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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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65/66

65話 日本シリーズ第七戦⑤

 初回、二回で六点を先行した。

 何度も追いつかれそうになったけど、その度に追加点を取った。

 あとはエースの森本が残りを締め、日本一という青写真を描いていたカウボーイズの物語は、坂根によって見事に打ち砕かれた。


 八回裏に飛び出した坂根の同点ツーランホームランに、陽翔は落胆をすると同時に、その技術の高さに感心してしまった。

 体に近い内角へのボール球、しかも森本のキレとスピードを伴ったストレートを、腕を上手く畳んでフェアゾーンに入れた上に、角度をつけて、ホームランにしてしまうなんて。

 あんな球をホームランにされてしまっては、バッテリーとしては配球の組み立ても、無意味だと感じてしまうだろう。

 あの球は、あくまで内角への意識づけのためのボール球で、ホームランはおろか、スイングされることすら想定していないはず。


 子どもの頃から坂根に憧れてきて、実際にチームメイトとして間近でプレーしたこともある陽翔であるが、この日本シリーズ第七戦というシチュエーションも含めて、坂根のキャリアで最も素晴らしい瞬間になるのでは、と思った。


「ま、いきりすぎたな」


「うるせー」


 内野陣が集まる中、流石の森本も、意気消沈しているように見えた。

 カウボーイズはここで間を取らざるを得ない。

 投手コーチがマウンドに来る。

 坂根の次は、今日はスリーランを放っている阿田に回る。

 まだ同点だが、は勝ち越し点に繋がる。


「歩かせるか?」


 コーチの言葉に、森本は、首を横に振った。

 誰もが、森本の答えを尊重した。


 カウボーイズ内野陣の輪が解け、試合が再開する。

 阿田慎太郎の応援歌が鳴り出す。

 被せるように、カウボーイズファンの森本への声援が聞こえ始める。


 森本はストレートを外角低めへと突き刺し、球審のストライクのコールがとどろく。

 二球目は内角へのカットボールを阿田は打ちにいくも、一塁線を切る力のないゴロになる。

 ファウルで、二球で追い込む。


 三球目は外へのストレートだった。

 阿田は見逃し、手ごたえがあったのか、坂本キャッチャーは捕球した後、ぴたりとキャッチャーミットを止めた。

 球審の右腕が上がらなかった後、森本と坂本は共に苦笑いをした。


 四球目、高めからストライクゾーンに入っていくカーブ。

 これまた際どい箇所を通ったように見えたが、球審は「っボール!」と少し迷ったように宣告した。


 一球ごとに緊張感が増していく感じがする。

 五球目にバッテリーが選んだのは、決め球のスプリットだった。

 ストライクゾーンの真ん中付近から低めへと落ちていく球に、阿田のバットは空を切った。

 空振り三振で、スリーアウトとなる。

 森本はガッツポーズを作らず、ダグアウトに戻った。


 ◇◇◇◇


 同点に追いつかれた後の九回表は、陽翔からの打順だった。


 少しスポーツドリンクを含み、一呼吸つき、立ち上がって、打席の準備に向かう。

 ヘルメットを被ってグラウンドに出ると、ダグアウト上の席からたくさんの声援が背中に届く。

 360度、どこを見ても熱気が籠っている。


 ウォーリアーズの野手陣もグラウンドに揃っていた。

 体を動かしながら、守りに備えている。

 値千金の同点ホームランを放った坂根は、ウォーリアーズの“坂根”コールを一身に受けていた。 


 マウンドにはもちろん、上菅雅己が立ち続ける。

 投球練習の上菅は、決して力を入れていないように見えたが、表情には鬼気迫るものがあった。


『三番、ショート、五十嵐陽翔』


 コールを受け、左打席に入ると、応援歌が鳴り出す。

 何十回もの打席を重ねたバッターボックスを足でならす。

 打席を整えた後、上菅ピッチャーに目の焦点を合わせる。


 球審の「プレイ!」という声の後、上菅が投球モーションに入る。

 左足が前に踏み出され、右手の指から放たれたボールは、外角低めの隅へ、矢のようにキャッチャーミットに収まった。


「ストライク!」


 一球のストライクでウォーリアーズファンの大歓声が沸くが、陽翔の耳には、どこか遠くに聞こえた。

 聞き慣れた陽翔への応援歌も、明瞭に耳に届きながら、なぜか、隣の部屋で流れている音楽を聴いているような感覚だった。


 阿田キャッチャーの返球が上菅ピッチャーに届く。

 二人のモーションも写真をゆっくりと連続再生し、アニメーションにしているみたいに、きめ細かく動きがわかる。


 上菅の第一球にしても、鮮明かつ緩やかに見えた。

 ピッチャーが始動し、フォームが流れ、指先から放たれたボールがキャッチャーミットに届くまで、すべての動きを手に取るように、この目は捉えることができた。


 上菅の動きを視界に収めながら、一回打席を出て、息を吐いた。 

 気管を通った空気が、口から出ていく。


 自身の体の動きや、血の流れに至るまで、コントロールできている感覚がある。

 自由自在に、意図した通りに体が動かせる。


 試合の途中から、この感覚が続いている。

 先ほどのサンダーソンとの対決でも、彼の投球フォーム、160キロ越えのストレート、切れ味あるナックルカーブの動きを見切り、どのタイミングで、どのように体を動かせば、ホームランになるか、無意識に理解できた感覚があった。

 守備でも、投球とバッターのフォーム、グラウンドの状態、打球に影響するすべての情報を瞬時に察知し、打球がどこに来るか、どのような速度で、どのようにバウンドするか理解でき、好守備に繋げることができた。


