で人間に戻れれば、だけどな。

 戻れなかったら、ゾンビを生かしておく意味はないんで、始末する。

 結果はどうなるかね。


 隣の小屋から、クートがゾンビ虫入りの箱を一つ持ってきた。

 領主も見届けるためにいて、研究者の人たちやゴロツキを押さえる兵士たちと、何気に人数が多い。


 なお、ほとんどの人は鎧を着込んで、ゾンビ虫への対策をしてる。

 普通の服装なのは、俺、クート、領主だ。実験に使われるゴロツキもか。


 俺とクートは、魔物だから平気だ。領主は、デブ過ぎて鎧が着れない。

 体格に合う物がないし、あったとしても身動きが取れなくなる。


 それなら、いっそ服のままで、クートが守る方が確実だってなった。

 民衆へのアピールにもなるしな。完全防備を固めずゾンビ虫と対峙する、勇気ある領主って。


 こんな感じで関係者が集まり、実験が始まる。

 クートは、実にいい笑顔を浮かべつつ、ゴロツキに近寄って。

 ゴロツキの眼前で、ガラスの箱にいるゾンビ虫を見せつけるように揺らす。


 こいつ、絶対にSだな。いい性格してるぜ。

 魔王らしいっちゃらしいか。


 いやまあ、俺は嫌いじゃないよ。

 ドSな美少女(幼女?)に責められるとか、エロ作品だと定番だもんな。一定の需要は見込める。


 ただ、最近は、リュエや透歌と一緒にいるからな。

 二人ともSっ気はないし、心優しい。クートも少しは見習えよ。


 とは思うものの、クートはゴロツキを精神的にいたぶってる。

 恐怖を味わわせてから箱を開けて、ゴロツキの顔の上で箱をゆっくりと傾け。


 ポトリ、と。


 ゾンビ虫がゴロツキの顔に落ちた。


「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっっっ!」


 あ、白目をむいて気絶しやがった。失禁もしてるな。


 ゾンビ虫はモゾモゾ這いずってたが、すぐに変化が現れた。

 ゴロツキの顔が、虫に刺されみたいに赤く腫れたかと思うと、体が崩れ始めた。


 クートがゾンビ虫を回収して、箱に入れる。

 ゾンビ虫がいなくなっても、体が崩れるのは止まらずに、徐々に原形を失っていく。


 気分の悪い光景を見ながら、研究者たちはノートにメモを取ってる。

 ゴロツキを押さえてた兵士は、手を離して少し距離を置いて見張る。

 ゾンビへの変化の最中は、暴れることもなく、静かに進んでいった。


「こうやってゾンビになるのか。変化はかなり早いね」


 固唾を飲んで見守る中、領主が呟いた。

 人間がゾンビになる瞬間を目撃するって、そうそうない経験だからな。キモいし、経験したくもないが。


 十五分から二十分ほど経過すれば、ゴロツキは完全にゾンビとなった。

 ゾンビになったゴロツキ、ゴロツキゾンビとでも呼ぶか。

 ゴロツキゾンビが誕生するまでは想定内だ。ここからが本番。


 クートは、ゾンビ虫の入った箱を持ってゴロツキゾンビに近寄る。

 すると、ゴロツキゾンビは脅え出した。ゾンビ虫を怖がってるんだ。

 このままじゃゾンビ虫を殺してくれないんで、強硬手段を取る。


「サズマ、手伝え。こやつを持ち上げておくのじゃ」

「うへえ……」


 嫌な役割だが、ZPのためだ。

 散々ゾンビを殺してきたんだし、今さら気持ち悪がっても仕方ない。

 クートに言われた通り、俺はゴロツキゾンビを持ち上げた。くっせえ。


 で、クートが地面にゾンビ虫を落としたから、その上にゴロツキゾンビを放り投げる。

 ゴロツキゾンビの体でゾンビ虫が潰れた。これで、殺したことになるはずだ。

 結果は。


「体が光っている?」


 領主が口にしたように、ゴロツキゾンビの体が光ってる。

 リュエが人間になった時と同じだ。ボヤァって鈍く光る感じ。

 リュエの時は、何分くらいかかったっけな。たいして長くなかったと思う。

 ゴロツキゾンビも、ほんの数分程度で、発光が収まった。


「に、人間に戻った!?」

「いえ、まだ分かりませんよ」


 領主は人間に戻ったって言ったが、俺は人間そっくりのゾンビがいるって知ってる。

 他ならぬ、俺自身がそれだ。

 目を閉じて気を失うゴロツキは、外見はゾンビになる前と変わってないが、人間に戻ったかどうかは分からない。


「クート、これって本当に人間なのか? ゾンビのままってことは?」


 俺が質問すれば、クートははっきりと告げてくれた。


「間違いなく、人間じゃよ」


 クートが断言したんで、実験は成功ってことだ。


「おおっ、大成功だ!」

「これは凄いぞ! 大発見じゃないか!」

「今の現象を、レポートにまとめなければ! 忙しくなるぞ!」


 研究者たちは大騒ぎだ。

 当然だろうな。


 ゾンビ虫に刺されてゾンビになった人間が、元通りになった。不可能だって言われてたのに、常識が覆ったんだ。

 実験は始まったばかりで、まだまだ調べなきゃならないことはごまんとある。

 それでも、これは大きな第一歩になるに違いない。





 ゾンビ虫の研究は順調に進んだ。

 途中までは。

 最後の課題だけは、どうしても解決できなかったんだ。

 ゾンビから人間に戻れるのは、ゾンビ虫を殺した一人だけって課題が。


 半分とかじゃダメだったんだよ。

 ゾンビ虫を完全に殺さないと、人間に戻れなかった。


 こうなると、俺が心配した、誰を戻すかで揉める事態が必ず起きる。


「課題が残されているとはいえ、大発見であることには変わらない。サズマ君、よくぞやってくれた」


 領主からもお褒めの言葉を頂戴したし、これはもう、何よりの善行になっただろ。

 俺のZPはというと。


 ZP=-998999700088


 十億も溜まってる! やったぜ!


 ……遠いな。マイナスからの脱出が、すっげえ遠い。

 大発見に一役買ったんだからさ、特別に徳政令とか発行してくれてもいいんじゃね?


 世の中、甘くないよな。はあ……


 でっかいため息をつきたい気分だが、地道にやってくしかないか。

 ゾンビ虫の研究は他の人に任せてるし、領主は近いうちに王都へ報告に行くって言ってる。

 俺は、カララドの町で留守番して、冒険者の仕事を行う。


 一日一善をこなしても誤差みたいなZPしか溜まらないが、だからって屋敷に引きこもるわけにもいかないしな。

 小さな善行を積みつつ、人間への進化を目指そう。


 俺は、平和な日々を過ごしていた。

 冒険者ギルドに行って仕事をして、たまに休んでリュエや透歌とイチャイチャ。

 充実した毎日だ。こんな日がずっと続けばいいって思う。


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