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トリプルクラウンの争奪者  作者: 夏を待つ人


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20/66

20話 恩返し

 交流戦最終カード、カウボーイズとウォーリアーズの試合は一回表、陽翔のホームランで幕を開ける。

 陽翔にとっては古巣相手、さらに人的補償によるウォーリアーズからカウボーイズ移籍の要因となった、宮本秀高からの一発となった。


 さらに続く四番、三浦の一発も飛び出す。

 三番四番の連続ソロホームランで、カウボーイズがウォーリアーズから二点を先制した。


 幸先良いスタートとなったカウボーイズだったが、相手はセリーグ首位で交流戦も優勝を狙おうという相手である。

 反撃は即座だった。


 カウボーイズの先発は絶対的エース、森本玲央。

 四月、五月と絶好調で二ヶ月連続の投手月間MVPに輝き、今期未だ無敗の右腕は、交流戦においても盤石の投球を見せていた。

 が、ウォーリアーズ打線の主軸たちは日本野球を代表する猛者たちで、森本といえども簡単にはその打線を抑えられない。


 一回の裏、森本は一番吉村、二番松井と連続で三振に打ち取る。

 いつも通りの絶好調で、今日も安心して見ていられると一瞬感じた陽翔だったが、ここからが大変だとウォーリアーズのクリーンアップ面々を見て思い直す。


『三番、ショートストップ、さかねーゆうきー!』


 ドームが湧く。

 三番坂根勇気、四番阿田(あだ)慎太郎しんたろう、五番岡村(おかむら)和也かずやは、全員日本代表に選ばれるレベルのバッター。

 特に坂根はショートの、阿田はキャッチャーにおいて現日本一の選手、すなわち代表のレギュラーを務める。


 元ウォーリアーズである陽翔は、この三人の恐ろしさを誰よりも知っている。

 チームメイトであった時の三人はまさに雲の上の存在だった。

 味方としてはとてつもなく頼もしい彼らであったが、敵になると恐ろしいことこの上ない。


 三番の坂根は森本のカーブをレフト前に運び、ランナー一塁となる。

 続いては四番の阿田。

 キャッチャーというポジションは、常に座っているだけでなく、ピッチャーと相手バッターの特徴を踏まえ配球――どの球を投げさせるかを決めなくてはならない。

 野球のポジションの中でも、投手を除けば最も負担の大きいポジジョンである。

 キャッチャーに必要な能力として、一にも二にも守備面が重要視され、打撃力は後回しにされることが多い。


 実際、他のチームのキャッチャーは打撃力が他のスタメン野手より劣り、下位打線を打つことが多い。

 そんな中、ウォーリアーズの阿田は捕手ながらチームの四番を務め、リーグでも屈指の打撃成績を誇る。


 これは他のチームに対し大きなアドバンテージである。

 この数年のウォーリアーズが毎年のように強いのは阿田と、同じく守備負担が大きく、求められる守備スキルが高いショートにおいて高い打撃成績を誇る坂根、この二人の存在が大きいと言われる。


