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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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30/57

30話 陥落

 今日の相手は、リーグ五位の埼玉ブロンコス。

 カウボーイズにとってはここまで十一勝四敗と、大きく勝ち越しているお得意様だ。


 相手先発はエースの涌嶋わくしま

 対するカウボーイズの先発は、若き怪物、山上やまがみ宗次郎そうじろうだ。


 山上は二年前のドラフト一位で入団した高校卒業したてのまだ19歳。

 しかし、その実力は既にプロトップクラスを誇る。


 最速160キロのストレート、切れ味鋭いスプリット、ほとんど速球の軌道から手元で小さく曲がるカットボール、140キロ近い速度を出しながら大きく曲がり、落ちるナックルカーブ。

 末恐ろしいというよりも既に恐ろしい怪物右腕は、来年にはメジャー挑戦でいなくなるエース森本の後釜と評される。


 去年は体づくりに励み、二軍でも最小限の登板しかしなかった。

 今年は開幕から二軍で無双、そしてついに前半戦最後の試合、一軍からお呼びがかかった。


 プロ初の一軍登板、それも先発で出場した山上は、いきなりの完封勝利を果たした。

 翌週のプロ二回目の登板も、七回一失点十奪三振で勝利。

 二試合続けての二桁の奪三振を奪い、その間、四球はわずか一個しか出していない。


 カウボーイズ首脳陣も結果が出なければすぐに二軍に戻そうという考えを持っていたみたいだが、この活躍ぶりである。

 シーホークスと熾烈な優勝争いが予想される後半戦、ローテの中心として山上に活躍してもらうことに決めた。


「どう、緊張してる?」


 思い出すのは山上のプロ初登板の日、緊張しているかと思って、陽翔は話しかけた。

 しかし、


「余裕っす!」


 山上はあっけらかんと答える。

 恵まれた体格、器用な手先、そして強心臓。

 陽翔は、彼が大成する予感しかしなかった。


 ◇◇◇◇


 一回表、カウボーイズの誇る二大巨頭、三番五十嵐陽翔、四番三浦豪成のコンビがいきなり機能する。


 ツーアウトから陽翔が四球で出塁し、三浦が左中間へツーベースヒットを放つ。

 快足を飛ばし陽翔はあっさりホームを陥れる。

 涌嶋の出鼻をくじく、電光石火の先制劇だ。


 先取点をもらった山上は、今日も“怪物”だった。

 剛速球を中心に、三振の山を築く。

 初回から三回、打者九人に対し、ヒットも四球も許さないパーフェクトピッチング。

 三回にして、早くも五個の奪三振を重ねた。


 五回表、カウボーイズは中押し点を奪う。

 島岡、パーキンス、陽翔の連続ヒットで満塁。

 さらに三浦の走者一掃となる二塁打で、一気に三点を追加し、試合はカウボーイズの四点リードとなる。


 リードをもらっても、山上のピッチングは変わらない。

 若さ溢れる、いけいけのピッチング――怖いもの知らずというべきか。

 ブロンコス打線相手に、どんどんストライクゾーンに投げ込んでいく。

 ヒットこそ許したが、未だ無失点のまま五回を投げ終え、勝利投手の権利を得た。


 先制からの中押し、先発は無失点――理想的な試合展開だ。

 いや、試合展開だけじゃない。

 ここまでのカウボーイズは、理想的なシーズンを戦っている。


 今日の試合の四打点で、三浦のシーズン打点は104となった。

 打点王は七月後半というこの時期にしてほぼ確定。

 本塁打数は現在、34本。

 これも本塁打王も確定で、あとは歴代最高の60本を超えるかどうかも焦点になってくる。

 もちろん三浦は打率もリーグ一位。

 彼の念願であり、父の遺言である三冠王獲得が、すぐ目の前まで来ている。


 その前を打つ陽翔もトリプルスリーペース。

 さらに一、二番の島岡、パーキンスも四割近い高い出塁率を誇る。

 三浦の打席では、常に三人の誰かが塁にいるのだから、あれだけの打点を稼げる。


 投手陣も不安はない。

 エース森本は未だ無敗で、他の投手陣も好調を保っている。

