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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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37/66

37話 首位奪還戦①

 八月に入った時、カウボーイズのチーム状況は最悪だった。

 チームの大黒柱、三浦の離脱によりチームは崩壊寸前。

 七月終わりに大型連敗を喫し、首位をシーホークスに明け渡し、最大5ゲームもの差をつけられた。


 でも、カウボーイズはそこから変わった。

 陽翔を中心に、チーム全員が三浦の不在をカバーしようとそれぞれの持てる力を出し切り、チームは息を吹き返した。

 シーホークスも好調を維持したため、なかなか背中を捉えられなかったが、ついに八月の後半、ゲーム差はついに0.5まで詰めた。


 そして迎えたホームでのシーホークス三連戦。

 今シーズンのパリーグを占う天王山は、多くのファンが予想した通り大激戦となった。


 初戦を制したのはシーホークスだった。

 主砲の柳沢、デルパイネにホームランが出るなど大量七点を奪い、食らいつくカウボーイズを7-5で振り切り、首位をキープした。


 二戦目を取ったのはカウボーイズだった。

 大一番に中四日で登板したエース森本玲央が完封勝利。

 陽翔のスリーランホームランで挙げた三点のリードを一人で守り切り、ゲーム差を0.5に戻した。


 迎えた三戦目は、両チームの若き怪物、パリーグを代表する左右の剛腕の対決となった。

 カウボーイズの160キロ右腕、山上宗次郎、20歳。

 シーホークスの160キロ左腕、林崎真、23歳。


 キャリアも実績も林崎が上ではあるが、潜在能力では山上も負けていない。

 首位攻防戦に加え、山上VS林崎という怪物対決。

 さらには、八月絶好調の五十嵐陽翔がどこまで本塁打の数を伸ばすか。


 両チームの野球フォンのみならず、野球フォンすべての注目がこの一戦に集まった。


 ◇◇◇◇


「三浦が9月に復帰するらしいが――」

 福岡シーホークスの首位攻防戦第三試合。

 試合前の円陣の中心には、島岡壮太がいた。


「このまま二位のまま復帰したら、あいつはなんていいよると思う?俺がいないとやっぱり無理みたいだな、とかほざくと思わんか?」


「違えねえ」


 島岡の言葉に、前川が同意した。

 三浦の後輩である陽翔、栞緑らは遠慮がちに頷いた。


「な、腹立つやろ? だから、絶対俺らだけで首位になって、シーホークスを振り切って、あいつが帰ってきたときに、『今さらお前なんていらんわ』って言ってやろうや!」


 島岡の煽りに、皆が思い思いに「おー!」とか「はい!」とか答えた。

 実際のところ、島岡も円陣で言った言葉を本気で思っているわけではなく、チームのモチベーションを上げる言葉なのだろうが、ある(・・)程度・・は本音なのだろう。


 三浦抜きでも俺らはやれる、チームのみんなはそう思っている。

 もちろん主砲の復帰は待ち遠しい。

 でも、自分たちでどこまでやれるか。

 自分たちの力で首位を奪い返せば、かなりの自信になる。


 そういった意味でも、この試合は大きな意味を持つ。

 八月中はシーホークスとの試合は今日が最後、つまり直接対決で叩き、首位を奪い返せるのは今日が絶好の日だ。


 陽翔にとって、今日の試合はもう一つ大きな意味を持つ。

 前回の対決で三つの三振を喫し、屈辱的な敗北を味わった林崎との対決に胸が躍る。


 この前は圧倒的な力の差を感じた。

 でも、その日から今日まで、たった数週間のことだが、かなりの自分は変わったように思う。

 今の自分なら、あいつに勝てる――ホームランが打てる。

 そういう自信がある。


 ◇◇◇◇


 試合の始まりは、シーホークスにとっての幸運――すなわちカウボーイズにとっての不運から始まった。


 シーホークスの一番、本田の打球は、ふらふらと上がった力の無いフライ。

