40話 伝説の一年
今シーズンの五十嵐陽翔について、ここまでの活躍ぶりを予想したものは、果たしてこの世界にいただろうか。
いたとしても、その人は狂信的なカウボーイズファンか、五十嵐陽翔と親交があり、個人的に彼を応援している人ではないだろうか。
そう言っても過言ではないぐらい、今シーズンの五十嵐陽翔の活躍ぶりは、昨シーズンをほぼ二軍で過ごした選手としては驚異的で、もはやファンタジーの域に達しているといっていい。
シーズン120試合時点での五十嵐の打率は.340で、チームメイトの三浦の.342に次ぐリーグ二位。
本塁打は33本で、これも三浦の34本に次ぐリーグ二位。
打点は98で、これまた三浦の102打点、シーホークスの松山の101打点に次ぐリーグ三位である。
ついでにいうと盗塁数も現在31で、現在33盗塁のシーホークス本田に次ぐ二位となっている。
つまり、現在の五十嵐は、首位打者、本塁打王、打点王、盗塁王の四冠を狙える位置にある。
二年前のウォーリアーズ時代に守備固め・代走要員として一軍にいた期間が1か月ほどあっただけの彼には、まだ新人王の資格がある。
当然、このままの成績でいえばシーズンMVPも視野に入ってくる。
冒頭の問いに戻るが、五十嵐が首位打者、本塁打王、打点王、盗塁王、新人王、MVPを取る可能性を予想したものはいるのだろうか。
現実的には盗塁王、新人王、さらには百歩譲って首位打者は可能性を見出せたかもしれない。
しかしどれだけ譲っても、本塁打王、打点王、さらにMVPを五十嵐が獲得するとは、おとぎ話のような荒唐無稽さがある。
そして、育成出身選手で、数年前にはFA選手の人的補償に過ぎなかった存在が、あらゆる偉業を成し遂げようとしているのは、もっとファンタジーだ。
現時点で五十嵐が達成する可能性のある偉業の一つとして、40-40(フォーティーフォーティー)が挙げられる。
既に打率3割、本塁打30本、盗塁30個をシーズンで記録するトリプルスリーは、既に達成を確実としている(打率はシーズン終わりまで確定しないが、現時点で.340あれば1か月後の3割はほぼ確実だろう)
トリプルスリーにしてもプロ野球の80年近い歴史において、達成者が10人しかいない大偉業である。
それを8月終わり時点でほぼ達成しているのは驚異的だが、さらにその上の40-40、本塁打40本盗塁40本という大記録も手の届くところまで来ている。
40-40は日本プロ野球の歴史において前例はない。
去年日本人選手がメジャーにおいて本塁打50本、盗塁50個の前人未到の大記録を打ち立てたが、彼以外のメジャーでの40-40達成者はわずか五人しかいない。
日本プロ野球よりも試合数が20弱ほど多く、歴史の長いメジャーにおいても数人しかないない記録だ。
それぐらい、40本塁打を打つパワーと、40盗塁をするスピードの両立するのが難しいといえる。
現時点で五十嵐は32本塁打、31盗塁で、両方とも“40”まで10を切っている。
8月の調子を維持すれば、本塁打は可能性が高いが、盗塁は少し微妙なところだ。
今月の五十嵐は本塁打を打ちすぎて、シングルヒットが少なく、盗塁機会が他の月より少なかった事実はある。
とはいえ、五十嵐は一試合三盗塁も達成したし、巡り合わせが良ければ40盗塁も可能だろう。
次に五十嵐が達成しそうな偉業として挙げられるのが、三冠王だ(さらに盗塁を加えて四冠王の可能性もあるが、ここでは従来の打撃三部門首位による三冠王だけ取り上げたい)。
現在打率二位、本塁打二位、打点三位の五十嵐にとって、三冠王獲得に向けて最大の障壁となるのが、チームメイトの三浦豪成である。
そもそも五十嵐の三冠王可能性が出てきた要因として、もちろん五十嵐の八月の大爆発もあるが、三浦の怪我による離脱という点も大きい。
三浦は八月初めにバッターランナーと交錯し、左ひじの靭帯を損傷した。
その時点での五十嵐の本塁打は18本。
対して三浦は34本で、実に16本の差が両者にあったことになる。
三浦が離脱していた八月中、五十嵐は驚異的なペースで本塁打を量産した。
三浦の持つカウボーイズの球団月間最多本塁打の16本に迫る15本を放ち、シーズン33本のホームラン、三浦との差をわずか一本とした。
打率についても8月初めに五十嵐と三浦と差は三分近くあったものの、今や二厘の差しかない。