 この感覚が続けば、何も恐れることは無いと思った。

 打席に入っても、何一つ不安なく、ただ打てる球を待つだけで良いと思えた。


 上菅が始動し、流麗なフォームから二球目がやってくる。

 外角低めへの、ボールゾーンからストライクゾーンの隅へ決まってくるツーシームだった。

 刹那の見極め後、陽翔は始動し、あとはバットを合わせるだけだった。

 ボールは上手くバットに乗って、押し込むと、ホームランの角度で打球はドームを待った。


 しかし、足りなかったのは打球の方向だった。

 ボールが着弾したのは、レフトスタンドのファウルゾーンで、審判は大きくファウルを宣告する。


 三球目、陽翔は低めのカットボールを見極め、ボール。

 四球目、ストライクゾーンから外に逃げていくツーシームをファウルで逃げる。


 息苦しい攻防だった。

 一球ごとに陽翔は息を吐き、呼吸を取り戻す必要があった。


 五球目、内角へのストレートだった。

 明らかなボール球で、普通のピッチャーのストレートなら、強引にフェアゾーンへホームランを飛ばせたかもしれないが、流石に上菅の球では厳しかった。

 陽翔は手を出さず、ボールカウントだけが増える。


 五球目の攻防が終わり、陽翔はバッティンググローブをつけ直した。

 それにしても、九回完投後、中ゼロ日でこの球は、やばい。

 前日の登板、初回の上菅の登板にも見劣りしない。

 こんなに陽翔の状態は良いのに、仕留められる球が来ていない。


 このシリーズ、やはりウォーリアーズの凄さを思い知らされている。

 陽翔は、ウォーリアーズをずっとテレビで見ていたし、二年前、少しだけ一軍に所属していた。

 でも、チームの恐ろしさの本質は理解できていなかった。

 勝ちへの執念と、プロフェッショナル、土壇場での強さ。

 頂上決戦にふさわしい相手で、この場で戦えることは幸せなことだと思えた。

 同時に、カウボーイズも、そして陽翔自身も、今のウォーリアーズに見劣りしないと思えた。


 上菅はキャッチャーとサインを交わしたのか、一度頷くと、陽翔を強く睨んだ。

 バックグラウンドに流れていた陽翔の応援歌が、さらに遠くから聞こえるようになった気がした。 

 約18メートル先の上菅の左足が高く上がり、溜めを作ると、前へ踏み込まれる。


 それに呼応するかのように、陽翔は右足を高く上げる。

 上菅の右腕が奮われた瞬間、陽翔は上げた足を地面に降ろし、力の解放のタイミングを待った。


 ボールが指先を離れた。

 回転が見えて、ストレートではないと思った。

 右足を開かず、さらに待って、力を溜める。


 ストライクゾーンの真ん中あたりを通っていたボールは、陽翔の懐へ入ろうとした瞬間、落ち始めた。

 上菅の決め球のスプリットだった。

 陽翔は溜めていた体の回転を開放した。

 遠心力に乗ったバットの芯が、落ちていくボールを拾い、巻き込む。


 バットがボールに乗ったら、あとは角度良く上げるだけだった。

 軸を中心に体を回転しながら、腕を押し込み、バットの先がさらに加速していく。


 バットを振り切ると、ボールは陽翔の元を離れ、まっすぐ高く上がっていく。

 遮るものは何もなく、センターバックスクリーンにぶつかった音が聞こえた。

 跳ね返ったボールは、センターのフェンス際に落ちていく。

