EP 5
兵糧攻めへのカウンター! 『ふるさと納税』開始!
勇者ブレイドによる陰湿な「物流封鎖(経済制裁)」が始まってから、三日が経過した。
「……ひもじいですぅ。お腹と背中がくっついて、そのまま貫通してブラックホールになりそうですぅ……」
村長宅のリビング。
絶世の人魚姫リーザは、畳の上で干からびたスルメのようにペラペラになって倒れていた。
ルナミスマートの棚は完全に空。村の畑もオーバーツーリズムで踏み荒らされ、収穫は絶望的。ポポロ村は今、深刻な食糧難と物資不足に陥っていた。
「……あいつ、本当に陰湿ね。勇者っていうより、ただの嫌がらせに特化した姑じゃないの」
ルチアナが、お湯だけを入れた湯呑みをすすりながら毒づく。
「魔王の私が、まさか『飢え』で死にかけるなんて……。リクト、あんたの【世界編集】で、どっかから食料を無から生み出せないの?」
ラスティアがコタツに突っ伏しながら俺を見る。
「アホか。そんなその場しのぎのチートを使っても、根本的な解決にならないだろ。大国の物流網に依存している限り、俺たちは常にブレイドの機嫌一つで首を絞められるリスクを背負うことになる」
俺は空中に【世界編集】のウィンドウを展開し、高速でキーボードを叩き続けていた。
「じゃあ、どうするんですかぁ? 姉御、今からでもあいつのタマ、取ってきましょうか?」
キャルルが血走った目でトンファーを磨いている。
「暴力は最終手段だ。いいか、あいつは『資本と流通の力』で俺たちを干上がらせた。なら、俺たちも『新しい経済圏』を作って、あいつの足元にある莫大な資金を合法的に吸い上げてやればいい」
カタカタカタ……ターンッ!
俺がエンターキーを叩くと、リビングの中央に巨大な魔導モニターが浮かび上がった。
そこに映し出されたのは、カラフルでポップなデザインのウェブサイト。
『ようこそ! ポポロ村・ふるさと納税特設ポータルサイトへ!』
「……ふるさと、のうぜい?」
ルナとクロエが、揃って首を傾げる。
「ああ。現代日本に存在する、控えめに言って『バグ』みたいな税金ハックのシステムだ」
俺は立ち上がり、モニターを指差した。
「ルナミス帝国もレオンハート獣人王国も、国民(兵士)から高い税金を徴収しているよな。その税金を、自分の住んでいる国や街ではなく、この『ポポロ村』に寄付できるシステムを、魔法網(T-ネットワーク)のブロックチェーン上に強制的に組み込んだ」
「……えっ? 他国の税金を、ポポロ村に……?」
元・魔皇国のトップであるラスティアが、顔を引き攣らせる。
「そうだ。寄付してくれた兵士たちには、翌年の税金が大幅に『控除(安くなる)』されるという特大のメリットがある。さらに、寄付の『お礼』として、ポポロ村から魅力的な『返礼品(特産品)』が送られてくる」
「な……ッ!?」
ルチアナがガタッ!と立ち上がった。
「そ、それってつまり……! 国に入るはずだった莫大な税収を、この村が合法的にかすめ取るってこと!? しかも兵士たちは税金が安くなってお礼の品までもらえるから、絶対に寄付した方がお得な……完全な『国の予算の横領』じゃないのぉぉぉっ!!」
「横領じゃない。『地方創生のための寄付金制度』だ。人聞きの悪いことを言うな」
俺はニヤリと笑った。
「ブレイドは商社を使って『売る』のを止めただけだ。なら、オタク兵士たちが税金控除のついでに『寄付』という名目で、ポポロ村に物資やお金を送ってくる分には、商社も勇者も口出しできない。完璧な合法ルートだ」
オタクにとって、「推しに課金する」のは呼吸と同じだ。
ましてや、それが「実質負担ほぼゼロ(税金控除)」で行え、しかも推しからの「限定グッズ(返礼品)」がもらえるとなれば、彼らの財布の紐は宇宙の果てまで弾け飛ぶ。
「……す、すごいですご主人様! そんな悪魔のような……いえ、素晴らしい錬金術があったなんて!」
クロエが尊敬の眼差しで俺を見る。
「だが、システムは作ったが、まだサイトはオープンできない。肝心なものが足りないからな」
「肝心なもの?」
俺は、干からびていたリーザと、ルチアナ、ラスティアを見下ろした。
「オタク兵士たちの理性を吹っ飛ばし、思わず『寄付する』のボタンを連打させるような……極上の『返礼品』のラインナップだ」
「あ……!」
リーザの目に、徐々に光が戻っていく。
「私たちが、返礼品を……考える?」
ルチアナがゴクリと唾を飲み込む。
「ああ。お前らの持っているスキルや個性をフル活用して、オタクどもが血眼になって欲しがる『ニッチで激ヤバな返礼品』を用意しろ。それがポポロ村を救い、ブレイドを地獄に突き落とす武器になる」
俺の言葉に、神と魔王とアイドルの表情が、一気に「商売人」のそれに変わった。
「……フフッ。そういうことなら、任せなさい。神の力、見せてあげるわ」
「魔王の恐ろしさ(需要)を、人間どもに刻み込んでやる……!」
「わたくしも……半額もやしのために、一肌脱ぎますぅっ!」
腹の虫を鳴らしながらも、三人の少女たちは不敵な笑みを浮かべた。
こうして、異世界初の『ふるさと納税』という名の、現代最強の経済反撃作戦が幕を開けたのだった。