 島岡ショートパーキンス(レフト)の間、ちょうどに上がり、二人ともボールに届かず、打球はグラウンドに落ちる。

 山上としては完全に打ち取った打球がヒットとなり、不運な形で先頭打者を出塁させてしまう。


 二番の川端は手堅く送りバントで、本田を二塁まで進める。

 ワンアウト二塁、得点圏に俊足のランナーを背負った状態で、三番の柳沢を迎える。


 柳沢相手でも山上は速球で押した。

 比較的甘いコースへのストレートでも、柳沢は捉えきれず、ファウルが後ろへと飛ぶ。


 カウボーイズバッテリーは、追い込んでからスプリットやスライダーで柳沢を仕留めにかかった。

 でも、柳沢もさすがの技術を見せる。

 ボールは見逃し、ストライクはバットに当ててくる。

 結局十球を柳沢に費やした後、バッテリーは四球を与えてしまった。


 四番の松山武彦は、山上の157キロのストレートに振り遅れ、打球が三遊間に飛んだ。

 これまた打球に力は無かったが、飛んだコースが良かった。

 ボールは島岡ショートのグラブをかすめ、外野へと抜けていった。


 二塁ランナー本田はスタート良く駆け出し、あっさりと本塁を陥れる。

 レフトのパーキンスによる本塁への送球の間に、一塁ランナーの柳沢は三塁へと到達した。

 一瞬の隙も見逃さない、流石の走塁だと思った。


 なおもワンアウトで、一三塁というピンチ。

 五番のデルパイネの打球は、高々と陽翔センターへと上がった大飛球になる。

 犠牲フライには十分な飛距離で、柳沢が本塁へと還る。 



 首位攻防戦は、シーホークスのいきなりの先制で幕を開けた。

 完璧に打たれた打球はなかったが、不運が重なったこと。

 柳沢が抜け目なく三塁へと進塁したこと、きっちりデルパイネが犠牲フライを打ったこと。

 それらの要因が重なったことでの二失点だ。

 柳沢に四球を与えたのは、バッターが凄かっただけの話。

 山上の投球自体は、今まで陽翔が見た投球の中で、一番良いように見えた。


 ◇◇◇◇


 林崎への雪辱を誓った陽翔の最初の打席は、空振り三振に終わった。

 ストレートの球威に押され前に飛ばすことができず、最後は外へのスライダーにバットが空を切った。


 二回表、山上はシーホークスの下位打線を三者連続三振で切る。

 三回表も一個の四球を与えたものの、柳沢、松山相手に連続三振。

 調子が出てきたのか、後ろから見ていて打たれる気がしない投球だった。


 山上を援護したいカウボーイズ打線だったが、対峙しているのは一昨年の沢村賞獲得投手、林崎だ。

 芯で取らえた打球を生み出すことができず、三振の数が積み重なっていく。


 山上、林崎ともに三回までで三振六つずつ奪い合う快投で、試合は、投手戦の様相を呈してきた。

 となると、不利なのは先制点を取られているカウボーイズであり、早急に点を返していく必要性がある。


 四回表も山上はゼロに抑えた。

 裏の攻撃が始まる前、陽翔は、林崎の高校の後輩である栞緑に話しかけた。


「お前さ、真の弱点なんか知ってる?」


「うーん、真先輩の弱点といえば、女子に弱いぐらいですかね」


「ごめん、それは俺も知ってる」


 林崎といえば、小学生のころから人見知りするところがあり、とりわけ女子が苦手だった。

 女子と仲良くなる機会がないまま中学生になったが、野球部のエースである林崎に興味を示す女子もいないわけではなかった。

 一回、部活終わりに同級生に呼び出されたときは、ゆでだこぐらい顔を真っ赤にしてたっけ。


 陽翔が少しだけ昔を懐かしんでいる間に、一番の島岡はセカンドフライに倒れた。

 ワンアウトから二番の栞緑が右打席に立つ。

 栞緑は正攻法では打つのは難しいと感じたか、投球の直前、バットを目の前に寝かせて構えた。


 セーフティバント――栞緑は試みる。

 しかし、バットに当たったボールは転がることなく、小さなフライとなる。

 林崎は簡単につかみ、ツーアウト。


『三番、センター、いがらしーはるーと』


 陽翔は左打席に入り、打席を足で整えながら考える。

 ホームランを打つのに、狙い球の正解は?