 センターへのホームラン――再びの勝ち越しの瞬間だった。


 ◇◇◇◇


 グラウンドを一周したときのことはよく覚えていない。

 いつのまにかホームを踏んでいて、その後、チームのみんなにもみくちゃにされた気がする。


 それよりも、一度ダグアウトに戻って水分を取りながら見た三浦の打席のことをよく覚えている。

 陽翔のホームランの後、ピッチャーの上菅は、およそ三十秒は手を膝に付き、項垂れていた。


 それでも三浦が打席に入ると、表情を取り戻した。

 八回と変わらない投球を上菅は見せた。


 ツーストライクツーボールからの六球目、最後は内角低めへのストレートだった。 

 152キロのストレートを三浦は芯で捉えたが、打球はフェンス際のレフトフライになった。

 陽翔の目には、上菅の力が三浦を上回ったように思えた。


 続く五番のハーパーも、六番の前川も、見事に上菅は抑えた。

 スリーアウトを取った後、上菅は八回裏の森本と同様、ガッツポーズを見せることなくダウアウトに戻った。

 上菅の意地・・が、ホームランを打たれた後の投球に垣間見えた。


「しゃあ、行くぞ!」


 チームメイトの誰かが言った言葉に、みんなが答える。

 その声はもう枯れきっていて、誰か言ったか判別できない。


 カウボーイズナインが九回裏の守りに着く。

 “ハルト”コールの中、ショートの守備に着く。


 マウンドに立つのは、変わらず森本だ。

 森本を後押しする声援の中、ウォーリアーズの五番岡村が打席に立つ。


 陽翔は高ぶる気持ちを落ち着かせようと、深めの呼吸を何回かした。

 あとアウト3つで日本一だと意識すると、気持ちがはやる。

 さっきのホームランの感触がずっと消えない。


 森本の投じた第一球のカットボールを、岡村は打ってきた。

 陽翔ショートの前に力の無いゴロが転がる。


 陽翔は三、四歩前に出て、しっかりボールを掴み、流れるままに送球をする。

 まず、一つ目のアウトを取った。


「ワンアウト!」


 前川サードが言い、森本ピッチャーは頷きながら、人差し指を突き立てた。


『六番、レフトフィールダー、ミレット・マホームズっ!』


 ウォーリアーズファンの声援はどんどん増していくが、それに比例するかのように、カウボーイズファンの森本を後押しする声も大きくなっていく。


 マホームズの打席は、初球、外にストレートが外れる。

 二球目、低めへのカーブ、レフト前に抜けようかという痛烈なゴロとなる。


 スイングがボールに当たる瞬間には、そこに来るのがわかっていて、既に走り出していた。

 逆シングルで追いつくと、体勢が反対方向に流れたまま、上半身の力だけで送球した。

 陽翔ショートの送球は、ノーバウンドで三浦ファーストに渡った。


「アウトっ!」


 力強い一塁審のジェスチャーを聞き、三浦はグラブと右手で拍手を送る。

 森本が陽翔を指さす。

 栞緑が駆け寄ってきて、タッチを求める。


 七番の秋定が大声をあげながら、打席に入る。

 カウボーイズファンの“あとひとり”コールが聞こえだした。


「ツーアウトっ!」


 今度は坂本キャッチャーが皆に確認するかのように内野全体を見まわし、人差し指と小指を立てる。

 今はツーアウト。

 そんなことは確認しなくともみんなわかっているだろうけど、野球をプレーしている者たちは、何度もアウト数をチームメイト同士で言い合う。

