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第一話 愛人の子に伯爵家を継がせようとした貴族

「伯爵代行のモーガン、お前を鉱山労役10年の刑にする。せいぜい反省しろ」


「クッ」


 儂はモーガン、愛人との間に出来た子を次期伯爵にしようと画策、嫡子の婚約者が乗り気になったので、愛人の子を伯爵家と養子縁組をして、そのまま結婚させれば、伯爵家を正当に手に入るハズだった。


 しかし、嫡子に大公の子息が一目惚れしやがった。


 大公と言っても一代限り、大公の息子は婿入り先を探していたのだろうよ。



 確かに儂は帳簿の改竄をしたが、それは多くの貴族が多少はやってることなのだ。


 儂はハメられたのか?


 せめて、もっと早く現れてくれたら、手の平を返したのに


 クライマックスで現れおって。



 愛人と子は実家送りになった肩身の狭い思いしているのだろうな・・


 儂は、鉱山、荒くれ者の平民に・・・



「あ、そう、それでうちに来たの。全く国は何を考えているのだ」



 俺はエコー、鉱山で支配人を任されている。平民からのたたき上げだ。


 高位貴族を鉱山に行かせて何をしたいの?ツルハシを持ったことあるの?

スコップの使い方は?あれは誰にでも使えるが、慣れているものとそうでないものの差は歴然だ。




 ああ、大昔はあったよ。すぐに死ぬ仕事が、毒になる鉱山の廃水を奴隷に水車を回せて、仕事を始めてから5年以内に死ぬ仕事がよ。


 あれは戦争で奴隷がバンバン入ってきた時代だ。


 今は魔法を使っているわボケ。




「君、儂はどうなるのだ。坑道に入っての仕事はやりたくない。事務方を希望する」


「バカモノ!」


 バシ!


 俺は殴った。


「エコーさんだろ?それに坑道に入ってトンカンする奴はエリートだ。経験がなければ任せられない。事務ってな。お前いくつよ?」


「・・・グハ、42歳だ」


「はん。42歳、お前、鉱石の種類知っているの?鉱山の帳簿付けたことあるの?領地経営したこのない俺が領地経営の帳簿をすぐに付けられると思っているのか?めでたいな」


 42歳のおっさんを一から教えて、事務方にするメリットは何もない。


 こいつ、貴族だから読み書き計算ぐらい出来るだろう。


 そうだ。こいつにガキに教えさせよう。


「ヨシ、お前、教師をやれ、読み書きと計算を教えてやれ」


 俺はあいている小屋を教室にして、不良貴族を教師をやらせた。


 はん。ここがお前の死に場所だ。朝と昼はガキども、夜は勉強したい大人達に好きに行かせるようにした。朝昼晩みっちり働けよ。



「儂が、何で、まあ、住み込みの家庭教師は、使用人の中では上級、まあ、適当にやるか」


 ・・・・


「先生、おつりの計算の仕方教えてーーー」


「はい、はい、こうするのだ」


「先生、時計の見方を教えて」


「はい、はい、短針と長針があってな。こうだ」


「何で、1が5分なの?」


(そんなこともわからないのか)


「ああ、理解するには掛算が必要だ。今はそうだと覚えて置けばいい」


「はーい」



 カーンコーン


「終わりだ。さあ、皆、帰れ」


「「「先生、ありがとうございました!」」」


「また、明日も教えてね」


(・・・・・御礼を言われた。何年ぶりだろう)



 ☆夜の部


 夜は荒くれ者がやってきた。


「モーガン先生よ。この板の強度は、125.5キロって書いてあったけど、何だ。この点はよ」


「小数点だ。1より少ない数がある」


「じゃあ、切り捨てていいよな」


「何を言っている。この場合500グラムだ。資材を提供したギルドは、一生懸命に限界の数値を・・・」


(儂は、領地経営で上がってくる端数を・・簡単に切り捨てていったな。あいつを切り捨てようとして失敗したのは儂だ・・)


「え、黙っているよこの先生。まあ、わかった。この数値が大事なのはわかったから、小数点ってのを教えてくれよ」


「ああ、理解するには遠回りだが、一から小学部から理解する方が早い。まずは君たちの学力を計る必要がある」


「おお、わかった」


「皆もいいよな」


「「「おう」」」



 ☆昼の部


「先生――――あたしね。お使いいけたの。ちゃんとお釣り計算できたよー先生のおかげだよ!」


(ナデて、ナデて~)


「そ、そうか、良かったな」ナデナデ



 そう言えば、最初、平民だった愛人にドレスを買ってあげたら喜んでくれて、ありがとうダーリン、パパ有難うと言われて・・それから彼女らのために伯爵家を乗っ取ろうとしたのだな


 彼女ら最後は、宝石、ドレスを買ってあげても、何もいわなくなった。儂に許可を取らずに勝手に買うまでになった・・いつから気が付かなくなったのだろう



 こいつら、平民のくせに理解が早い。いづれ儂の知識を追い抜いて、儂はお払い箱、厳しい肉体労働をさせられるかもしれん。今のままではダメだ。このもしものためにくすねてきた宝石を売って本を買おう。


