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双剣無頼 ~現代ダンジョンで雑魚狩りしてた底辺掃除屋、神話級の剣を手に入れてしまう。しかも二本~  作者: モモンガ・アイリス
第三章

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第七十三話




「ったく……マジでバケモノじゃねぇか」


 ルガルドは携帯端末で『清掃記録』の配信を眺めながら、胸の内で湧き上がるものについて考えていた。


 魔族と呼ばれている種族は四半世紀前の『世界融合』に巻き込まれて地球へ転移して来たわけだが、トールが推察した通り、向こうの世界にいた頃からルガルドたち魔族は人(・)族(・)に擬態して生きていた。

 かつて『魔王』と呼ばれる魔族の王がいて、そもそも魔族とは魔王の眷属を指す言葉だったのだが、その魔王は『勇者』に殺され、自分たちは国を失った――。


 ルガルド自身は魔王の死後に生まれた、身内では『新世代』と呼ばれる魔族だ。当然ながら魔王への忠誠など持っておらず、物心ついた頃には『隠形』や『擬態』の魔法を使えるようになっていた。ごく当然のように。

 人族の中で人族のように振る舞いながら、どうして魔族がそんなにも忌避されているのか、いまいち理解できていなかった。


 同じように言葉を話し、仲間が傷つけば悲しみ、小さな子供を慈しみ、理不尽に怒りを覚える。美味い飯に喜んで、莫迦な話に笑う。同じだ。

 違いは単純。

 魔族は人族に比べて寿命が長く、力が強く、魔力が高かった。


 ようするに、魔族とは人族から見た『天敵』なのだ。

 その気になれば魔族一人で町ひとつを滅ぼせる。かつて魔王は人族と敵対したというが、どちらが先に殴りかかったのかは怪しいものだとルガルドは思う。


「『勇者』か……テメェもどうせ、ろくな目に遭わなかったんだろうな……」


「魔族も同情心を持つようだな」


 不意に声をかけられ、ぎょっとする。

 何故ならルガルドが呑気に携帯端末で配信を見ていたのは『隠形』の魔法を使い、市街地の鉄塔の真ん中に腰を下ろしていたからだ。上部は送電線が走っており、鉄塔の足元は普通に住宅街である。といっても地方都市の平日の朝だから――早朝は過ぎたにしても――ほとんど人通りはない。


 わざわざこんな場所に、気配もなくルガルドの隣にいつの間にか立っているのは、ハンチング帽の男、相馬賢吾だった。


「ソーマ、だったか。おまえもトールから頼まれたんだったな」


「ああ。早坂から聞いているのか。まあそうだ」


「S級探索者様が、個人的な頼みを引き受けるとはねぇ」


 茶化して言ってみるが、鉄塔の鉄骨を足場に立っている相馬は、まるで感情を動かさなかった。ルガルドのような手合いに軽口を叩かれることなど、どうでもいいと言わんばかり……いや、実際どうでもいいのだろう。


 ――こいつは俺より強い。

 それがルガルドの直感だった。人族に擬態している今は当然として、魔族としての姿と能力を解放しても、おそらくまだ足りない。


「おまえらが追っているギルゲイルという男は、クソ野郎なのだろう?」


 静かに言って、相馬は鉄塔からの景色をぐるりと見回した。

 特になんの変哲もない、普通の地方都市の住宅街だ。鉄塔から四十メートルの距離に早坂透が住んでいるオンボロアパートがある、というだけ。


「ああ。身内の誰も、あの野郎の本心が判らなかったんじゃねぇかな。ひとつ言えるのは、あの野郎は人族――人間のことを、なんとも思ってねぇってことだな」


「なんとも思っていない? だとすれば『アンセム』のマネージャーや、ダンジョンを消滅させる石を渡された県議はなんなんだ?」


「おまえは石ころを拾って、別の石だとか壁だとかに投げようと思ったとき、石や壁が憎いか? 焚き火の最中に虫が飛んでて、たまたま捕まえた。虫を火の中に放り込むとき、そんな大した感慨はねぇだろ」