 なぜかはわからないけど、アウト数を声に出すと、とても心地が良い。


 ウォーリアーズの若きホープ、秋定はこの絶体絶命の局面でも、果敢にフルスイングをしてきた。

 長身でパワーのある秋定のフルスイングは、一点差のこの局面では、一発で同点――ホームランという危険性を感じるものだった。


 それでも、森本にとって打ち気に逸る秋定を料理することなど、造作が無い事のように見えた。

 ツーストライクワンボールからの三球目、低めに落ちるスプリットに、秋定のバットは空を切った。

 球審の試合終了を告げる声は、まったく聞こえなかった。


 陽翔はダイヤモンドの中心に向かって走り出した。

 グラウンドに立つ他の八人も、ダグアウトにいる選手も、皆がそうだった。

 マウンドの森本は、最後の瞬間、グラブを高くまで放り投げていて、選手の輪ができた時、グラウンドに落ちた。


 そこからは喜びをひたらす皆と共有した。

 大黒監督と、三浦と森本の後、陽翔は胴上げをされた。


 ひとしきりをチームで輪を作って喜び合った後、陽翔はふと、一塁側のウォーリアーズダグアウトを見た。

 もう半分以上の選手がダグアウト裏に戻っていたが、カウボーイズの胴上げを見ている選手もいた。

 その中で、ダグアウトの壁に背中をもたれながらこちらを見ている選手と目が合った。

 それは坂根だった。


 少しだけ気まずくて、陽翔は帽子を下げ会釈し、すぐに目を背けようとした。

 坂根は、何やら陽翔へ手招きをしながら、こちら側へ歩いてきた。


 先輩に呼ばれている以上、陽翔は坂根の元に行くしかなかった。

 喜びの輪を抜けて、坂根と陽翔は、一塁側のファウルゾーンで向かい合った。

 坂根は、


「今日は俺と、俺らの負けだ」


 と言った。続けて、


「だけどな、来年の俺らは今年より絶対強い。お前らも、絶対日本シリーズに戻って来いよ。三浦と玲央がいないからって、負けたら承知しねえぞ」


 陽翔は、「はい!」と大きく答えた。

 そこへ三浦がやってきて、坂根に向かって言った。


「楽しかったです。ありがとうございました。」


「どういう意味だよ。皮肉か?」


「やはり、あなたは日本に留まるべきではないと思う」


「お前、向こうで無様な姿を晒すなよ。お前が大して打てなかったら、後から来るやつらの評価に響くからな」


 坂根は少し頭を掻き、そう言った。


「待ってますよ」


 そう言って、三浦はチームメイトたちの元へ戻っていった。

 坂根も「じゃあな」といって、ダグアウトに戻っていった。


 ◇◇◇◇


 その後、日本シリーズの殊勲賞とMVPが発表された。

 殊勲賞は、カウボーイズは三浦、ウォーリアーズは坂根だった。

 そしてMVPは五十嵐陽翔と発表され、カウボーイズファンからの拍手に包まれた。


 陽翔は用意されたインタビュー台に立たされ、インタビューを受けた。


 ――日本一、そして日本シリーズMVP、おめでとうございます! 率直な気持ちを聞かせてください。


「えっと……そうですね。何よりもチームが日本一になれて、とても嬉しいです」


 ――カウボーイズにとっては20年ぶりの日本一となりました。


「そうですね……ファンの皆さんに喜んでもらえてたら嬉しいです」