 陽翔は集中力を高めた。

 強烈な打球が自身の元へ飛んでくる、そんな予感がした。


 森本がボールを投じ、阿田が打ち返す。

 陽翔の予感は的中したが、高めた集中力を使う必要はなかった。

 打球は陽翔の遥か頭上を越え、バックスクリーンに突き刺さるホームラン。


 ウォーリアーズに二点が入り、陽翔と三浦の上げたニ点は、あっさりと同点にされた。


 さらには、


「嘘だろ……」


 続く五番、岡村の打球を追いながら陽翔は思わず言った。

 岡村の打球はまたも大飛球、左中間スタンドに突き刺さった。

 二者連続のホームランで三対ニ、ウォーリアーズが一点リードした。


 カウボーイズが三番陽翔、四番三浦の二者連発なら、ウォーリアーズは四番阿田、五番岡村。

 両リーグの首位対決にふさわしい、華々しいスタートといえる。


 本人としても二者連続ホームランは予想だったのだろう。

 マウンドの森本は苦笑いを浮かべ、打球の消えていった方向を見つめていた。


 むしろ陽翔の方がショックを受けていたのかもしれない。

 森本が二者連続ホームランを打たれるのは初めて見たし、開幕から無敵、無双状態であった森本がこんなにもあっさりと三点を取られるとは……。

 改めて、ウォーリアーズは強く、そう簡単にはいかないと感じた。


 ◇◇◇◇


 二回表のウォーリアーズの攻撃前、衝撃がドームを駆け巡った。

 ウォーリアーズ先発、宮本の交代が告げられたのだ。


 初回に陽翔、三浦に連続ホームランを打たれたとはいえ、まだ一回投げただけ。

 交代するタイミングとしては早すぎる。

 ここで宮本を降ろしてしまえば、あと八回も中継ぎ投手でつなぐ必要がある。


 明日も試合があるシーズン中の選手采配としてはおかしく、ドームのウォーリアーズファン森田監督へ疑問の声を浴びせた。


「よくわからんが、よっぽどこの試合に勝ちたいんやろうな。こう(・・)の監督」


 ダグアウトで島村は言った。

 陽翔はよくわからなかった。

 今日の試合、確かに交流戦優勝を狙う上では大事な一戦だが、長いシーズンのことを考えると、絶対に勝たないといけない程の試合ではないはず。


 ましてや今日の対する先発は、森本対宮本と、ウォーリアーズからするとかなり分が悪い。

 現在スコア的には勝っているとはいえ、森田監督なら、ある程度の負けを計算し、明日以降のことを考えた采配を取るはず。


 少なくとも陽翔がウォーリアーズにいたころの森田は、一試合一試合を死に物狂いで取りに行くというよりは、長いシーズンを考え、最後にリーグで一番勝っていれば良いとい監督だった。


 宮本に代わってマウンドに上がったのは福村という右ピッチャー。

 ウォーリアーズ中継ぎ陣では負けている試合に投げる敗戦処理や、長いイニングを投げるロングリリーフの役割を担っているが、他のチームなら先発ローテーションだったり、勝ち試合を締める勝ちパターンに入ってもおかしくない投手である。


