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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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34/66

34話 後輩と先輩

 五十嵐陽翔の衝撃的な三打席連続ホームランで始まった大阪カウボーイズと千葉オウルズの三連戦は、カウボーイズの三連勝で終わった。


 大げさでもなんでもなく、この三試合は陽翔の独壇場だった。

 初戦の三ホームランを皮切りに、二試合目は猛打賞、三試合目もホームランを放ち、三試合で十安打、四本のホームランと、八月最初の三連戦にて、圧巻のスタートを切った。


 陽翔の活躍を間近で見ていた田中たなか栞緑しおり――最近、二番セカンドでスタメン出場している彼は思う。

 林崎さん――真先輩の言う通りだった、と。


 栞緑は高校野球の超名門校、大阪樟蔭で一年夏からショートのレギュラーだった。

 二年時には現在シーホークスに所属する林崎真らとともに春夏連覇を果たした。

 三年時にはキャプテンとしてチームを率いた。


 彼の高校時代の武器と言えば、攻守に渡る野球センスと、小柄ながらパンチ力あるバッティングが武器だった。

 高校時代、ショートの守備は今すぐでもプロで通用すると言われた。

 高校通算打率6割、通算本塁打60本の打撃は、将来的にプロでクリーンアップを打てる選手になれると言われた。

 さらにはその端麗な容姿で、高校生ながら大多数のプロ野球選手より人気があった。


 高校三年の秋のプロ野球ドラフト会議では、実に四球団が栞緑を一位指名した。

 くじ引きの末、指名権を得たのは大阪カウボーイズ。

 順風満帆な高校時代を経てプロの世界に飛び込んだ栞緑を待っていたのは、苦難の日々だった。


 一年目の春キャンプから一軍帯同を果たしたものの、トップレベルと自身の差に絶望した。

 高校野球では屈指のものにあったパワーが、圧倒的に足りなかった。

 自慢の野球センスも、一軍トップレベルでは皆がデフォルトに兼ね備えているものであって、決して大きなストロングポイントにはなりえなかった。


 野球エリート街道をひた走っていた栞緑にとって、野球人生のおける初めての挫折だった

 キャンプ中の二軍へ合流した後、シーズン一年目に一軍へ上がることはなかった。


 二年目のシーズン前、セカンドへのコンバートを言い渡された。

 君の適正はセカンドだ、とコーチには言われたが、自分の身体能力ではショートは厳しい、とやんわり言われたものだと栞緑は思った。

 高校時代に、今すぐでもプロにおいてショート守備は通用する、と言われていたことが恥ずかしくなかった。


 二年目、三年目と二軍での成績は上がっていった。

 決して高校時代のように、ホームランを打てるようなバッターではなく、守備がそこそこで小技ができて、それなりに打率はあるけど、長打は少ない。


 小兵タイプ――一軍に上がり定着し、プロとして生活するため、栞緑が選んだ道だ。

 プレイスタイルを変化させたおかげか、プロ四年目の今年、ついに一軍に定着した。

 主に二番を打っていたパーキンスの離脱により、最近は二番セカンドを担っている。


 ホームランに未練がないかといえば、嘘だ。

 特に最近は、五十嵐陽翔のことを見ていると、なおさら。


 ◇◇◇◇


「陽翔先輩! おはようございます!」


「お、おはよう」


 陽翔が田中栞緑について思うこと、距離感が近い。

 このくそ熱い真夏に距離を縮められるとうざくも思うが、栞緑の人懐っこい感じに文句言うことはできない。


 栞緑は陽翔の一個下で、チームに年の近い選手が数少ないこともあり、それなりに親しくなった。


 陽翔が高校三年生のとき、栞緑のいた大阪樟蔭が甲子園春夏連覇しているのをテレビで見ていた。

 その時の栞緑の人気っぷりは凄かった。

 アイドルと言われても不思議でないほどの中性的な容姿に、抜群の野球センスと顔に似合わぬパンチ力あるバッティング。

 おそらく当時、日本中の男子高校生で一番モテていたのは彼だろうと思う。


 当然そんな存在は世の男子高校生にとっては憎むべき対象になるので、陽翔も例にもれず田中栞緑のことはいけすかない野郎と認識していた。


 ところが、こんな人懐っこい感じだとは思わなかった。

