61話 日本シリーズ第七戦①
東京ドームに、木製バットの芯でボールを叩く音が軽やかに響いた。
一番バッターの栞緑が、ウォーリアーズ先発――ケントの154キロのストレートを叩いた打球は、綺麗にセンター前へと抜けていった。
カウボーイズファンの奏でる応援歌が、一瞬にして歓声に切り替わった。
続く二番のパーキンスは粘ったものの、七球目のチェンジアップにバットが空を切り、空振り三振に倒れた。
ワンアウト一塁で打席に立つと、東京ドームの六割ぐらいを占めるウォーリアーズファンはブーイングを陽翔へ浴びせる。
それをかき消すかのように、カウボーイズファンの歌う陽翔の応援歌がドームに響き始める。
初球のカットボールだった。
内側を厳しく攻めてきたボールに対し、腕を小さくたたみ、ライト前へと持っていく。
ライト前ヒットで、陽翔は一塁ストップ。
一塁ランナーだった栞緑は三塁まで到達した。
四番の三浦が打席に立つと、マウンドのケントはその表情をさらに険しくした。
頬を占める茶色のひげから覗く白い肌は、血の気が止まらぬかのように赤く染まっている。
ケントは一塁ランナーの陽翔を気にすることなく、三浦への第一球を投じた。
外角低めへの156キロのストレートに対し、三浦は逆らわずにバットを出していく。
快音が響き、右中間を真っ二つに割るような打球が飛ぶ。
少し遅れて、カウボーイズファンの大歓声が轟いた。
三塁ランナーの栞緑がホームベースを踏む。
ケントの投球と三浦のスイングを見た陽翔は、打球の行方を見る前に長打を確信した。
脚のギアを上げ、ホームを目指して走り出す。
ライトの清川からセカンドの吉村へボールは渡ったが、吉村はホームへ送球しなかった。
既に陽翔はホームベース近くへ来ており、送球しても間に合わないと判断したのだろう。
陽翔はスライディングすることなく、悠々とホームを踏んだ。
攻略は難しいと目された相手先発のヴィンセント・ケントから、カウボーイズは二点を先制する。
五番のハーパー、六番の前川は連続で倒れ、一回表のカウボーイズの攻撃は終わる。
日本シリーズ第七戦は、初回から動く。
カウボーイズファンのボルテージが上がり、ドームは大歓声に包まれる。
攻撃が終わった後も、しばらく三浦コールは鳴りやまなかった。
一回裏、カウボーイズのマウンドに上がったのは結木亮。
先頭の吉村をセカンドゴロに打ち取り、二番の松井もセンターフライに抑える。
坂根勇気――歴代最多となる、この日本シリーズで5本のホームランを放っている彼が打席に立つ。
今度はウォーリアーズファンの期待が、歓声となってドームを占めていくが、ここは結木の投球が勝った。
ツーシームで坂根を詰まらせ、初回の攻撃を三回で終える。
幸先良いスタートへ、結木!、結木!と、賛辞のコールが湧く。
二回の表の攻撃は、七番の福田周人から。
福田はケントの155キロのストレートをセンター前に転がし、出塁を果たす。
続く八番の坂本は四球を選び、さらにチャンスを拡大する。
ワンアウト一、二塁で打席に立つのは、ピッチャーの結木。
当然、ベンチからのサインは送りバントだった。
結木は見事に期待に応えた。
ケントの剛球の勢いを見事に殺し、緩やかなゴロがケントの前に転がる。
ケントは一瞬、三塁ベースの方を見たが、三塁刺殺を諦め、一塁へ送球した。
これでワンアウト一、二塁。
打順はトップに還る。
初回に続いて、ドームに期待が溢れかえる。
追加点のチャンス。
しかしそこはケントも意地を見せた。
一回にヒットを放っている栞緑をストレートで圧倒し、最後はチェンジアップで三振に切って取った。
ケントは大きくガッツポーズをとりながら、何やら英語で放送禁止用語を叫んでいた。
まだ、カウボーイズのチャンスは続く。
二番のパーキンスは早々に追い込まれたが、そこからが粘り強かった。
ケントが打席を終わらせにかかってきた決め球を、ギリギリまで見極める。
ストライクはカットし、ボール球は見逃す。
ケントが悪い球を投げているわけじゃない。
栞緑から三振を奪った球を見ると、相当調子はよく見える。
それでもここまで簡単にアウトを取れないのは、間違いなくカウボーイズ打線の調子が良いからだと思う。
パーキンスは、ケントに粘り勝った。
ケントは鼻息荒く、またもFから始まる言葉を叫んだ。
これが昔のケントの姿なのだろう。
日本に来て精神的に成長したとされるケントだが、この展開はさすがに苛立ちを抑えられないようだ。
