↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/66

63話 日本シリーズ第七戦③

 ウォーリアーズ所属の中継ぎ左腕、内海うつみ大樹だいきの日本シリーズは、激戦をブルペンで眺めているだけで終わりそうだ。

 第一戦の登板以降、中継ぎ投手として常に待機しながら、一度も登板機会はない。

 そして、この第七戦も、森田監督の選択肢に自分は浮上しないだろうと思う。


 プロ五年目の今年、ウォーリアーズの一軍にようやく定着できた内海にとっては、初めての大舞台である。

 それが初戦に大差で負けている場面の敗戦処理で登板し、打たれて、以降登板無し。

 なんとも、むずがゆい。


 また今年の日本シリーズというのが、球史に残る激戦となっていること、内海と同じ年のドラフトでウォーリアーズに入団した、同期である五十嵐陽翔がその中心にいることで、悔しさは増す。


 この試合で登板しても、カウボーイズ打線の的になるだけ。

 つまり能力不足。

 それは内海自身が、十分理解している。

 自分に能力があれば、このウォーリアーズとカウボーイズの日本シリーズという物語の、登場人物の一人になれただろうに。 


 それにしても、この試合はどうなっていくのだろう。

 初回、二回とカウボーイズはケントを攻め立て、6点を先行。

 対するウォーリアーズも二回裏に2点を返し、三回には阿田のスリーランホームランで1点差に迫った。

 しかし、すぐにカウボーイズが2点を追加し、三点差に突き放す。


「凄い試合だな」


 内海の隣で試合を見ていた宮本秀高が、試合の映るモニターを眺めながら言った。


「他人事すぎませんか?」


「いや、もう他人だろ。もうこの試合に俺らの出番はねえよ」


 宮本は内海と同じく、この日本シリーズにおいて一回しか登板が無い。

 二年前、フリーエージェントでウォーリアーズにやってきた彼にとって、チームの戦力になれていないことは、悔しい事実のはず。

 だが、内海の目には、宮本にそんな様子はまるで無いように見えた。


「もう、あの監督の中で使う選手は決まっているんだよ」


 その言葉は、どこか監督への呆れや怒りが含まれているように思えた。

 宮本といえば、陽翔の人的補償カウボーイズ移籍のきっかけとなった選手だ。

 FAで出ていかれたカウボーイズファンにとっては英雄で、迎えいれたはずのウォーリアーズにとっては怒りの対象という、あまり居心地が良いとはいえない立場に置かれている。


 四回裏、カウボーイズのマウンドには前の回からリリーフの平山が続投する。

 七番の秋定を打ち取った後、八番の清川にヒットを許す。

 九番のピッチャー山居のとこで登場した代打は打ち取り、ツーアウトにしたものの、一番の吉村に四球を出す。

 ツーアウトでウォーリアーズのチャンス。

 二番の松井の右中間を破るタイムリーで、ウォーリアーズに2点が入る。


 8-7。

 再び点差は肉薄する。

 ここでカウボーイズベンチは平山を諦める。

 出てきたのは、守護神のアレンビーだった。


 本来なら守護神の登場に盛り上がるはずのカウボーイズファンも、ここでアレンビー!? という驚きの方が勝ったようで、どよめきがドームに広がっていく。

 実際、四回までに平山とアレンビーを使ってしまえば、後の回は誰を投げさせるつもりなのだろう。

 ウォーリアーズも山居を早い回から使っているが、カウボーイズとは中継ぎ陣の層が違う。


「あっちももう使えるピッチャーしか使わんみたいですね」


「このレベルになると、もう信頼のあるピッチャーと心中するしかないよな」


「でも、こういう展開になったらうちが有利じゃありません?」


「客観的にはそうだが、今年のカウボーイズならまだ何かやってくれそうなんだよなー」


「ここ、ウォーリアーズのブルペンですよ。古巣の肩を持つんですか?」


「客観的な話だよ」


 アレンビーに対するのはウォーリアーズの誇るスーパースター坂根勇気だ。

 坂根相手に、アレンビーは160キロのストレート、140キロのチェンジアップ、ナックルカーブと自身の持てる技を次々と繰り出す。

 坂根もそのすべてに対応し、バットに当ててファウルで逃げる。

 空振り三振という幕引きを許さない。

 内海と宮本は声を失い、二人の対決に見入っていた。


 最後、アレンビーの162キロのストレートで坂根のバットが空を切った。

 ブルペン内ではあちこちで落胆の声が漏れたが、内海はずっと呼吸を我慢していたかのように、はあーと長い息を漏らした。


「凄い試合だな」


 宮本が、先ほどと同じ言葉をもう一回言った。

 内海からしても、本当にそんな言葉しか出ない。


「向こうはいい雰囲気だな」


 アレンビーを迎え入れるカウボーイズベンチを持て、宮本が言った。

 やはり、宮本は古巣に対し、どこか羨ましさを覚えていると内海は思った。


「もしかして、カウボーイズに戻りたいとか思ってます?」


「さあな。ただ、傍から見るとわからないこともある。カウボーイズのことも、ウォーリアーズのことも…個人的にプレーしやすかったのは、カウボーイズだと思う」


 それだけ言って、宮本は口を閉ざした。


「それは、なぜですか?」


「監督の差じゃないか? 知らんけど」


「森田監督のせいでウォーリアーズの雰囲気が悪いと?」


「そこまでは言ってないが…大黒監督との差はあるだろうな、たぶん。あの人は凄いよ。チーム作りが上手いというか。五十嵐だって、あの監督じゃないと大成しなかったんじゃないか」