打点も今月、五十嵐は30もの打点を上乗せし、三浦との差は一桁までに乗せた。
五十嵐が三冠王に輝くことの現実的な可能性は、期待を込めて60%としておこう。
彼が三冠王を獲得する上で、最も障壁となるのが、現在の打撃三部門のリーダーの三浦である。
先ほど述べた三浦の左肘靭帯損傷については当初、復帰まで二ヶ月を要すると見られていた。
ところが三浦は驚異的な回復力を見せ、既に二軍で実践に復帰し、九月最初の試合で一軍に合流すると言われている。
もし三浦が怪我する前と同レベルのパフォーマンスを見せたなら、五十嵐の三冠王を獲得は厳しくなってくるだろうが、いかに三浦といえど怪我の影響は免れないだろう。
彼の怪我によるパフォーマンスへの影響次第で、五十嵐の三冠王獲得は現実味を帯びてくる。
あとは五十嵐が八月の調子を維持できるかどうかだ。
七月以前の五十嵐の成績も良いものではあるが、やはり、八月の成績を九月も続けなければ、三冠王は見えてこない。
次に40-40の可能性だが、これは先ほどと同じで五十嵐が八月の成績を維持できるかどうかにかかってきて、三冠王に比べ、達成可能性が高いと考える。
九月に本塁打、盗塁ともに10本弱上乗せできれば40-40達成になるが、懸念があるとすれば本塁打ないし長打を打ちすぎて、盗塁機会が減ってしまう可能性だけが懸念点だ。
三冠王や40-40を達成するほどの活躍を五十嵐が見せてくれれば、大阪カウボーイズの20年ぶりのリーグ優勝は見えてくる。
現時点でカウボーイズは首位ではあるが、二位のシーホークスとの差はかなり僅差だ。
今年の両チームは双方とも歴代屈指の戦力を誇っており、一位、二位ともに30以上の貯金を叩き出している。
これほど、ハイレベルな優勝争いは滅多に見られない。
カウボーイズ、そして五十嵐の今年一年は、後世に語り継がれるものとなるだろう。
この伝説的な一年は、名残惜しくも残り1か月ほどのシーズンとポストシーズンだけになるが、プロ野球ファンとして楽しんでいきたい。
◇◇◇◇
「っていうことらしいで」
試合前のロッカールーム。
島岡はスポーツサイトに掲載されたあるコラムを、陽翔に見せた。
「っていうことと言われましても……」
とても陽翔のことを大々的に褒めている記事なので、悪い気はしないが、それにしても持ち上げすぎだろう。
三冠王とか、40-40とか、ひたすら陽翔のことを持ち上げていて、どこか心の奥がかゆくなる。
「ついに五十嵐教の宣伝記事が堂々と乗るようになったみたいやな。このコラムの執筆者も信者や」
「嫌な言い方しますね……」
「陽翔先輩、見ました!? このコラム」
陽翔と島岡の下へやってきたのは栞緑だった。
栞緑はスマホの画面を見せてきたが、案の定、島岡と話題にしていたコラムのページだった。
「見たもくそも、ね」
「いいコラムですよね! 特にここ、“伝説の一年”ってとこ。かっこいいです!」
「げっ。ここにも五十嵐教の信者がおったか」
「五十嵐教の信者? もちろんそうです!」
二人の会話を聞いて、陽翔はため息を吐いた。
「でも、これを見て、三浦はどう思うんやろうなあ」
そう言った島岡の表情は、いつになく物憂げに見えた。
◇◇◇◇
817.牛を飼う名無し
本当に五十嵐が三冠王40-40を達成したらとんでもないことになるな
そうなれば新人王MVPもついてくるやろうし
820.牛を飼う名無し
>>817
実質一軍一年目でこんなんやるとか野球漫画だとやりすぎって編集ストップさせそう
825.牛を飼う名無し
三冠王はともかく40-40はいけそう
834.牛を飼う名無し
>>825
40-40を通過点扱いする男
841.牛を飼う名無し
ここで三浦復帰は熱すぎる
849.牛を飼う名無し
どっちが勝とうがファンとして納得できるがどっちかという三浦に勝ってほしいなあ
やっぱり最後の一年だし
871.牛を飼う名無し
三浦の怪我したのは左肘
右バッターにとっては致命的
すなわち三冠王取るのは五十嵐や
ちな草野球通算打率8割
882.牛を飼う名無し
>>871
またお前か
定期的に現れるな
891.牛を飼う名無し
>>871
それっぽいふわっとしたことしか言わない草野球通算打率8割ニキ好き
899.牛を飼う名無し
>>871
雑魚P相手に5打数4安打以降出場無し定期




