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神事査察官ナカムラ・ヒトシ〜神さまの違法行為、すべて検挙いたします〜  作者: Silvertiger
第一章 死神検挙

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死神のケース

 まえがき

【作品をご訪問いただきありがとうございます!】


 読者のみなさま、ようこそ「神官庁」の事件ファイルへ!

 本作は、神々や怪異の違法行為を公務員ロジックと法規で検挙する行政ミステリーです。


 物語に入る前に、今回登場する神様の「本来の役割」を少しだけご紹介します。


 --------------------------------------------------

【神官庁・神々のご案内:死神(死の誘い手)の本来の役割】


「死神」と聞くと、不気味な大鎌を振るい、無差別に人の命を奪う恐ろしい存在をイメージされるかもしれません。

 ですが本来の役割は、「すべての命に平等に訪れる『寿命』と『生命の循環』の秩序を正しく管理する(司る)」ことです。


 運命の刻(とき)を迎えた魂が迷うことなく次の巡りへ安らかに旅立てるよう静かに引導を渡すのが本来の仕事であり、死神自身の個人的な都合で人の命を奪ったり、死期を勝手に操作したりするための存在ではありません 。


(本来の職務:生命の循環および定められた寿命スケジュールの厳格な管理・安らかな引導)

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 三千年もの間、誰からも法を問われずに自由振る舞ってきた死神。

 そんな彼女の前に、万年筆と録音術式を手にした生真面目な男が現れます 。


 それでは、第1話『死神検挙』をお楽しみください! 