 知らんけどな、と結ぶ。確信など持てないのだから仕方がない。

 相馬は投げ遣りなルガルドに、わずかだけ眉を寄せたようだった。ルガルドに――というよりは、ルガルドが語るギルゲイルに対してか。


「ルガルド。おまえは早坂の勘をどう評価する?」


「……評価?」


「早坂と聖剣使いが確実にいない瞬間を狙ってギルゲイルが関係者を襲いに来る可能性が高い、と早坂は言っていた。おまえには言ってなかったか? 俺としても、その可能性は高いように思った。おまえはどう思う?」


「あいつ、結構性格悪くね?」


 と、少し考えてからルガルドは言った。相馬は一瞬だけ唇の端を持ち上げ、小さく肩を竦めた。


「周囲や社会があいつに優しくしなかったせいだろう。反発するのではなく根に持つだけなのだから、かなり善良だと俺は思うがな」


「人族ってぇのは、これだから……ああ、そういう意味では、ギルゲイルの野郎は人族ってぇ群体に対しては、興味を持ってたかも知れないな」


「どういう意味だ?」


「魔族よりもよっぽど醜悪だからな。向こうの世界でもそうだったし、こっちの世界でもそうだ。こっちなんか人族しかいねぇのに、人族の歴史は戦争の歴史じゃねぇか。この国なんか同じ民族で八百年くらい殺し合ってたんだろ?」


 正気の沙汰じゃねぇよ、とルガルドは携帯端末の画面に目を落とす。

 配信では『勇者』がスガイダンジョンの地下十九階を爆走中。S級の魔物が勇者によって蹂躙されているのは、やはりバケモノとしか言いようがない。


「寿命が短いからだろう」


 端的な回答に、ルガルドは思いっきり眉を寄せてしまう。意味が判らなかった。

 相馬はハンチング帽のつばを指先でなぞり、小さく肩を竦めて続ける。


「おまえらやエルフは長寿だそうだな。だからあまり繁殖しない。おまえらが人間と同じように繁殖していれば、元の世界ではとっくに人間を皆殺しにしていたはずだ。そうならなかったのは、おまえらが数を増やさなかったからだ」


「……よく判らねぇな」


「人間は弱い。だから強い。おまえらは強い。だから弱い。そういうことだ」


「弱い? 冗談言いやがる。テメェは俺より強いだろ」


「おそらくは、な。だが、おまえより強い人間を偶然であれ必然であれ生み出すためには、およそ八十億のおまえより弱い人間が必要になる。それを『強い』と本当に言えるか? とてもではないが、俺には言えん」


「……さあ、な。難しい話はよく判らねぇよ」


「まあ、俺もおまえらについてはよく知らんから、適当なことを言っただけだが」


 表情を変えずに言い放つ相馬に、ルガルドは少しだけ笑ってしまう。

 ルガルドに理不尽な暴行を加えた男ではあるが、楽しんでいる様子はなかった。必要だと思ってやったことなのだろう。ひょっとすると気が進まなかった可能性すらある。だが、必要だからやった――とすれば、その精神は評価できる。


「おっ、十九階のボスは黒竜みたいだな。何分かかると思う?」


 端末の画面ではボス部屋に入ったトールたちが、待機状態の黒竜を前に少しだけ話をしているところだった。すぐに勇者が前に出て聖剣を蒼白く輝かせ、呼応した黒竜が雄々しく翼を広げて臨戦態勢に移る。


「五秒」


 と相馬は言った。いくらなんでも――と反駁しかけたルガルドだったが、三度の斬撃と一発の流星で、黒竜が文字通りに秒殺されたのを見てしまえば、こちらの見積もりが甘すぎたのを理解せざるをえない。

 そして相馬の見積もりは、ルガルドよりも正確だったということだ。


「これでよくもまあ人族を『弱い』とか言えるもんだ」


 肩を竦めて配信画面を見ていれば、そろそろ配信を終えるところになっていた。金髪ドリルの女が威勢のいい宣言をして、間もなく画面が暗くなる。数秒後には動画サイトの方が『この配信は終了しました』の画面を映し、『次のオススメ動画』を呑気に宣伝してくるが、もちろん興味はない。