 アレンビーが四回裏を抑えた後、五回表のウォーリアーズのマウンドにはこちらも守護神、イーサン・サンダーソンが登板する。

 どちらも出し惜しみせず、良いピッチャーから出していく。


 サンダーソンは、七番から始まったカウボーイズの攻撃を、簡単に封じる。

 まともにバットに当てさせず、三者連続三振。

 2メートル近いサンダーソンの白い肌は、モニター越しでもはっきりとわかるぐらい真っ赤に紅潮していた。

 血管がちぎれそうで心配になるぐらいのガッツポーズを見せて、ダグアウトに戻っていく。


 サンダーソンには、地鳴りのような歓声が浴びせられる。

 サンダーソンは、もっと盛り上がれと、両手を何度も上げ、観客を煽る。

 さらにドームのボルテージが上がっていく。


 その裏のウォーリアーズの攻撃は、アレンビーが回を跨ぎ、続投する。

 アレンビーは四番の阿田、五番の岡村を連続三振にとったものの、六番のマホームズにレフト前ヒットを許す。

 さらに七番の秋定にもライト前にポトンと落ちる力の無いラッキーヒットを許し、ピンチを作られる。

 しかし八番の清川をストレートで押し、最後はチェンジアップで空振り三振に切って取った。


 先ほどのサンダーソンの再現かのような、大きなガッツポーズをアレンビーは披露する。

 顔は紅潮して、万雷の拍手と歓声を浴びながら、カウボーイズのダグアウトに戻る。

 試合はまだ五回ながら、両チームの守護神が完璧な投球を見せ、さながら終盤のような盛り上がりだ。


 内海は「凄い試合」と呟きかけて、バカみたいな感想だと思い、やめた。

 しかしプロ目線から見ても、そんな月並みの感想しか出てこない。


 少し間が空いた後、六回表が始まる。

 サンダーソンが続投、二イニング目に突入する。

 打順は一番から。


 五回表を三者三振で終えた勢いそのままに、サンダーソンの投球は切れていた。

 一番、二番とたった七球で二者連続の三振にとり、これで前の回から五者連続三振である。


 内海の目から見ても、サンダーソンはキレキレだった。

 ストレートは160キロを下回ることなく、チェンジアップもストレートと同じフォームで繰り出されながら、急速に失速する。

 通常のカーブよりも早く、鋭く、縦に落ちるナックルカーブは、まるでバットに当たる気配がしない。

 シーズン通じて被打率1割以下だったナックルカーブという魔球は、この日本シリーズという舞台でも、カウボーイズ打線に付け入る隙を与えていない。


 しかし、次の瞬間、ウォーリアーズ選手、首脳陣、ファンが言葉を失う光景が訪れる。

 サンダーソンをあっけなく打ち砕いたのは、陽翔だった。


 その名が呼ばれた瞬間、カウボーイズファンの歓声とウォーリアーズファンのブーイングがせめぎ合う。

 ファン同士の感情がぶつかり合い、ドーム中に溢れんばかりの中、やはり、サンダーソンは気合十分で第一球を投じる。


 初球はナックルカーブだった。

 阿田キャッチャーの意図はわかる。

 ピッチャーとバッター、共に力の入る場面であり、少し勢いの削いだ変化球であれば、確実にストライクが取れるだろうといったところ。

 低めいっぱいに決まりそうで、事実、陽翔バッターもストレートを待っていて、タイミングをずらせたように、内海の目には見えた。


 だが、陽翔は前の右足を振り下ろした後、スイングを開放するタイミングを待ち、合わせ、あっさりと低めのナックルカーブをバットで拾う、掬い上げる。

 打球はピンポン玉のように簡単にライトスタンドまで飛んだ。


 さっきまでせめぎ合っていたカウボーイズファンとウォーリアーズファンの歓声は、10-0で前者のものが大半になる。

 陽翔のホームランで9-7、点差は2点に広がる。


 これで陽翔の日本シリーズでのホームランは5本、一回の日本シリーズでの歴代最多本塁打である、今年の坂根の本数に並んだ。


「あぁ…」


「化け物……」


「どうやって抑えるんだよ……」


 ブルペンで誰かが項垂れたようにつぶやく。

 まるで漫画のキャラのような言葉で、敵への絶望を表現していた。

 でも実際そうで、敵からしてみると、今の陽翔は化け物だし、抑える方法が見つからない。


 内海はチームメイト皆と同じような絶望感よりも、どこか陽翔への誇らしさを感じた。

 彼は化け物でもなんでもなく、ただの同期として内海の目の前にいた。


 ドラフトの同期入団として顔を合わせたとき、陽翔は田舎の高校を出たばかりの純粋な少年のように見えた。


「い、五十嵐陽翔です。よろしくお願いします!」


 緊張気味に自己紹介をする陽翔の姿はよく覚えている。

 社会人経験があるとはいえ、やはりプロの世界に緊張と畏怖を感じていた内海であったが、陽翔の緊張しっぱなしの姿を見て、どこか緊張が和らいだ。