 無邪気な感じで「陽翔先輩!」と寄ってくるこいつが、あの甲子園で輝いていた天才と一緒とは思えない。

 高校球児であったころと違い、今の栞緑は後ろ髪が帽子からはみ出るほど長い。

 “しおり”という名前だけではなく、首から上だけは、女の子にも見えなくもない感じもする。


 ◇◇◇◇


「どうやったら、あんなにホームラン打てるんすか?」


 試合前の練習、バッティング練習を終えた陽翔に、栞緑は話しかけてきた。


「そんなに打ってないけど」


「それ、たくさんのプロ野球選手を敵に回してますよ。先輩がホームランをそんなに打ってないってなったら、誰がホームランを打ってることになるんですか!?」


「うーん、じゃあなんとなく」


「なんとなくであんなに打たれたらやってられないですよ」


 栞緑はさらに続ける。


「オウルズ戦の三連発、あれは痺れました! 先輩は天才です!」


 高校時代の彼を見ていた陽翔にしてみれば、彼の方が天才であるように思うが、それは嫌味になりそうなので言わなかった。


「で、結局どうしてあんな簡単に打てるようになったんですか?」


「……自分がホームラン打てるって、わかったから」


「うーん……自信がついた、みたいな話ですか?」


「ちょっと違うけど……打てそうで、実際打てるみたいな?」


「はあ……天才の言うことはわからない……なんか、昔、真先輩のいってたことを思い出しました」


「真?」


 栞緑のいう“真先輩”とは、陽翔の小中学校時代の同級生、林崎真のことだろう。

 真と栞緑の関係は、大阪樟蔭高校の先輩と後輩だ。


「真先輩は“俺の地元にお前と同じか、それ以上の才能を持った選手がいた”って言ってました。間違いなく、陽翔先輩のことですよね!」


「知らん」


 陽翔は突っぱねたかが、栞緑は構わず続ける。


「その時はそんな僕と比べる選手がいるなんて思わなくて、ちょっと馬鹿にされているのかと思ったけど、今はむしろ光栄と言うか、恐れ多いまでありますけど」


「いや高校の時のお前と比べられるなんて、俺の方が光栄だけど」


「いえいえ、滅相もございません! で、その人はどこでプレーしてるんですかって聞いたら、あいつはもう野球を止めたって言ってましたが……」


「さあね」


「僕は、陽翔先輩みたいになりたいな」


 陽翔は純粋な視線を向けられ、心がこそばゆくなった。


「才能は陽翔先輩ほどないけど、でもやっぱり、大きいのバッターになりたかったな、て思います。高校時代にみたいに」


「いやいや、才能とか決めつけるにはまだ早いって。まだ四年目だろ? 俺だって、やっといろいろできるようなったの五年目の今年だし」


 確かにプロで生きのこるためにプレースタイルを変えなきゃいけないこともある。

 でも、栞緑はまだプロ四年目で、無限の可能性があると思います。


「あ、ありがとうございます!」


 ◇◇◇◇


 四連勝をかけた埼玉ブロンコスとのビジターでの一戦。

 陽翔は三番センター、その前の二番セカンドを栞緑が担う。


 カウボーイズ先発は結木。

 ブロンコス先発はパームボールの使い手、帆永ほながだ。


 一回表、結木がツーアウト満塁のピンチを背負う。

 しかし、


「アウト!」


 痛烈なライナーを、栞緑が横っ飛びで掴み、ピンチを脱した。

 この辺りの守備はさすがだ。

 現状栞緑は、リーグナンバーワンのセカンドと言っていいかもしれない。


 そして一回裏、


「お!」


 陽翔はネクストバッターズサークルで声を出した。

 一番が倒れた後の栞緑の打席。

 帆永の内角のストレートを力強く捉えた打球は、レフトスタンドへと達した。


 栞緑のプロ初ホームランで、一点をカウボーイズが先制する。

 さらにその後、陽翔のソロホームランが飛び出し、二点を先行した。


 ◇◇◇◇


 試合自体はカウボーイズの優位で進んだ。

 序盤から帆永を打ち崩し、最大五点のリードを四回終了時には奪った。


 しかし、カウボーイズ投手陣も粘り切れない。

 五回に一点、六回に一点、七回に一点とじわじわと詰められる。

 そして、セットアッパー平山が登板した八回。


 陽翔の脳内に「いったあああー!!!」という実況の声が届いた気がした。

 ブロンコス四番、中尾のスリーランホームランが鮮やかに飛び出す。


 平山の大誤算で形勢は逆転する。

 6-5とブロンコス一点リードへと局面が変わる。