 ここまでのチーム防御率はシーホークスに次ぐリーグ二位だ。


 そこに将来の――来年以降のエース候補である山上が加わる。

 まさに、鬼に金棒だ。


 後半戦始まる前は2ゲーム差だった一位カウボーイズと二位シーホークスの差は、現在3.5ゲーム。

 シーホークスも好調ではあるが、確実に差が広がってきている。


 負ける気がしない、陽翔はそう思う。

 このチーム状況から、大きく崩れることはない。

 きっと、リーグ優勝できる。

 六回表、六番の前川のツーランホームランが飛び出しリードを六点に広げたとき、陽翔はそう感じた。


 でも、現実はそう簡単にいかないことを、初めてフルでシーズンを戦う陽翔は思い知ることになった。


 ◇◇◇◇


 六回裏の守りのことだった。

 瞬間は、カウボーイズの選手たちも、敵であるブロンコスの選手たちも、観客も、皆が言葉を無くした。


 ワンアウトからブロンコスのリードオフマン、秋川が打席に立つ。

 内角のカットボールに詰まり、ぼてぼてのピッチャーゴロになった。

 打球に力はなくて、バッターランナーは盗塁王を獲得したこともある俊足、秋川だ。


 山上ピッチャーは慌てて前進し、ボールを掴み、三浦ファーストへ送球する。

 それはちょっと一塁側にそれて、秋川に当たりそうになった。

 三浦はベースを踏んだまま、左腕を伸ばし、ボールを掴んだ。

 ただ、三浦の左腕は秋川と接触し、あさっての方向に曲がった。


 一塁審はアウトを宣告したけども、空気は凍った。

 三浦は苦悶の表情を浮かべ、やがてチームのトレーナーと一緒にベンチに下がった。

 そして試合中、ダグアウトに戻ってくることは無かった。


 異様な雰囲気の中でも、試合は続く。


 自分の送球が逸れたせいだと山上は感じたか、制球を乱した。

 怖いもの知らずにストライクを投げこんでいく山上は消えた。

 二者連続のフォアボールで、満塁となった。


 ここでピッチャーが変わったけど、流れは変わらず、満塁ホームランを打たれてしまう。

 その後も悪夢は続き、中継ぎ陣が打たれ続け、気づけば二桁失点。

 6-10でカウボーイズは敗れた。


 ◇◇◇◇


「全治二ヶ月か。シーズン最後の方に間に合うかぐらいやな」


 翌日の試合後、チームのトレーナーが三浦は左肘の靭帯じんたい損傷そんしょうで全治二ヶ月と伝えると、島岡は言った。


 皆、沈痛な想いを抱えているか、顔を伏せ、言葉を無くしていた。

 そんな中、島岡だけは、


「あいつがいなくてもやることは変わらへん。むしろ、あいつがいてもいなくてもチームは強いってことをみせてやろうや」


 チームを鼓舞するように言った。


 試合前、チームメイトの前に三浦が現れた。

 左腕にはギブスがあり痛々しかったが、三浦の表情は相変わらずの仏頂面だった。


「ま、頑張ってくれ」


 いつも通りで、表情からは何も読み取れない。

 普通なら、三浦本人が一番悔しいはず。


 三浦は、今年が日本での最後のシーズンだ。

 三冠王と日本一の獲得を目指し、そのどちらも現実的になってきたのに。

 本塁打と打点の日本記録さえ狙えたのに、全治二か月ならもう不可能といっていい。


 責任を重く感じているか、山上は三浦に泣きながら謝罪した。


「気にするな。俺が全部悪い」


 三浦はそう言って、山上の肩を右腕で軽く叩いた。

 それでも山上は泣き止まなかった。

 交錯した相手、秋川も試合前に謝罪に来た。


 三浦が怪我をした試合から、カウボーイズは三連敗を喫した。


 ◇◇◇◇


 3.5ゲーム差もあったのに、いつのまにかシーホークスとの差は0.5になった。

 引き分けの分、半歩だけカウボーイズが先に出ているが、ほぼ並ばれたといっていい。


 今日は七月最後の試合、敵地での福岡シーホークス戦だ。

 試合前のカウボーイズナインの表情は暗かった。

 首位攻防戦であり、普通ならもっと気合が入っていても良いはずなのに、明らかにチーム状況が悪い。


 開幕から守ってきた首位に、ついに並ばれそうな中の直接対決。

 三浦の怪我以降、負けが続くカウボーイズに、林崎の復帰以降、調子を上げるシーホークス。

 チーム状況は真反対で、今日からの敵地三連戦。