 福村はカウボーイズの下位打線をあっさりと三人で抑えた。

 二回裏の守り、森本が変わらずマウンドに上がる。

 チームのエースは、初回に三点を取られたぐらいではマウンドを降りない。


 一回の鬱憤を晴らすかのよう、森本はウォーリアーズの下位打線を相手に快投を見せる。

 三者連続三振で二回の守りを終えた。


 三回表、カウボーイズの攻撃。

 前の回から続投の福村を、カウボーイズは攻め立てた。


 先頭バッターは、九番ピッチャーの森本。

 パリーグは普段DH制で、ピッチャーは打席に立つことがなく、バッティング練習をすることもほぼない。

 それでも、プロのピッチャーになるほどの選手は、バッティングセンスも抜群の者ばかり。

 ましてや、森本は球界一のピッチャー、バッティングのセンスもかなりのもので、その辺の二軍の野手より打てるかもしれない。


 森本は、福村の初球を野手顔負けのスイングで打ち返す。

 見事なレフト前ヒットで、無死ノーアウト一塁。


 一番の島岡がセカンドゴロ、一塁ランナー森本が二塁でアウトになり、島岡は一塁に残る。

 アウトが一つ増え、一塁ランナーが入れ替わる。


 二番のパーキンスはフォアボールを選ぶ。

 一死でランナーが一塁と二塁にいるチャンスで、前の打席でホームランを放った陽翔に回る。


 ここで、森田監督がまたも動く。


「おいおい……まじか」


 まだ三回だぞ、大丈夫か、と陽翔は敵ながら思う。

 ピッチャーが福村に代わって、左打者キラーの左ピッチャー、中岡に代わる。


 中岡はセリーグの中継ぎ投手で最も対左の被打率が低い。

 どうしても左バッターに打たれたくない場面で投入される、対左のスペシャリストである。


 陽翔はウォーリアーズとの対戦にあたり、中岡との対決は避けられないと考えていた。

 対左のスペシャリストをカウボーイズ打線に当てるとすれば、絶対自分だろうと思い、入念に対戦のシミュレーションを重ねてきた。


 しかし、こんな序盤・・で対戦するのは想定していない。

 もっと終盤の、緊迫した場面で中岡は自分の前で出てくるだろうと予想していたのに。

 よっぽど、自分には打たれたくないのだろう。


 中岡が投球練習を終え、陽翔は左打席に入る。

 ゆっくりと中岡はセットポジジョンに入り、目でランナーを牽制する。

 十二分に間を取った後、右足が上がる。


 その右足はインステップ――左ピッチャーなら一塁側に足を踏み込み、横振りに腕をふるう。

 マウンドからクロスする軌道で、阿田キャッチャーのミットに突き刺さる。

 ストレートが外角いっぱいに突き刺さった。


「ストライーク!」


 球審は右腕を上げた。

 横の角度がついた中岡の球は、左バッターにとっては背中からやってくるような錯覚を覚える。

 これが見にくい事この上なく、左バッターにとってはとても打ちにくい。

 だからこそ、中岡は日本を代表する左キラーと呼ばれるのだろう。


 二球目、またもランナーを目で牽制した後、ゆっくりと投球モーションに入る。

 陽翔の背中から、ストライクゾーンへ角度を持って入っていき、さらに逃げていくように変化する――スライダー。

 陽翔は待って、待って、外角の球を逆らわずに打ち返す。

 バットの芯に乗った打球は、左翼手レフトの頭を超え、フェンス直撃の二塁打となった。

 二塁ランナーの島岡、一塁ランナーのパーキンスがホームに還り、四対三とカウボーイズが試合をひっくり返した。


 ◇◇◇◇


 三回裏、ウォーリアーズの攻撃を森本は完璧に抑える。

 次の四回表、カウボーイズのマウンドには野下のげが上がった。


 野下は宮本と同様、他球団からFAでウォーリアーズに移籍してきた、いわゆる外様とざまの選手である。

 三年前に移籍してきて以降、二年連続で二桁勝利を上げるなど、安定した活躍を見せてきた。


 今年は開幕直後に怪我をし、最近ようやく一軍復帰を果たした。

 普通ならローテーションの一角を担うピッチャーで、どこかのタイミングで先発として復帰すると思われていた。

 それがこのタイミングでの登板である。


 交流戦の残り試合が終わった後、雨天中止になった試合の代替日が用意されているため、普段のリーグ戦開始まで日程が空く。

 そこまで先発登板のタイミングがないから、ここで中継ぎとして投げさせようということなのだろうが、ここまでの実力者をそんな雑に使っていいものだろうかと疑問が残る。

 やはり、この試合をよっぽど取りたいということだろうか。


 野下は最初のイニングをゼロに抑えた。

 しかし二イニング目となる五回、陽翔に三打席連続となるタイムリーヒットを浴び、三対五と追加点を許した


 ◇◇◇◇


 試合は終盤に入っていく。

 一回はどうなるかと思われた森本だったが、その後はピンチを作りながらもゼロに抑え、六回三失点でリリーフにマウンドを譲った。

 七回からは勝利の方程式――勝ち試合を締める中継ぎ投手たちが、リードを守って試合を終わらせるべく出てくる。

 今シーズン、カウボーイズ首位の原動力になっているのが、強力な勝利の方程式だ。

 七回平山、八回佐山、九回アレンビーの勝ちパターンは抜群の安定感を誇り、カウボーイズの中継ぎ投手の防御率は、現在リーグ一位だ。


