表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/39

二十九話 アテニルザとウンベホッコ

 帰路ではこれといった出来事もなく、俺たちはカララドの町に凱旋した。

 だけど、すぐに町に入ることはできない。

 俺たちは、ゾンビ虫を抱えてるんだ。これを町に持ち込むなんてとんでもない。

 万が一があれば、町の人がゾンビになってしまう。いくら頑丈な箱に入れてても、危険がないわけじゃないんだ。


 門で止められて、門番は領主を呼びに行った。

 しばらく待てば、やってきたのは領主……ではなくクートだ。


「パンド、よくぞ戻った。ゾンビ虫は?」

「はい、ここに」


 大人のパンドさんが、見た目子供のクートにへりくだってるのは、違和感が凄いな。

 まあ、気になってるのは俺だけで、他の面々はなんとも思ってない。


 クートが見た目通りの年齢じゃないって、みんな知ってるんだ。魔物だって知ってる人は少ないが、他の人もクートがわけありなのは勘付いてる。

 二十年も領主と一緒に町にいて、いまだに十歳の子供みたいなんだからな。当然っちゃ当然だ。


 気持ち悪いって忌避されてもおかしくないのに、みんなから慕われてるのは、クートが二十年間頑張ってきた証拠でもある。

 っと、そんなことを呑気に考えてる場合じゃないな。


 俺たちは、クートに案内されて、町の外壁沿いに馬車を進めた。

 そこには、急ごしらえで建てましたって感じのほったて小屋が二つあった。

 片方に入ると、クートが指示を出す。


「ゾンビ虫はここに置いておけ」

「よいのですか? 盗まれでもすれば……」

「我が見張るので問題ない」


 パンドさんの懸念は、クートの一言で霧散した。

 クートが見張ってくれるなら安心だ。テロリストみたいな奴がいて、ゾンビ虫を町にばらまいてやろうと考えても、クートが始末してくれる。


「お主らは、今日は風呂にでも入って休むとよい。旦那様への報告は明日じゃ。報酬もそこで渡そう」

「お心遣いに感謝します」


 捕まえたゾンビ虫を入れてある箱を、小屋の中に並べる。

 数は、十五。


 え? 十匹しか捕まえてないのに、なんで箱が十五個もあるのかって?