 ついに首位を明け渡してしまう、そういった考えが、チームの皆に浮かんでいる。


 とはいえ、今日の先発はエースの森本だ。

 チーム状況が悪いとはいえ、彼ならやってくれるはず。

 そういう期待もあったが、相手の先発もこれまた難敵、林崎真だ。


 トミージョン手術を経て、後半戦から復帰してきた林崎は、二年前の沢村賞にふさわしい投球を見せている。

 まだ二試合だが、十七イニング無失点、奪三振二十、四球ゼロ。


 陽翔は小、中学校の同級生で、オールスター後の福岡で中学卒業ぶりに会った。

 その時、ひどく因縁をつけられたので、あまり会いたくはない。


「俺の言った通りになったな」


 試合前、林崎が、陽翔に話しかけてきた。

 その表情は得意げで、今日の試合に何一つ不安がなさそうだった。


「所詮、お前は三浦に守られた状態で打ってただけってことだ」


 そう言われても仕方がないと陽翔は思った。

 三浦の離脱以降、陽翔の打率は一割台で、明らかにチームの足を引っ張っている。


「それに、ひとり怪我人が出たら崩壊するチーム。もう優勝はうちで決まりだな」


「まだ二ヶ月もある……」


「ま、今日の試合で証明してやるよ。今年のパリーグ優勝チームが決まったことと、いかにお前が弱いかということを」


「弱い……?」


「お前があの時、地元で仲良しこよしの野球を選んだ時から、お前は終わってるんだよ。多少才能はあったかもしれんがな」


 地元で仲良しこよし……?

 陽翔は、林崎が言う“あの時”が“いつ”かまではわかったが、だからといって、“終わっている”などと言われる意味がわかなかった。


「どういう――」


 陽翔の言いかけた言葉は、林崎に軽く遮られた。


「さあな。じゃあ、お互い頑張ろうぜ。


 含みある言い方で林崎は去った。

 残った陽翔は、やり場のない怒りを抱え、両手を強く握りしめた。


 試合はシーホークスの、林崎の考えのままに進んだと思う。

 森本相手に効率的に点を取り、一回、三回、六回と一点ずつ奪う。

 林崎はカウボーイズ打線を寄せ付けず、散発の3安打、13奪三振。

 見事な完封勝利で、復帰後から26イニング連続無失点となった。


 森本にとっては今シーズン初黒星。

 カウボーイズにとっては今シーズン初の首位陥落となった。


 ◇◇◇◇


 13.牛を飼う名無し


 もう終わりだ…おしまいだ…


 18.牛を飼う名無し


 それでも森本ならってのがあっただけにこの負けはでかすぎる


 29.牛を飼う名無し


 所詮三浦頼みのチームだったね…


 32.牛を飼う名無し


 いい夢見れたわ

 こっからずっと悪夢やろうから来シーズンまで見るの止めるわ


 35.牛を飼う名無し


 >>32

 森本と三浦のいない来年こそ悪夢やろ…


 40.牛を飼う名無し


 >>35

 せやったわ

 今年の戦力で無理とか一生優勝できんやろうしファンやめるわ


 52.牛を飼う名無し


 前半戦あんだけ調子良かったのに普通に付いてくるシーホークスが強すぎんねん


 55.牛を飼う名無し


 シーホークスはさっさとメジャーいけよ


 61.牛を飼う名無し


 カウボーイズ優勝を生で見るために仕事辞めたワイ、むせび泣く

 ちな三浦が怪我した試合と今日の試合は遠征して生観戦した


 63.牛を飼う名無し


 >>61

 ブラック企業退職ニキやんけ


 64.牛を飼う名無し


 >>61

 疫病神すぎて草


 65.牛を飼う名無し


 >>61

 お前が変なフラグ立てたせいやぞ


 66.牛を飼う名無し


 >>61

 働け


 67.牛を飼う名無し


 >>61

 死ね







 ごめんなさい死ねは嘘です

 でもせめてファンやめて早く再就職してください


 70.牛を飼う名無し


 >>61

 わざわざ遠征してその二試合を引き当てるのは神引きや

 今度はカウボーイズ以外のチームとシーホークスとの試合だけを見に行ってくれ


 75.牛を飼う名無し


 >>61

 何も悪くないのに非難囂々でかわいそう

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