 スーツの内ポケットに携帯端末を突っ込んで、鉄骨の上に立ち上がる。最初から立っていた相馬に並ぶ形になったが、やはり不快感はなかった。


「――来るぞ」


 と、相馬が言った。

 次の瞬間、トールの自宅であるオンボロアパートを中心に、市街地の一角が世界から区切られたような気になった。

 まるでその区域に薄暗いフィルターが張られたような違和感。


「認識阻害の『結界』だ。ようするに規模のでけぇ『隠形』の魔法だが、外からは内側でなにが起きても、まず感知されなくなるぞ。爆発が起きてもな」


「『隠形』を――なるほど、そういう使い方をするのか」


 感心した、とばかりに頷く相馬である。

 この男にものを教えてやったという事実にルガルドはうっかり喜びそうになったが、オンボロアパートの上空に人影を見つけて気を引き締める。


 人影は、薄紫色だ。

 背中から翼を生やしている――カラスのような黒い羽根だ――が、もちろん羽ばたくことで飛んでいるわけではない。飛翔魔法の媒介として役に立つ、というだけのものだ。ルガルドも魔族の姿になればコウモリのそれに似た羽を生やすことができる。魔族全員できるわけでもないのだが。


「マジで来やがったか。しかもアパートごとぶち壊す気だな」


 言って、人間への擬態を止め、ルガルドは本来の魔族の姿に戻る。滞空している魔族が魔力を集中させているのを見て意図を察し、舌打ちした。

 飛び出せば文字通りに横槍を入れられるが、放出した魔法を防ぐ形になる。せっかくの横槍で攻撃できないのはもったいない――しかしトールとの約束があるので、あのアパートは守らないわけにはいかない。


「防御の方は任せろ」


 相馬が言った。なんの気負いもない、当たり前みたいな言い方。同時に左手をアパートの方へ向け、揃えた人差し指と中指を、くいっと持ち上げる。



 ――――ガ(・)バ(・)ン(・)ッ(・)!



 と、瞬間的にアパートが石で覆われた。土系統の魔法なのだろうが、魔力の集中も呪文の詠唱もない即時発動で、アパート全体を完全に囲う規模だ。


「やつはもう魔法を放つ状態に入っている。撃つしかない。あの魔力であれば俺の石壁は抜けん。行け」


「嫌なやつだな、テメェは」


 へっ、と鼻息を洩らし、背中の羽に意識を差し伸べ、鉄骨を足場に跳んで飛翔する。滞空中の魔族は相馬が言った通り、魔力の光弾を放つしかなくなっている。雷管を叩かれた弾丸が発射されるしかないように、ある限度を越えて編み上げた魔術や魔法は、行使するしかないのだ。


 魔族が翼を曲げ、無数の『羽根』がアパートへ撃ち込まれる。人間の兵器でいうなら機関銃の規模だ。威力はもっとあるだろう。

 しかし、相馬の石壁は抜けなかった。

 ガ(・)ガ(・)ガ(・)ガ(・)ガ(・)ガ(・)――という耳障りな音を立てて表面の石を削るのみで、魔力の『羽根』がアパートに辿り着くことはない。


 そして、ルガルドがそいつに辿り着くには十分な時間があった。


「テメェは、ギルゲイルの取り巻きか」


 もはや『隠形』の魔法は必要ない。至近距離まで迫ったところで魔族が目を見開いてルガルドを見る。素直な驚愕がそこにあった。


「ルガルド――!? 貴様、何故……っ!?」


 そのような問いに答えるはずもない。ルガルドは接近した勢いのまま、右手に魔力を集中させて思いっきりそいつをぶん殴った。

 コンクリートの塊ならあっさり粉砕される威力。魔力防御を突破した感触はあったが、気絶させるには至らない。

 羽虫を手で払ったときみたいな軌道で吹っ飛んでいく魔族を、ルガルドは背中の羽に魔力を送って追い詰めようとした。


 が、別方向からの狙撃に気づき、空中で停止する。

 住宅街に張られた『結界』の端あたり――二階建て住居の屋根上。手に持っている短い杖《ワンド》を使っての魔砲撃。


「……あっちもギルゲイルじゃねぇ……!」


 ギルゲイルが魔族の集団を離れた際、一緒にいなくなったのは数人。そのうち二人を使ってきたということになる。

 翼の魔族がギアドル、砲撃の魔族がバルガス……だったはずだ。たぶん。


 一瞬の思考を許さぬとばかりに、次の魔砲撃が来た。

 規模や威力こそ異なるが、勇者が使う『流星』と原理的には同じような、魔力衝撃を放つ技であり、魔法だ。勇者の方は技術だろうが、バルガスのは魔術だ。人類が使う銃器の弾丸と同様、砲撃は音速を超えているが、放つ前に魔力の集中と収束がある。動き難い空中ではあるが、どうとでもなる。