 ――大量リードを序盤に上げながら八回裏に追いつかれました。その後の九回裏、どのような気持ちで打席に立ったのでしょうか?


「えっと、追いつかれたので、勝ち越したいと思ってました」


 ――それはつまり、ホームランを狙っていたと?


「狙っていたというか……まあ、そうですね。たぶん……」


 ――打った後、ダイヤモンドを一周しているとき、どんなことを想ったのでしょう?


「凄い興奮して……あんまり覚えていないです、すみません」


 自分でも歯切れの悪いインタビューをしているなあ、と思っていた。

 今年は何回もヒーローインタビューを受けたけど、やっぱりこの日本シリーズの場は特別に感じるし、まだ勝ち越しホームランと日本一の余韻に体が浸っていて、頭がふわふわした感じ。

 全国ネットに映っていることを思い出し、頭の中でだけど、少し気合を入れ直した。


 ――日本シリーズは第七戦の最終回までもつれる激戦となりました。どのような気持ちで戦っていたのでしょうか?


「やっぱりウォーリアーズもすごい強かったですし、ただ一戦一戦、ひとプレーひとプレー丁寧にやっていき、自分たちの力が出せれば絶対勝てると思って戦ってました」


 ――三浦選手と森本選手が来年からアメリカに渡り、大黒監督も今年で退任が決まっています。カウボーイズにとってはどのような気持ちで戦っていたのでしょうか。


「自分は全然、今年カウボーイズ二年目ですが、たくさんお世話になった方々なので、絶対最後は日本一で有終の美を飾らせてあげたいという気持ちでした」


 ――また今年は五十嵐選手にとってはメモリアルな一年になりました。レギュラー1年目にして大活躍。本塁打王、打点王を獲得し、新人王はもちろん、シーズンMVPは確実となっています。それに、オールスターMVP、さらに日本シリーズMVPも獲得となりました。いたりつくせりの今年一年を振り返ってみていかがでしたが。


「えっと……出来すぎですよね。ほんと、自分でもびっくりです」


 陽翔が苦笑いをしながら言うと、観客たちに少し笑いが起きた後、なぜか、“ハルト”コールが起きた。


 ――また対戦相手のウォーリアーズは五十嵐選手が以前所属していたチームであること、そして移籍の経緯も話題になりました。そのチームと日本シリーズでの対戦、どのような気持ちだったのでしょうか。


 なんだか答えにくい質問だった。

 “移籍の経緯”という言葉で濁しているが、インタビュアーは、森田監督との話を聞き出そうとしている。

 少し言葉を失って黙ってしまったが、陽翔は話し出した。


「えっと、試合に関しては相手がどこであろうと関係なく勝つため全力を尽くしてやるだけだと思っていましたので、意識しないようにしていました、ですが――」


 何かを期待するかのように、インタビュアーの目力が強くなった。


「やっぱり、自分がプロとして初めて入団した球団ですし、高校自体、全然大したことなかった自分を指名してくれてとても感謝しています。

 入団してからも、たくさんの方に支えられました。同期の皆さんも仲良くしてくれて、先輩方、コーチたちにはプロとしての精神、技術を教えてもらいました。いろいろ外からは言われましたけど、ウォーリアーズには感謝しかないですし、ウォーリアーズに指名してもらって、数年間過ごしたからこそ、今の自分があると思っています。