 それは、俺が他の虫も捕まえたからだ。


「む? サズマ、なぜ偽ゾンビ虫なぞ捕まえたのじゃ?」


 偽ゾンビ虫ってのが、俺が捕まえた虫だ。

 名前の通り、ゾンビ虫の偽物。

 ゾンビ虫とそっくりなんだが、色が違うんだ。


 ゲームで、デザインが一緒で色が違うモンスターっているよな。あんな感じ。

 ゾンビ虫は、黒に近い茶色。偽ゾンビ虫は、血の色をした赤。


 こいつのことは、パンドさんから教えてもらった。

 偽物ってだけあって、刺されてもゾンビにはならない。毒もないし、単にキモいだけの無害な虫だ。

 なのに、俺がわざわざ捕まえたのは、だ。


「ZP」


 みんながいるんで、詳しい説明はできない。俺は簡潔に述べた。

 それだけで、クートは事情を察してくれた。


「なるほどの。サズマ、お主はここに残れ。他の者は解散じゃ」


 クートが告げれば、パンドさんたちは小屋から出て行った。

 俺とクートだけになったんで、もうちょい詳しく話す。


「俺が廃坑をさまよってた時、ゾンビやゾンビ虫を殺せばZPが溜まったんだが、他にもZPが溜まる虫がいたんだよ。まあ、1だけなんだが」


「うむ、その話は聞いた。偽ゾンビ虫がそれじゃというのか?」


「ああ。ゾンビ虫とそっくりだったんで、間違いない。今回も偽ゾンビ虫を殺して確認したが、やっぱりZPが1溜まってた。だから、何かあるんじゃないかと思って」


 これが、俺が偽ゾンビ虫を捕まえた理由だ。

 偽ゾンビ虫を殺せばZPが溜まる。こいつを殺すのが善行になるって判断されてる。

 つまり、偽ゾンビ虫は、人間に害をもたらす虫だ。


 毒があるなら、それが理由なんだろうって思えたが、パンドさんは無害だって言ってた。

 パンドさんの勘違いでもなくて、ミラレマさんやタンウェイも同じ意見だった。

 本当に無害な虫なら、ZPが溜まるはずがない。


「ゾンビ虫と間違えられやすいからかもしれないし、何かあるって決まったわけじゃないが、せっかく廃坑に行ったんだし念のためにな」


「悪くない判断じゃ。ゾンビ虫の研究にも役立つかもしれぬ。ご苦労じゃったの。サズマも、今日は休め。リュエや透歌も待っておるぞ。それと、我がここにおる間、旦那様の守りも任せる。私兵はおるが、戦力的にはサズマが最も頼りになる」