 避けるという一点に限れば、神楽坂千鶴の剣捌きの方が厄介だ、とルガルドは空中で反転し、鉄塔の『狩人』を一瞥する。


 相馬はルガルドの目配せに、おまえはあっちだ、とばかりに空中を示した。ならばバルガスは『狩人』に任せよう、と羽に魔力を込め、吹っ飛ばされていた状態から空中で停止したギアドルへ再接近する。


 当然、そこを砲撃されるが――音速超えの魔力衝撃が、相馬の『石弾』に阻まれた。銃弾を銃弾で撃ち落とすような神業だが、やれて当然とばかりに相馬はもう鉄塔から消えており、住宅の屋根や電柱を足場に、バルガスへ接近している。


「裏切り者がァ――!」


 空中で両翼をルガルドへ向けたギアドルが、恨み骨髄とばかりに呪詛を口から吐き出し、魔力を集中させた。さすがにあの機関銃みたいな『羽根』を撃ち込まれるのは拙い、と速度を上げようとして、ルガルドはそれを途中で止めた。


 ぱっ、と羽を広げてその場に滞空し、ついでに思いっきり両手を広げて舌を出す。どんな間抜けにも理解できる嘲笑だ。


「裏切りだ? そいつぁこっちの科白だぜ、古(・)い(・)の(・)。テメェらがなにを恨んで離れて行ったのかは知らんが、俺らからすればテメェらが裏切り者だ」


「貴様のような新世代になにが理解《わか》る――ッ!?」


「だから判んねーって言ってんだろ。丁寧に説明もしなかったじゃねぇかよ。挙げ句の果てに、見知らぬ人族の身内を殺そうってんだから、落ちるとこまで落ちたよな。魔王も草葉の陰で泣いてんじゃねーの? なっさけねぇ部下がくっだらねぇ真似して、おまけに裏をかいたつもりがバレバレでよぉ」


「黙れクソガキがァ!」


「オーケイ。じゃあ黙る。もっとも――黙らされるのはおまえの方だろうがな」


 広げた両手を振りながら、ルガルドは遠い何処かを示してやった。何処というわけではない。上空十六メートルの位置からなら、何処を見たって理解できる。


 世(・)界(・)の(・)色(・)が(・)戻(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)、と。

 つまり『結界』が打ち消されているのだ、と。



 ――ヒュ――――ゴッ!



 それこそ迫撃砲が撃ち込まれたみたいに、人間大のナニカが、滞空していたギアドルに激突した。人間とバイクの交通事故みたいな有様だったが、轢かれたギアドルは真下にぶっ飛ばされていた。

 猛烈な速度で飛んで来た聖剣使いが、その聖剣でギアドルを上から下方向へ引っ叩いたからだ。


「やっほー。ちゃんとトールの頼み事、聞いてくれたんだね」


 にっこり笑って言ったティアが、重力に従って落下していく。首の後ろで縛っている金髪がひらひらと泳いでいるのが、なんだかひどく場違いに感じた。


「……そういや、人族は飛べねぇんだったか」


 溜息交じりに呟き、ルガルドはバルガスがいた場所に視線を向けた。それから『結界』が晴れているのを思い出し、『隠形』の魔法を自身へかけ直しておく。


 おそらく向こうは相馬一人でも十分だったはずだ。

 そこに『妖刀』使いが加わったのなら、十二分ではないか――。






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黒龍討伐から戻ってくるの早過ぎない?
ティアがどんな状況でもニコニコ笑顔を絶やさないから、危機感さんが仕事できないの…
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