 そのチームと、日本シリーズを戦えて、とても幸せでした」


 考えていたわけではないけど、一度話し出したら、言葉が止まらなかった。

 陽翔が話し終わったとき、ドーム全体から拍手が起きて、今日何度目かの“ハルト”コールが起きたが、今回はやけに声援が大きかった。

 顔を上げて見渡すと、その拍手と声援はカウボーイズだけでなく、ウォーリアーズファンから起きていることに気づいた。

 ドームにはカウボーイズファンはもちろんだけど、ウォーリアーズファンの大半がまだ残っていた。


 ここで一塁側のダグアウトにも、ウォーリアーズの多数の選手やコーチたちがいて、陽翔に拍手を送っていることに気づいた。

 その先頭に立っていたのが、坂根だった。

 ドーム全体とウォーリアーズの選手たちを見たとき、陽翔の頬に涙が伝った。


 1分ぐらい陽翔へのコールは止まなかったし、陽翔の涙も止まらなかった。

 インタビュアーは空気を呼んだのか、質問するのを止めた。

 少しして、ドームの空気が落ち着くと、インタビュアーは切り出した。


 ――試合後、ウォーリアーズの坂根選手と言葉を交わすシーンもありました。何を話していたのでしょうか。


「え、えっと……来年、またここで会おうという話をしました」


 今度は、ドームはうおお、という盛り上がりを見せた。


 ――それで五十嵐選手はなんと?


「“はい!”とだけ答えました」


 陽翔が答えると、ドームにさらに大きな地鳴りのような声援が轟き、盛り上がる。


 ――今年一年、五十嵐選手にとっては最高の一年だったと思いますが、来年への抱負、聞かせてください。


「えっと、今年一年の成績がまぐれだと言われないよう、頑張ります!」


 ――最後にファンの皆様へメッセージをお願いします


「今年一年、たくさんの声援をありがとうございました。来年もリーグ優勝、日本一になれるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします! ウォーリアーズファンのみなさんも、来年もまたここで会いましょう!」


