EP 3
明かされる過去。ルナとクロエの『追放』の真相
勇者ブレイドが「敵対的措置」を宣言して去った日の夜。
ポポロ村の村長宅の居間では、重苦しい空気が漂っていた。
「……ご主人様、キャルルちゃん。ごめんなさい。わたくしたちのせいで、村をトラブルに巻き込んでしまって」
ルナが、いつものメイド服の裾をギュッと握りしめながら頭を下げた。隣では、クロエも申し訳なさそうに身を縮めている。
「気にするな。あんな胡散臭いコンサル勇者、どのみちキャルルがトンファーで殴り飛ばしてたさ」
「そうですぅ! 姉御の村に手を出そうとした時点で、あの金髪はダイズラ豆の肥料確定ですから!」
俺とキャルルがフォローを入れると、ルナは少しだけホッとしたように微笑み、ポツリポツリと過去を語り始めた。
「わたくしたちは以前、ブレイドのパーティに所属していました。魔王討伐という『プロジェクト』のためだと、彼にスカウトされて」
「でも……ブレイドさんは、数字しか見ない人だったんですぅ」
クロエが静かに言葉を継いだ。
「わたくしの錬金術は、相手の素材や状況に合わせて『特効薬』を作るカスタマイズ方式です。でも彼は、『誰にでも効く汎用ポーションを大量生産しろ。お前のやり方はコストパフォーマンスが悪く、スケール(拡張)しない』と言って、わたくしの研究を全否定したんですぅ」
「わたくしも同じです。神狼の力で敵のヘイト(敵意)を集め、パーティの盾として攻撃を全て防ぎ切るのがわたくしの役目でした。ですが彼は……『君のキルレシオ(撃破率)はゼロだ。パーティのKPI(目標達成率)に全く貢献していない不良債権だ』と」
俺は呆れてため息をついた。
回復やバフ、ヘイト管理といった「目に見えない貢献」を評価できず、分かりやすい攻撃力(数字)だけで有能・無能を判断する。典型的なダメ上司(無能リーダー)の思考回路だ。
あの蟹工船で、たった数分でキングクラブを解体し、一日に500匹のノルマをこなした彼女たちが「無能」なわけがない。
「……それで、お前らはクビ(追放)にされたってわけか」
「はい。路頭に迷っていたところを、ご主人様に拾っていただきました」
ルナが、俺を見つめて柔らかく微笑む。
「今のわたくしたちは、本当に幸せです。数字に追われることもなく、ご主人様と美味しいご飯を食べて、笑い合える。このスローライフが、わたくしたちの全てですから」
その言葉に、俺の胸の奥で静かな怒りと、彼女たちを守り抜くという決意が固まった。
――翌日の昼下がり。
ルナミスマートへ夕飯の買い出しに向かおうとしていたルナとクロエの前に、再びあの真っ白な高級スーツが現れた。
「やあ、奇遇ですね。ルナ、クロエ」
勇者ブレイドが、前髪をファサッとかき上げながら二人の前に立ち塞がった。
「……ブレイド様。何か御用ですか」
ルナが警戒して一歩下がる。
「いやね。昨日、君たちと再会した後、念のため君たちの現状を『リサーチ(調査)』してみたのですよ。情報ギルドのデータべースを叩いてね」
ブレイドは魔導タブレットを取り出し、得意げな顔で画面を見せた。
そこには、『第三解体班、一日でキングクラブ500匹解体の歴史的快挙!』という、魔工船でのルナたちの凄まじい労働データが記録されていた。
「驚きましたよ。まさか、あの『不良債権』だった君たちが、極限の環境下でこれほどの『アウトプット』を出せるとは。どうやら、私の最初のアセスメント(評価)には、少しだけバグがあったようだ」
まるで自分が間違っていたことを認めないような、上から目線の物言い。
ブレイドは、ニチャァッとした笑顔を浮かべ、両手を広げた。
「そこで、君たちに素晴らしい『オファー』を持ってきた。君たちのその異常な作業効率……私の『ポポロ村リゾート開発プロジェクト』にジョイン(参加)させてあげましょう!」
「……は?」
クロエがドン引きした顔でブレイドを見る。
「君たちの潜在能力を高く評価し、特別に『CFO(最高カニ剥き責任者)』と『COO(最高ポーション製造責任者)』の役職を与えましょう! あの貧乏くさいイレギュラーの少年の元を離れ、再び私の元で『リスキリング(再教育)』を受けるチャンスです!」
ブレイドは、自分の提案を「絶対に断られるはずがない恩赦」だと本気で信じ込んでいる顔だった。
一度捨てた部下が有能だと分かった途端、都合のいい横文字を並べてヘッドハンティングしてくる。その身勝手さと傲慢さに、物陰から様子を見ていた俺でさえ、吐き気を催すレベルだった。
だが、かつて彼に怯えていた二人の少女の瞳には、もう過去のトラウマは微塵もなかった。
「……ブレイド様」
ルナが、静かに、しかし冷たく言い放つ。
「あなたからの『オファー』に対する、わたくしたちの答え(アンサー)は――」