 陽翔は入団してすぐに入った球団寮で隣の部屋だったため、自然と話す機会が増えた。

 人生の先輩として、主に野球以外のことを教えた気がする。


 彼がウォーリアーズの一軍に定着しだしたときは、自分のことのように嬉しかった。

 森田監督に干されたことは、今でもおかしいと思っているが、結果として彼の才能が花開く結果になったので、良かったと思っている。


 彼がどこまでいくか見てみたい。

 決して期待されない中、プロ生活をスタートした。

 順調にステップしていきそうなとき、理不尽な采配によって活躍の場を閉ざされた。

 それでも逆境に負けず、新たな地で、今、日本中を魅了している。

 別に向こうは内海に大した感情は持っていないだろうが、内海の方は同期として陽翔のことを誇りに思っている。


「くそ…、何だってんだ」


 陽翔に恐怖する他のチームメイトとは違って、宮本は苦虫をつぶしたような顔で言った。


「あんなのと比べられる俺の身になってみろ。俺は俺の権利を行使しただけで、人的補償があんな化け物なんて聞いてねえ。俺を批判するのはおかしいだろ!?」


 内海は確かにそうだと笑ってしまった。

 宮本は、陽翔を放出させた原因であることから、二人の成績を比べられ批判されている。


 でも、陽翔と釣り合う成績とはどんなのだろう?

 投手タイトルを全部取るレベルで活躍しても、今の陽翔と釣り合っているといえるだろうか。

 宮本がそんな活躍をできるなど日本中一人も思っていないし、FAで獲得を決めたウォーリアーズのフロントですら、そこまでの活躍は期待していないはず。


 陽翔が大活躍をしたせいで、宮本は不当に批判され、世間でも笑われることになってしまった。

 そう考えると、宮本は陽翔最大の被害者なのかもしれない。


「宮本さん! 見返してやりましょう! 宮本さんのことを、ボロクソいうやつらを」


 内海が言うと、宮本は驚いたように目を見開いた。


「なんだよお前。いきなり大きな声出すな」


「俺はやりますよ。来年は、グラウンドの中心にいて見せる。そして、陽翔を抑えてみせる。宮本さんも、そうでしょう?」


 ほんの数秒考えるよう表情をした後、宮本は「……ああ」と言った。


 五十嵐の後、三浦をサードゴロに抑え、サンダーソンはこの回を最少失点で切り抜ける。

 続く六回裏、カウボーイズのマウンドに立った選手を見て、内海と宮本は驚いた。


「森本玲央!?」


 三日前、九回を投げ切ってカウボーイズの勝利に貢献した森本玲央が、中二日でマウンドに上がった。

 地鳴りのようなカウボーイズファンの歓声と、ウォーリアーズファンのどよめきが重なり、ブルペンが揺れたように感じた。


「これは決まってたんだろうな」


「でしょうね」


 森本が第七戦のベンチ入りメンバーに入った時点で登板は予測されていたが、カウボーイズベンチは彼ありきで継投を考えていたのだろう。

 終盤に森本がいるからこそ、平山やアレンビーを早い回で投入できた。


 六回裏、9-7。

 カウボーイズ二点のリード。

 あとの四イニングを、森本は最後までいくだろうか。

 そうなれば、ウォーリアーズとしてはかなり厳しい。


「凄い試合になってきたな……」


 今日何度目かの言葉を宮本がつぶやいた瞬間、ブルペンのドアが開いた。


「えっ?」


 誰かがブルペンに入ってくる。

 内海はその人物を見て、森本登場の何倍も驚いた。


 ◇◇◇◇


 217.牛を飼う名無し


 今のホームランやばくね

 何の抵抗もなしでスタンドまで届いた感じ


 231.牛を飼う名無し


 ファンながら五十嵐のこと怖くなってきた…

 化け物やん…


 252.牛を飼う名無し


 気持ちええーwwwwwwwwwwwwwww


 269.牛を飼う名無し


 五十嵐最強!


 271.牛を飼う名無し


 あと4イニング2点リードで足りるのか?


 291.牛を飼う名無し


 来たああああ


 312.牛を飼う名無し


 エース!


 338.牛を飼う名無し


 森本玲央登場


 351.牛を飼う名無し


 ここで来たか


 371.牛を飼う名無し


 あと4イニング行くんかな


 393.牛を飼う名無し


 もう森本しかおらんよ

 最後までいくしかない


 402.牛を飼う名無し


 森本しか勝たん!


 415.牛を飼う名無し


 凄い試合だ…


 420.牛を飼う名無し


 泣けてきた

 こんな試合見れて幸せ

 カウボーイズファンで良かった


 431.牛を飼う名無し


 勝ったな(確信)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。