 第一章 死神のケース


 私は夜の森を歩いていた。

 夏だというのに、森の奥は妙に冷えていた。

 茂みの向こうから、何かを引きずるような音が聞こえた。


 足を止める。

 音も止まった。

 振り返ると、月明かりの下に女が立っていた。


 肌は死人のように白い。

 黒装束。

 そして、肩には錆びた大鎌。


「お前の時間が来た……」


「あなたは誰ですか?」


 女は首を僅かに傾けた。

 その顔に、目はなかった。

 二つの暗い窪みだけが、こちらを覗いている。


「名など意味を持たぬ。

 私は概念であり、過程であり……お前が今夜出会う最後の存在だ」


 一歩、近づいてくる。

 枯葉を踏む音がしない。


「恐れるな。全ての者に訪れる夜を、少し早めただけのこと」


「『少し早めた』?」

 私は聞き返した。

「どういう意味ですか?」


 女の唇が僅かに歪んだ。

「そのままの意味だ。

 お前の命の灯が消える刻限が来た。それだけのこと」


 彼女がさらに一歩近づいた。

 吐く息が白くなる。

「お前が何者かなど、私にはどうでもいい。

 王国最強の騎士だろうが、乞食だろうが、等しく同じ重さだ」



「そうですか」


「逃げても無駄だ。

 死は足が速い」


 そこで彼女は鎌を地面に突き立てた。

「だが、一つ提案がある」


「何でしょう?」


「私の仕事を手伝え。

 そうすれば、今宵は見逃してやろう」


 私は少し考えた。

 そして尋ねた。

「それは、あなたの仕事を手伝わなければ、今夜ここで私を殺すという意味ですか?」


「そうだ」


「それは、あなたの職務上の権限ですか?」


 死神が黙った。

「……権限?」


「はい」


 私は続けた。

「あなたには、人間の死亡時期を決定する権限があるのでしょう?」


「決定するのではない。定められた時刻に命を刈るだけだ」


「なるほど」

 私は頷いた。

「では、確認させてください」


 死神は怪訝そうに首を傾けた。

「何をだ?」


「あなたは、死亡時期を決める存在ではない。既に定められた死亡時期に従って命を刈る存在である。そういうことですね?」


「当然だ」


「つまり、あなた自身の判断で死亡時期を変更することはできない?」

「できない……というより、する必要がない」


「しかし、先ほどあなたは私の命を『少し早めた』とおっしゃいました」


 死神が黙った。

「……言葉の綾だ」


「そうですか」

 私はそれ以上追及しなかった。


 女は再び鎌に手を掛けた。

「妙な男だな。

 死を前にして、なぜそんなことを聞く?」


「確認です」


「何の確認だ?」


「あなたが正規の職務として私を刈るのか、それとも別の目的で刈ろうとしているのか」


 死神は小さく笑った。

「お前は面白い。

 三千年を生きて、死を目の前にして私に質問を続ける人間は初めてだ」


「ありがとうございます」


「褒めてはいない」


「承知しています」


 彼女の笑みが消えた。

「ならば、もう一つ教えてやろう。

 お前の名は、既に私の帳簿にある」


「私の名前が?」


「そうだ」

「その帳簿に記載された死亡時期は?」


 死神は一瞬だけ黙った。

「今夜だ」


「それは、確定した記録ですか?」


「当然だ」


「誰が決定したのですか?」


「……」


「神律裁判所ですか?」


「違う」


「では?」


「……定められたものだ」


「なるほど」

 私は頷いた。

「つまり、その帳簿にある死亡時期は、あなたの個人的な判断ではない」


「何度言わせる」


「分かりました」

 私は一歩だけ前へ出た。

 死神の鎌が僅かに動く。


「では、先ほどの提案について伺います」


「何だ?」


「私があなたの仕事を手伝えば、今夜は見逃す」


「そうだ」


「つまり、私が仕事を手伝うことと、私の死亡時期には因果関係がある」


「……そうなるな」


「しかし、あなたの説明では、死亡時期は既に定められている」


「そうだ」


「では、見逃すということは、定められた死亡時期を変更するということになります」


 死神は答えなかった。


「違いますか?」


「……お前は、細かいことにこだわるな」


「重要なことです」


「私には、その程度の『解釈の余地』がある」


「解釈の余地」

 私はその言葉を繰り返した。


 死神は鎌の柄を握り直した。

「私は死そのものだ。

 規則に従う側ではない。

 規則そのものだ」


「つまり、あなたには規則を解釈する権限がある」


「そうだ」


「そして、場合によっては死亡時期を変更することもできる」


「……必要ならな」


「その判断は誰がしますか?」


「私だ」


「あなた自身が?」


「そうだ」


 私は頷いた。

「よく分かりました」


 死神は満足そうに笑った。

「ようやく理解したか。

 ならば、選べ。

 私の仕事を手伝うか。

 それとも――」


 鎌の切っ先が私の喉元に向けられた。

「ここで死ぬか」


 私は鎌を見た。

 そして死神を見る。


「最後に一つだけ」


「まだあるのか?」


「はい」


「言ってみろ」


「あなたは今、私を脅している」


「当然だ」


「私があなたの仕事を断れば、予定されていた死亡時期より早く、ここで私を殺す」


「そうだ」


「その判断は、あなた自身が行う」


「そうだ」


「そして、その判断に法的な根拠はない」


 死神が黙った。

「……私が規則そのものだと言ったはずだ」


「それは、法的な根拠ではありません」


「何だと?」


「あなた自身の発言です」


 私は懐から一枚の木札を取り出した。


 死神が目のない顔をこちらへ向ける。

「それは何だ?」


「記録です」

 私は木札を指で軽く叩いた。

 淡い光が浮かび上がった。


 次の瞬間。

 森の中に、先ほどまでの会話が響き渡った。

 ――「私の仕事を手伝えば、今夜は見逃してやろう」

 ――「そうだ」

 ――「あなた自身が行う?」

 ――「そうだ」

 ――「その判断に法的な根拠はない」

 ――「私は規則そのものだ」


 死神が動きを止めた。

「……これは」


「録音術式です」

「いつから……?」


「最初からです」


 死神の手から、鎌が滑り落ちた。

 鈍い音が森に響く。


「私は神官庁特別査察部第一査察課・特別査察官 ナカムラ・ヒトシです」


読者の皆様、第1話第一章をお読みいただきありがとうございます。


 まえがきにも書きましたが、本作『神事査察官ナカムラ・ヒトシ』は、多種多様な神々や怪異たちの違法行為・職務怠慢を、生真面目な公務員が「法規」と「客観的証拠」で検挙していく神界行政ミステリーです。


 物語をよりお楽しみいただくため、作中に登場する中心組織**『神官庁』**の構成と主要な役職についてご紹介いたします 。



 1. 神官庁(Divine Bureau)

 世界各地(ギリシャ、北欧、東洋、エジプトなど)の神々、悪魔、怪異たちの不必要な衝突を防ぎ、人間界との共存と世界の調和を維持するために設立された超神格統制機関(いわば「神界の国際連合」)です 。


  2. 神律最高評議会(安全保障理事会や国連総会に相当)

 各神話・宗教体系の頂点に立つ強大な主神(大主神・常任理事神など)によって構成される神官庁の最高意思決定機関(議長:アマテラス)。


 ※上位の「大主神」たちは、自らや傘下の神々に都合の悪い強制捜査や決議を強行無効化できる強力な**「拒否権(Veto)」**を有しており、これが組織上層部の腐敗や特権化の壁となっています。


 3. 特別査察部(警察・現場捜査・行政機関)

 神々の職務怠慢、神力の私的流用、不当な搾取などの不祥事を現場で捜査・鑑識し、検挙する実動部門 。

 行政トップである神官庁長官・アテナが自ら部長を兼務し、大主神たちからの政治的圧力を突っぱねる「最強の防波堤」となっています 。


 4. 査察官(特別査察官/神事査察官)

 特別査察部に所属し、実際に現場へ赴いて神々の違法行為や不祥事を捜査・摘発する現場捜査官。

 主人公ナカムラ・ヒトシの役職です 。彼は、武力や神力に頼るのではなく、「身分証」「調査用手帳」「録音木札」「鑑識グラス」を駆使し、客観的証拠と公務員ロジックで不遜な神々を追及・検挙します 。


 5. 神律裁判所(司法機関)

 特別査察部が検挙した被疑神を「神律」に基づき厳正に裁く最高司法機関(最高裁判長:マアト) 。

 不当な神力行使によって害を受けた人間や店舗に対し、補償金支給や原状回復を行う**『神律被害者救済制度』**の運用も管轄しています。


 6. 審問官(Inquisitor/全権監察職)

 大主神たちの「拒否権(Veto)」や内部の政治的圧力・聖域を一切受けず、いかなる高位の神であっても直接取り調べ・強制捜査できる独立した最高特別司法職 。

 三権の結集と大権発動によって新設される特命ポストです 。

(本格的に活動するのは、次のシリーズになる予定です)


 7. 最古の神律(根本原則)

 神官庁創設者・プロメテウスが提唱した、すべての神律の頂点に立つ最古の根本原則。


【神は、人間のために存在する】


(※長い歴史の中で、一部の傲慢な大主神たちによって**『人間は、神の秩序のために存在する』**と密かに歪曲されており、これが各話で描かれる神々の暴走や横暴の元凶となっています)


 読者の皆様を、厳格で温かい公務員ロジックが躍動する『神官庁』の事件ファイルへご案内いたします !

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