パーキンスは、打席の最後のあたりは前に飛ばすことよりも、ファウルで逃げ、フォアボールを勝ち取ることを優先しているように見えた。
狙い通り、後ろへ繋ぎ、ツーアウト満塁。
一塁に向かおうとするパーキンスは、陽翔へ人差し指を向けた。
パーキンスの意気を感じながら、陽翔は左打席に立つ。
声援に圧倒される。
ここは大阪ドームじゃないのに、凄い歓声。
でも、バッターボックスの足場を整えながら、音量の設定を徐々に小さくしていったかのように、歓声が聞こえなくなっていく。
集中力が高まっていくのがわかる。
打つために必要な情報以外は、何も入ってこない。
ケントのわずかな体の動き、表情の揺らぎでさえ手に取るようにわかる。
頬が赤みを帯び、不規則に肩が揺れている。
平常心ではないのは確か。
初球は内角高めを大きく外れて、陽翔の肩に当たりそうだった。
阿田は「すまんな」と陽翔へ声を掛けたが、特に何も返さなかった。
ブーイングが聞こえる、カウボーイズファンからだろう。
二球目はツーシームで、140キロぐらいのボールだった。
何度も見た映像と実際に対戦したイメージだと、その球は、陽翔の膝を抉るような軌道を描くはずだった。
だけど、その球はキレも制球もない。
おあつらえ向きに、真ん中へ来た。
陽翔の持っていたツーシームのイメージを修正し、打ちにいく。
その修正がわずかながら陽翔のスイングを狂わせ、打球はホームランになるほどには上がらなかった。
ライトスタンドをわずかに超えなかった打球は、直接フェンスに当たるツーベースとなった。
三塁ランナーの福田、二塁ランナーの坂本と、二人は余裕を見せてホームへ還ってきた。
一塁ランナーのパーキンスは微妙なタイミングだったが、三塁コーチャーの「回れ!」という指示に従い、三塁ベースを強く踏んでホームへ向かった。
ライトの清川からセカンドの吉村へボールが渡り、吉村は本塁へ送球する。
キャッチャーの阿田はボールを受け取り、そのままパーキンスへ、ボールを持ったミットごとタッチしにいく。
パーキンスの手もそれと同時にホームベースに触れていた。
球審は、アウトを宣告した。
すぐさま大黒監督がベンチを出てきて、“チャレンジ”を要求した。
チャレンジ――回数制限はあるが、判定に不服がある場合、ビデオ判定による確認を要求できる。
二塁ベースに到達し、本塁でのクロスプレイを見ていた陽翔は、セーフを確信していた。
審判団がバックネット下まで下がり、リプレーセンターでの判定を待つ。
ドームのビジョンにプレーのリプレーが流れる。
阿田とパーキンスのホームベースを巡る攻防の瞬間が流れたとき、歓声を上げたのはカウボーイズファンだった。
ショートの坂根が「セーフだな」と呟いたのが聞こえた。
やがて映像を確認してきた審判団が出てきて、セーフを宣告した。
陽翔の走者一掃の三点タイムリーツーベースで、さらにカウボーイズは点差を広げた。
ここでピッチャーが二番手の清水に代わった。
四番の三浦は清水のかわりばなの一球をレフト前に運ぶ。
陽翔は迷わず三塁を蹴り、ホームを踏んだ。
大きすぎる六点目が入った。
ドームの三塁側と一塁側でテンションは対照的だった。
カウボーイズファンは大いに盛り上がっていたが、それ以上にカウボーイズベンチは狂喜乱舞だった。
「うおおおー!」
「日本一だ―!」
誰が言ったかもわからない、獣のように興奮した叫びが次々に聞こえた。
テンションが上がるのも無理はない。
日本一がかかった日本シリーズ第七戦、苦戦が必至されたケント相手に、二回表の時点で、6点を先行したのだ。
五番のハーパーはレフトフライに終わり、この回は終わった。
大歓声の中、陽翔たちカウボーイズナインは二回裏の守りに着いた。
◇◇◇◇
871.牛を飼う名無し
日 本 一 確 定
890.牛を飼う名無し
こんな簡単に6点取れてええんか
901.牛を飼う名無し
今季ケントは5失点以上無しでした
910牛を飼う名無し
ワイ、晩酌を開始
916.牛を飼う名無し
カウボーイズのリリーフ陣じゃ点差あっても安心できん
ワイはまだ新人で
925.牛を飼う名無し
>>916
信じんで、や
948.牛を飼う名無し
>>925
信じないとか言ってるくせに興奮して誤字ってて草
951.牛を飼う名無し
まだだ、まだ笑うのを堪えるんだ
960.牛を飼う名無し
さすがにいけるやろ…
980.牛を飼う名無し
MVPは陽翔やな
999.牛を飼う名無し
阿田あたりにホームラン打たれてじわじわ点差を縮められそう
1000.牛を飼う名無し
日本一や!