「い、いいのか? 俺が刺客だったらって話をしたと思うんだが……」


「あの時とは違い、今の我はお主を信頼しておる」


 やっべ、ちょっとだけ、ぐっときた。

 転生したなんて胡散臭いことを言ってる魔物なのに、領主の守りを任せてもらえる。

 守る相手が豚みたいに太った紳士(ロリコン)のおっさんってのはあれだが、クートの信頼には応えないとな。


「分かった。任せてくれ。俺の進化のためにもなるかもしれないし」


 気恥ずかしいんで、自分のためってことにさせてもらった。

 タンウェイをツンデレなんて言えないかもな。





 風呂に入ってさっぱりして。

 夜は領主の部屋で寝ずの番をして。

 翌日は、パンドさんたちと一緒に、領主へ報告だ。


 つっても、報告する役目は隊長のパンドさんだし、俺たちはおまけみたいなもんだ。

 報告の内容に間違いがないかチェックする役目でもあるんだが、一番のお目当ては領主からもらえる報酬だ。

 危険な任務なだけあって、奮発してもらえた。


 タンウェイやみそラーメン兄弟はホクホク顔だ。

 普通に冒険者として働いてれば、これだけ稼ぐには最低半年はかかるって話だし、ホクホクにもなる。

 三人は、これから盛大に飲み食いして騒ぐって言ってた。


 パンドさんたち私兵四人は報告書作り。口頭で報告した内容を文書にする仕事だ。

 俺はタンウェイに誘われたが、こっちはこっちで忙しいんでお断りした。

 領主を連れて、クートが待つほったて小屋に向かう。


 しっかし、マジで忙しいな。リュエや透歌とのんびりしかったのに。

 まあ、のんびりはいつでもできる。俺が人間に進化してからでもな。


「旦那様! と、サズマか」

「反応、違い過ぎね?」

「当然じゃ。我にとって、旦那様は特別じゃからの」


 小屋に着けば、クートが出迎えてくれたんだが、俺への反応が冷たい。

 気にしたら負けだな。俺だって、リュエや透歌とクートじゃ、反応は違うし。


 領主は、俺とクートの漫才を温かい目で見てたが、ゾンビ虫が入った箱を見ると顔つきが変わった。

 太ってなかったら、いかにもできる男って雰囲気なのに。


「これがゾンビ虫……ワタシも、こうして間近で見るのは初めてだね。そっちの赤い方は偽ゾンビ虫か」


「サズマが捕まえてきたのじゃ。ZPが溜まる虫とのことで、何かあるのでは、との」


「ZP……サズマ君の進化にかかわる指標、だったかな?」


「そうじゃ。それで、旦那様よ。これからどうやって実験するのじゃ?」


「ゾンビ虫の研究に従事してくれる人も、人体実験に使う犯罪者も、集めてある。ただ、ここでは設備や警護の問題があるね」


「とはいえ、町に入れるわけにもゆかぬじゃろう?」


「ダメだね。領主の権限で押し通せなくはないが、人々をいたずらに不安にするのは本意ではない……口うるさい人も絶対に出るから」


「ウンベホッコじゃな。あやつめ……」


 ウンベホッコ? 人名か? 初めて聞く名前だ。

 略してウ●コ? ……ごめん、どうしても言いたくなったんだ。


「クート、ウンベホッコって誰だ?」


「別の町を治めておる領主じゃ。旦那様の政敵でもある。旦那様と違い、強欲で性悪。権力欲に取りつかれた醜い男よ。カララドの町を発展させた旦那様を逆恨みしておる。ゾンビ虫を町に持ち込んだと知れば、嬉々として攻撃してくるであろうの。常日頃から、他人を攻撃する理由を探しておる奴じゃ」


 クートの人物評は辛辣だが、こいつは領主のこととなると人格変わるからな。鵜呑みにはできない。

 領主にも聞いてみるか。


「クートはこう言ってますけど、どうなんですか?」

「ワタシの口からは言いにくいね。まあ、概ね間違ってはいない、とだけ」


 人のいい領主でも反論しない、と。

 となると、相当あくどい奴なんだな。町ごとにそこまで違うものなのか。


 領主は、一応ウンベホッコへのフォローも忘れなかった。


「でも、有能な人でもあるんだよ。ウンベホッコの実家は最下級の貴族で、彼は平民に落とされるはずだった。なのに、個人の能力のみで地位を確立し、一つの町を治めるにまで至っている。領主の地位すら通過点に過ぎず、将来的には王都に戻って高い役職を与えられるだろうね。我がウェルベンジア王国にとっては、彼は若き英雄だ。若獅子、なんて呼ばれてるね。綺麗な金髪が獅子の(たてがみ)に見えるという理由だ」


「ウンベホッコって奴は、若いんですか?」


 クートが政敵なんて言い方をしたから、領主と同年代以上だと思った。

 中年から初老くらいの年齢だな。


「まだ二十一歳だね。だからこそ、国の将来を担う英雄なんだよ」


「英雄が聞いて呆れるわ。旦那様は、あやつをよい方向に考え過ぎなのじゃ」


「能力は高いだろう? それはクートも認めていたと思うけれど」


「確かに、能力は高いの。特に、他人を蹴落とすことに関しては天才的じゃ。サズマも、一度行けば理解できる。ウンベホッコが治める、ウンベホッコの町にの」


「あ、そのまんまなんだな、町の名前。ウンベホッコは家名なのか」


 領主の名前、アテニルザ・カララドは、カララドの町からつけた家名だ。

 王都の貴族だった領主は、昔の家名を捨てて、カララドに変えたって聞いてる。


「いいや、個人名じゃ。ウンベホッコ・シーオという名での。ウンベホッコの町は、以前は別の名で呼ばれておった。ウンベホッコが領主になって以降、ウンベホッコの町となったのじゃ。シーオの町ではなく、ウンベホッコの町にするところからも、自己顕示欲が現れておると思わぬか?」


 ウンベホッコも領主と同じで、町の名前から家名をつけたって考えた。

 だが、クートは全否定した。


 自分の名前を町の名前に合わせる領主と。

 町の名前を自分の名前に合わせるウンベホッコ。

 これは、大きな違いだ。


 嫁の名前と一緒だな。自分の所有物には好きに名づけていいって風習があるが、町を所有物って思ってるから自分の名前にしたのかもしれない。


「あんまり行きたくないな。俺はカララドの町が好きだし、ここには友達もいる」


「うむ、よくぞ言った。サズマも、旦那様の偉大さを理解し始めたようじゃの。よいか、旦那様が弱きを助け強きをくじくとすれば、ウンベホッコは正反対。弱きをくじき強きに媚びるのじゃ」


 クートの旦那様至上主義は行き過ぎてると思うが、領主が立派だとは俺も思う。


 その領主を逆恨みするのがウンベホッコ。どんな奴なんだろうな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