訳のわからない男
「ゲンジ様があのような貧乏人に関心を持たれるとは思ってもいませんでした」
「フンッ」
屋敷へと向かう馬車の中。
中心側近でもあるアライが、口を開く。
「だがお前も妙に肩入れしていたように見えるが?」
「⋯⋯見ておられましたか」
「それはそうだろう。
わざわざ介入するくらい興味があったと見たがな」
頬杖をつきながら高い革の向かい椅子に足を乗せるゲンジ。
「であれば、お前はどう見る?」
視線だけがアライを見据える。
「常識の無知具合を考えますと、非常に危険ではあります。
ですが──何かを持っている人間ではあります」
「何かドコロではない」
「⋯⋯え?」
「あの容姿とあの体格⋯⋯忘れたか?」
遅れたアライが即座に頭を下げる。
「一番最初に興味を持たれた理由がそこだと考えていた為、省いて話していました。
⋯⋯申し訳ありません」
「ならいい」
脚を組み直すゲンジ。
「アライ」
「はい?」
「それでお前は⋯⋯どう思った?」
「本音ということでしょうか」
無言で頷き、こげ茶の葉巻を取り出す。
「私は今多分⋯⋯少し動揺している。
だから、お前の本音を聞かせてくれないか」
あの天下のゲンジが⋯⋯ねぇ。
まぁ、あれを見ていたら無理もないか。
「話した結果、彼はこの西の人間ではなく、東の人間である確率が非常に高いと見るべきです」
「東か」
「加えて、こちらで言うスラム。
東のど田舎中のど田舎であることが会話から得られた事です」
「断定は出来ないな?」
「はい。
ですがおそらく、知識具合を考えるにそうとしか考えられません」
煙を出しながら、ゲンジは外を見る。
「アイツ⋯⋯俺を見て"何も言わなかった"」
「ゲンジ様」
「あぁ、分かってる。
何処へ出かけても、醜い家系は続くんだとか、金だけはある家だとか散々な言われようだ。
所詮貧乏人の戯言ではあるがな」
無音の張り付きが続く馬車。
「アイツ⋯⋯俺を蔑むどころか笑って優しいとかほざきやがる」
「はい」
「フンッ、何なんだあいつ。
金があるわけでもねぇのに、何も言わねぇ。
見たか?容姿」
「っ、はい」
体格もそうだが、一番はやはり容姿。
彼の容姿は西で見ても上から指何本分くらいの美青年さすらある。
「この西で金と容姿を持っているなら、あんな事はできん」
「仰る通りだと思います」
この西は資本至上主義であり、外見至上主義。
二つの定義が重なっている訳のわからない場所とも言える。
「前代の頭が金こそがと言うような男だったとかつての歴史書では書かれていたが、本当なのだろうかな」
「逆に今の頭がその中で圧倒的な記録を叩き出し、その頭の主義が外見至上主義であってどっちも採用した結果こんな情勢に」
本当⋯⋯ウンザリだ。
内心アライは自嘲するように呟く。
「あれは⋯⋯天然物なのか?」
「私の感想では完全な天然物でございます」
「やはり⋯⋯間違いではなかったのか」
眉間を摘んでゲンジは首を振っている。
「はい」
「信じたくない」
「しかし、だからこそあれ程笑顔で人の話を聞いていたのでは?」
普段全く人の話なんて興味すら持たないこの人が、笑顔で頷いていたのを何度も見た。
あれが同一人物か怪しい⋯⋯いや。
"本来そういう人だったのかもしれない"。
「着いたようだな」
馬車から降りる一行。
しかし、全員の顔は別人のような冷ややかで、顔付きは⋯⋯言うなら、戦争帰りの面持ちだ。
「おかえりなさいませ、坊っちゃま」
「夜の食事はいらん、さっさと風呂を沸かせ」
「えっ?折角シェフが」
「⋯⋯お前はいつから主人に歯向かうような人間になっていたのか?権限で首を跳ねるぞ」
「も、申し訳ありません!!」
仰々しく頭を下げる使用人だが。
「金だけの醜いゴブリンがイキりやがって」
ほんの微かな囁き。
しかし誰も咎めない。
周知の事実であるから。
だから存分に金で威張る。
アライもゲンジも、同じ家系であるから。
金が全てであり、それ以外はゴミ同然という価値観。
女を抱き、良い食事を取り、良いところに住み、良い服を着飾る。
「秘書に後で伝えろ。
アイツらは減額。
次いでに許可を出している使用人のリーダーも減額で降格」
「承知いたしました」
「事業を広げるつもりだ。
現在の熾烈な競争は我々も目にしておく必要があるからな」
歩いて数分の会議部屋。
その中には大量の本と事業計画書がズラッと並んでいた。
「さて、今日の会議を始める」
この西では金を持てば死ぬまで安泰。
容姿があれば、良い異性を買う事も金持ちに選ばれる事も可能な一発逆転の世界である。