 リードを奪ったブロンコスは、試合を締めにかかるべくクローザーを登板させる。

 最速160キロを超えるストレートが武器の巨漢クローザー、盛山がマウンドに上がる。


 九回のカウボーイズの攻撃は、九番坂本からだった。

 坂本は盛山のストレートに圧倒され、あっさり三振。

 一番の島岡も三球三振に仕留め、カウボーイズの敗北まだあとワンアウトというところまできた。


『二番セカンド、田中栞緑 背番号6』


 栞緑は打席に入る前、陽翔に目配せをした。

 絶対に出塁する、そう陽翔には読み取れた。


 栞緑は盛山のストレートに真っ向から挑んだ。

 160キロ付近に達する剛球――今季被本塁打を一本しか打たれていない球を当てに行かず、フルスイングで迎え撃つ。

 スプリットを挟み、バットの空を切らせようと必死のバッテリーに食らいつく。

 追い込まれてから、五球連続でファウルとなり、カウントが動かない。


 盛山もなかなか空振りをしてくれないバッターに手を焼いたか、ボールを重ね、ついにカウントはスリーボールまで来た。

 かといって、簡単に四球は出せないだろう。

 次を打つのは自分・・だ。


 気づけば十二球目、盛山のスプリット――低めのストライクいっぱいに落ちていく球を、栞緑のバットの先はこする。

 またもファウルで、ドームに息が詰まる。


 真夏のこの埼玉ドームは暑い、熱すぎる。

 ドームなのになぜか密閉されておらず、スタンドとドームの間は空いていて、真夏の暑さがスタンドやグラウンドまで這いこんでくる。

 さらにその真夏の熱気を屋根が蓋をしているような状態で、まさにこのグラウンドは蒸されているといっていい。

 先日もブロンコスの選手が熱中症で倒れるという事件があった。


 そんな暑さの極限状態でも、栞緑と盛山の対決は続く。

 栞緑の大きな瞳がしっかりと盛山を捉えているのが、陽翔からも見える。


 十三球目、内角低めいっぱいのストレートを、栞緑はうまく回転し、真芯でボールを捉えた。

 それは文句なしで、レフトスタンドに突き刺さった。


「やっぱり……」


 陽翔は呟いた。

 あの160キロの内角低めいっぱいのきびしいた球を、腕を畳んでフェアゾーンにいれ、しかもスタンドに運ぶなんて、天才以外なにものでもない。


「狙ってた?」


「いいえ、たまたまです!」


 そうはいうものの、栞緑の顔は、興奮を隠しきれぬほど赤らんでいた。

 二人はがっつりハイタッチをした。


 続く陽翔もホームランを放ち、カウボーイズは一点を勝ち越した。

 ダグアウトで栞緑は陽翔に向かって、


「あんまり、僕の後にあっさりホームランを打たないでください!」


「なんか、前三浦さんにそんなこと言ったような……」


 ちょっとだけ今までの三浦の気持ちが味わえた陽翔だった。


 九回裏、アレンビーがきっちりブロンコス打線を抑え、カウボーイズは四連勝を果たした。


 ◇◇◇◇


 599.牛を飼う名無し


 四連勝!

 なおシーホークスも勝利

 いくら勝ってもゲーム差縮まんくて草


 601.牛を飼う名無し


 田中二連発!

 ついに覚醒! 


 605.牛を飼う名無し


 盛山から二連発なんて


 610.牛を飼う名無し


 >>605

 しかも一人は今日がプロ初ホームラン


 612.牛を飼う名無し


 ここ四試合の五十嵐

 打率 .706

 単打 4本

 二塁打 2本

 三塁打 1本

 本塁打 5本

 OPS 2.585


 620.牛を飼う名無し


 >>612

 おかしなことやっとる


 623.牛を飼う名無し


 >>612

 ウホウホ長打マン


 626.牛を飼う名無し


 >>612

 おいおい三浦か


 630.牛を飼う名無し


 >>612

 このままのペースだと三浦の本塁打に追いつくんじゃね


 642.牛を飼う名無し


 >>630

 五十嵐 23本

 三浦  34本


 いうほどいけるか?

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― 新着の感想 ―
長嶋さんも王さんも選手監督としては一流だけど、コーチとしては・・・(笑) 相手に伝わる様に言葉にするのはとても難しい(笑)
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