 交流戦においてもその三人は盤石で、期間中の失点はわずかに三人で二点。

 リードを守れなかった試合は一つもない。


 しかし七回裏、平山がウォーリアーズ打線に捕まる。

 吉村、松井の一二番が連続で出塁すると、坂根、阿田が連続でタイムリーヒットが飛び出し、試合は同点。

 さらに一点を追加され、五対六とウォーリアーズが逆転。

 あっという間に試合の大勢は入れ替わった。


 こうなってくると、今度はウォーリアーズの強力リリーフ陣が生きてくる。 

 リーグナンバーワンの中継ぎ陣は、パリーグがカウボーイズならセリーグはウォーリアーズである。

 イーサン・サンダーソン、山居やまい哲男やまい西本にしもと翔太郎しょうたろうの三人は、イーサン哲太郎と呼ばれ、セリーグ独走中のウォーリアーズの屋台骨だ。


 この三人は、特に出てくる順番を決められていない。

 勝っている、あるいは同点の試合の終盤三イニングにおいて、試合展開、相手の打順、バッターとの相性によって自由な順番で三人は出てくる。


 今日は七回がサンダーソン、八回に山居という順番。

 八回に先頭バッターとして山居と対峙した陽翔は四球を選んだ。

 陽翔の出塁をきっかけにこの回チャンスを作ったカウボーイズだったが、山居も流石の粘りを見せる。


 現日本人最高左腕リリーバーで、日本代表中継ぎの要である山居は、八回をゼロに抑え、試合は五対六とウォーリアーズ一点リードのまま、九回の攻防に移る。


 九回表、ウォーリアーズ勝利で試合を締めるべく、イーサン哲太郎の最後の一人、西本がマウンドに上がる。

 カウボーイズの打線は八番からだった。


 西本に対し、カウボーイズは代打攻勢をかける。

 八番キャッチャーの坂本に代打の切り札のおか貴夫たかお、九番に入っているピッチャー比田に、カウボーイズで最も期待されている若手バッター、来島きじま涼平りょうへいと送り込んだ。


 二人とも現在好調で、大黒監督も期待を込めて打席に送ったと思うが、西本相手にあっさりと三振を喫した。

 これでツーアウト、試合が終わるまであと一個のアウトとなる。


『一番ショート、島岡壮太』


 ここで終わらないのが今年のカウボーイズだ。

 一番の島岡は西本相手に追い込まれてからファウルで粘り、フォアボールで出塁をする。

 さらに二番のパーキンスもしぶとく内角のストレートをレフト前に落とす。


 今シーズンのカウボーイズ躍進に担う、出塁率の高い一二番がチャンスを作る。

 そして、陽翔に今日五度目の打席が回ってきた。


 西本の特徴は、150キロ中盤を誇る剛球ストレートに、縦と横の二種類があるキレ深いスライダーである。

 陽翔は問題とせず、内角のスライダーをライトの深いところ、フェンス直撃のツーベースを放ち、二点がカウボーイズに入る、逆転。


 さらに三浦がタイムリーヒットを打ち、この回三点目がカウボーイズに入る。

 八対六とスコアが変わり、今度はカウボーイズの抑え、コディ・アレンビーがマウンドに上がる。


 ここまで防御率一点台の絶対的抑えとして君臨していたアレンビーだったが、ウォーリアーズ打線の中軸相手に点を奪われる。

 今日三安打の坂根に四本目となるヒットを浴び、その後、岡村の適時打タイムリーヒットが飛び出し、一点差。


 アレンビーはその後、ツーアウト満塁の一打サヨナラ負けの状況まで追い込まれたが、最後のバッターを三振に抑え、なんとか逃げ切る。


 四時間を超える大熱戦は終わりを告げる。

 優勝をかけた交流戦最終カードの第一戦は、八対七でカウボーイズの劇的な逆転勝利となった。

 両チームが勝ちパターンを惜しみなく注ぎ込みながらも、激しい乱打戦と化したこの一戦。

 今シーズンのプロ野球ベストゲームとも評された一試合だが、これは両チームの激闘の序章に過ぎなかった。


 ◇◇◇◇


 515.牛を飼う名無しさん


 勝ったーーー!!!

 でも疲れた


 516.牛を飼う名無しさん


 劇場やめてクレメンス


 520.牛を飼う名無しさん


 ずっとピンチで生きた心地せんかったわ

 さすがセリーグ首位やね


 525.牛を飼う名無しさん


 >>520

 あっちもうちに同じこと思ってそう


 541.牛を飼う名無しさん


 五十嵐陽翔

 本塁打

 二塁打

 二塁打

 四球

 二塁打


 凄すぎて草


 551.牛を飼う名無しさん


 >>541

 古巣への恩返しやね(ニッコリ)


 554.牛を飼う名無しさん


 >>541

 森田への恨み打法


 562.牛を飼う名無しさん


 >>554

 森田も相当五十嵐憎んでそうやな

 中岡野下山居西本とか序列上の投手全部つっこんでるやん


 576.牛を飼う名無しさん


 >>562

 やっぱ森田監督は五十嵐めっちゃ意識しとるんかな?


 583.牛を飼う名無しさん


 >>576

 五十嵐のことめちゃくちゃ野次られるしネットでも批判されるしで

 首位独走中なのに監督としての評価が絶賛降下中だからな

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