 初球、林崎の左足が上がり、降り、左腕がうねりを上げる。

 陽翔はバットを目の前に差し出す――バントの構えだった。


「ボール!」


 陽翔のセーフティの構えに動揺したか、投球は大きくそとに外れた。

 キャッチャー嘉山からの返球を受け取る際、林崎は口をゆがませ笑った。

 その笑みには、明確な陽翔への蔑みが入っていた。


「ふー」


 陽翔は息を吐いた。

 何も本気でセーフティバントをしようと思ったわけではない。

 ただの様子見。


 確かに栞緑が直前にやっていて、流石に連続はない――ましてや八月絶好調の自分がやってくるという思考は相手にないはずで、本気でやれば成功する確率は結構高かっただろう。

 でも、ツーアウトランナー無しで自分に求められているのは出塁ではなく、流れを変えるきなの(・・・)だ。

 三浦抜きでの首位奪還のため、そして過去の自分に勝つため、陽翔はホームランを本気で狙う。


 セーフティの構えは、相手の考えを窺うため。

 あの感じだと、今の林崎は与しやすい。

 狙い球も、絞りやすい。


 二球目、相手バッテリーはなかなかサインがまとまらなかった。

 林崎が、嘉山のサインに何度も首を振る。


 ようやく林崎が首を縦に振り、投球の構えへと入った。

 左腕がうなりを上げて、剛速球――160キロ近いストレートが指先から放たれる。

 コースは、甘かった。


 陽翔のスイングは、それを真芯でとらえた。

 感覚的には完璧で、スタンドへと突き刺さる打球のイメージが頭によぎったが、角度がつかなかった。

 センター前へと落ちる、綺麗なシングルヒットになった。


 林崎は打球の行方を確認した後、グラブを地面に叩きつけた。

 陽翔は、それを見てちょっと笑ってしまった。

 古今東西、ツーアウトランナー無しからシングルヒットを打たれてグラブ叩きつける投手なんてあいつぐらいだろう。


 ◇◇◇◇


 小、中学生のころ、陽翔と林崎は練習後だったり、休みの日だったり、よく勝負をしていた。

 もちろん陽翔がバッターで、林崎がピッチャー。

 キャッチャーはいないし、守備もいない。

 ただ、林崎がボールを投げて、陽翔が打つだけの時間がグラウンド内に流れる。

 それを何百、何千回と繰り返した。


 夏のグラウンドは暑くて、セミの声が絶え間なく聞こえる。

 林崎が「うりゃ」という声を上げ、左腕からボールを投じる。

 迎え撃った陽翔のスイングは、綺麗にボールを捉え、打球は無人のセンターへと抜けていく。

 林崎は悔しそうにグラブを地面に叩きつけた。


「おい、グローブは大事にしろよ」


「もう一回だ!」


「あっついから、次がラストな」


 ◇◇◇◇



 昔と変わらない負けん気の強さ。

 それが林崎の野球選手としての屋台骨だろう。


 陽翔に今日初ヒットを許したが、四番のパーキンスは三振に抑え、この回もスコアカードにゼロを並べた。


 ◇◇◇◇


 771.牛を飼う名無し


 パーキンス相手の林崎の投球


 161km/h ストレート 見逃し

 152km/h カットボール 見逃し

 148km/h スプリット 空振り


 782.牛を飼う名無し


 >>771

 どうやって打つんだよこの化け物……


 791.牛を飼う名無し

 >>782

 五十嵐「打てるぞ」


 802.牛を飼う名無し


 >>791

 パーキンス松「お前しか打てないぞ」


 813.牛を飼う名無し


 山上が調子良さそうなだけに初回の2失点が惜しい


 820.牛を飼う名無し


 点を取れとはいわんから早く林崎を降ろさないと


 831.牛を飼う名無し


 >>820

 モカイロ、サファット「よろしくニキー!!!!wwwwww」


 834.牛を飼う名無し


 >>831

 絶望的で草


 840.牛を飼う名無し


 >>831

 林崎を降ろしたところでこの二人が出てくるだけという事実


 850.牛を飼う名無し


 林崎打てる気配なし

 その後の中継ぎも化け物ぞろい

 もう終わりだよ牛の球団

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