 インタビュアーが、「今日のヒーロー、いや今年のヒーロー、日本シリーズMVP五十嵐陽翔選手でした!」と言ったが、それをかき消すぐらいの声量を360度から浴びた。

 陽翔は帽子を取って、手を挙げて歓声に答えた。


 三浦と森本には、「最初、硬すぎだろ」といじられた。

 島岡や栞緑はなぜか「感動や!」「感動しました!」と言って、泣いていた。


 スマホを見ると、たくさんのメッセージが来ていた。

 もちろん楓のもあって、すぐに通話を返した。

 後はビールかけをして、びしょびしょになって、声が枯れた。

 そんな日本一になった日の夜だった。


 ◇◇◇◇


 5.牛を飼う名無し


 やばい

 涙が


 16.牛を飼う名無し


 ずっと鳥肌立ってる


 21.牛を飼う名無し


【悲報】明日仕事なのに興奮して眠れる気がしない


 32.牛を飼う名無し


 あかん酒止まらん


 49.牛を飼う名無し


 これもうカウボーイズの最終回だろ


 63.牛を飼う名無し


 こんな感動体験したら

 来年以降燃え尽きてしまいそう


 78.牛を飼う名無し


 来年というか明日以降何も楽しくなさそう


 86.牛を飼う名無し


 五十嵐のインタビュー感動すぎだろ


 90.牛を飼う名無し


 ウォーリアーズファンは敗けても結構球場残ってたな

 五十嵐のインタビュー聞きたかったやろうなあ


 99.牛を飼う名無し


 ていうかウォーリアーズファンも陽翔好きやろうし


 102.牛を飼う名無し


 ワイ カウボーイズファン

 ヨッメ ウォーリアーズファン

 は日本シリーズの間ずっとぎすぎすしてて

 今日の2回ぐらいはヨッメぶち切れ

 8回ニコニコからの9回またぶち切れだったけど

 最後五十嵐のおかげでヨッメニコニコや

 助かったわ


 134.牛を飼う名無し


 >>102

 草


 148.牛を飼う名無し


 あそこでウォーリアーズに感謝を言えるのはええな


 160.牛を飼う名無し


 今日で五十嵐はさらにスターになるやろうな

 自分の話よりウォーリアーズへの感謝を長く話してたし

 茶の間に受けそう


 176.牛を飼う名無し


 五十嵐陽翔 

 .414 6本 14打点 OPS 1.933


 193.牛を飼う名無し


 >>176

 wwwwwwwwww


 199.牛を飼う名無し


 >>176

 えぐい


 200.牛を飼う名無し


 >>176

 4本塁打の三浦の影が薄いありえない事態


 212.牛を飼う名無し


 >>176

 7試合で6本はやばいやろww


 241.牛を飼う名無し


 >>212

 なお相手にも6本打った奴がいる模様


 262.牛を飼う名無し


 >>241

 おかしいよ


 271.牛を飼う名無し


 >>241

 どっちもショートだという事実


 290.牛を飼う名無し


 ホント坂根は怖かった

 阿田も岡村も怖いし

 中継ぎも強い

 先発も強い


 301.牛を飼う名無し


 ウォーリアーズも強かったなあ

 戦力落ちないだろうし

 来年も本命やな


 312.牛を飼う名無し


 陽翔がMVPだけどみんな頑張ったよな


 330.牛を飼う名無し

 上菅の中0日登板、忘れられる


 346.牛を飼う名無し


 >>330

 敵ながらようやっとる

 感動したわ


 360.牛を飼う名無し


 >>370

 正直かっこよかった


 371.牛を飼う名無し


 森本の中2日も忘れられてないかw?


 401.牛を飼う名無し


 >>371

 ワイはちゃんと覚えてるで

 手薄な中継ぎで最後勝ち切れたのはエースのおかげや


 421.牛を飼う名無し


 今日で三浦と森本と大黒監督が最後だと思うと寂しいな


 450.牛を飼う名無し


 >>421

 最高の試合だったけどそう思うと寂しいんよね


 478.牛を飼う名無し


 三浦と森本は日本一という公約を達成したし、海の向こうで頑張れ。

 大黒監督は長い間、お疲れさまでした。日本一になれたのはあなたのおかげです。ありがとうございaました。ゆっくり休んでください。


 502.牛を飼う名無し


 五十嵐この一年ですべて達成しちゃったけど

 来年以降燃えつきたりしないのかな

 ちょっと心配


 515.牛を飼う名無し


 >>502

 新人王、本塁打王、打点王

 シーズンMVP、オールスターMVP、日本シリーズMVPだもんな


 551.牛を飼う名無し


 >>515

 並べてみるとやっぱおかしいわ

 しかも育成ドラフト出身

 監督に干された悲しい過去持ち

 人的補償で移籍


 580.牛を飼う名無し


 >>551

 属性盛りすぎニキ


 534.牛を飼う名無し


 >>502

 大丈夫やろ

 そんな慢心したりするような選手じゃないし


 540.牛を飼う名無し


 >>534

 せやな


 589.牛を飼う名無し


 来年日本一を目指すには三浦と森本の穴がなあ


 607.牛を飼う名無し


 というか、まず中継ぎが足りない(小声)


 622.牛を飼う名無し


 来年心配だけど陽翔がどんな成績残すかもだし

 早くも来年楽しみ


 634.牛を飼う名無し


 カウボーイズの日本一を見るためにニートになったワイ、求人サイトに応募した

 いまなら何でもできる気がする


 672.牛を飼う名無し


 >>634

 まだしてなかったのか(困惑)


 708.牛を飼う名無し


 >>634

 頑張れ

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