 モーガンは鉱山に来る商人を通して、平民用、貴族用問わず教科書を買い集めた。


 教えるには自分が完全に理解して無くてはいけない。



 そして、




 ☆☆☆一年後


 昼の部


「先生ー、今、お父ちゃんの手伝いで、鉱石の選別をしているけど、あらかじめ、どの程度良い鉱石があるか予測出来る学問ってない?」


「ああ、それなら、確率論だな」


「「「教えてーーー」」」


「ああ、いいとも」



 ☆☆☆


 夜の部



「モーガン先生、何か上手く坑道を思い通りに掘れる学問ってない?」


「ああ、それなら三角関数だ。役にたつかわわからないが」


「「「よっしぁーそれを教えてくれ」」」


「ああ、いいとも」


 鉱山の町の人々にとっては勉強をしているつもりはない。あくまでも日常生活や仕事に役に立つものとして学んでいるから、意欲はすごかった。


 学んで即使える学問。しかし、理解するには基礎学力が必要だ。


 まるで、親方に言われて、下積みをするように、基礎学力の勉学にも勤しんだ。


 学んでいるうちに、段々と、学ぶ楽しさがわかってきた。




☆☆☆


「わからないところがわかるって快感だよな~」


「おう、今度、皆で金出し合って、哲学の新刊買おうぜ。哲学を学ぶと学問の学び方や意義ってのが、何となくわかってくる」


「「「それな!!」」」



 ・・これが荒くれ者の会話か?


俺はエコーだ。モーガンというおっさんを教師にしてから、鉱山が大変なことになった。教育レベルが上がって、事故が減り。不良商人がお金を誤魔化さなくなった。


 トラブルが減ったぜ!


 あれ、あんたら誰よ。お貴族様か?


「あんたら、何?うちの鉱山は関係者以外立入り禁止なんだけどよ」


 え、モーガンのおっさんの様子を見に来た。


 親戚か?おう、大歓迎だ。許可出すから会いに行けよ。


 俺が案内してやる。



 ☆☆☆鉱山学校


「先生ー、鉱夫に、計算なんて、必要ないよ。僕は外でスコップの練習をしたい!」


 たまに、こうゆうことを言う子がいる。良いんだ。良いんだ。昔の私だ。


「・・・わしもな。そう思った。いや鉱夫ではないが、前の仕事で、計算なんて、やらなくても良い。教養程度と思ったものだ。


 しかし、人生は計算だ。やってはいけないことと自分の欲望に折り合いを付けなくてはいけない。欲望の結果に起きることと、満足感が見合うものか計算しなければならない。


 それも計算だ。分かるかね?」


「分からないよ」


「そうか、それなら、こう考えなさい。後10分でガスが充満する。仲間を助けにいかなくてはいけない。行き返りに2分30秒掛かるとして、どれくらいの時間、捜索できるかを瞬時に計算して、活動してこそ、鉱夫だ」


「・・・わかった。僕、皆と一緒に勉強する」


「よし、よし」ナデナデ


 ・・


「今は授業中だから、終わったら、応接室で会いな」


 あら、会わないの?



「今更、今更、改心しても、もう遅いのよ。お父様、グスン」


「ハニー、行こうか・・」


 二人はモーガンに会わずに、貴婦人は、寂しげな後ろ姿で、旦那様に背中をさすられながら、去って行った。


「何だ。まあ、いいか」



 ☆☆☆そして、労役期間終了


「モーガンさん。正式な給料を渡すから鉱山に残ってもらいたい」


「ええ、有難いです。エコーさん。しかし、私は目的を見つけました。この王国には、教育を必要としている平民が沢山います。私はそこで働きたいのです」


「そっかー、孤児院で教師をするんだっけ。アバヨ」


「エコーさん。カリキュラムを書いたノートと勉学ノートを残しておきます。教えられるレベルまで成長した生徒もおります。鉱山学校は私無しでも充分運用可能です」


 おっさんはカバン一つで、鉱山町を出て行った。




 しかし


「ハハハハハ、来た時も一人出るときも一人、これが儂の人生よ。何?」


 鉱山町から山道に入るところで、突然、大勢の人が林の中から垂れ幕を持って現れた。


 人々は垂れ幕の文言を斉唱する。


「「「「モーガン先生、今までありがとうございましたーーー」」」


 一人の20代の女性が先頭に出て来た。


「先生、私、お釣り計算教えてもらった子だよ。覚えてる?今、商会に嫁入りして、そこでブイブイいわせているよ。先生に馬車を用意したよーー」


「お・・君たち、仕事中だろう、生徒達まで、今は勉強中だろ。儂はこうゆう甘い考えは好かない・・儂は不良貴族だぞ・・大嫌いだうううう」


「フフフ、最初で最後の悪い子をしたよ。ねえ、エコーさん」


「おう、おっさん。お前のおかげで儲かってしかたがねえ。金を持ってきな。置き場に困っているんだ。これもってさっさと去れ。ここは関係者以外立入り禁止だ。アバヨ!」


「ウグ、ウグ、グスン、グスン」


 王国には妙に教育レベルが高い鉱山町があると云う。視察に訪れた王太子夫妻は一言。


「「どうしてこうなった(の)!」」だった。


 市井で聖人とまで崇められるようになったモーガン。


 しかし、対決しなければならないことがある。



 ・・・・


「伯爵ご夫妻にご挨拶を申し上げます。モーガンと申します」


「我が領内での平民教育の指導有難うございます」


「・・・・・・」



「昔話を申し上げます。私のことを聖人と申す方々もいますが、違います。私は、過去、実子を虐げ、愛人の子に家を継がそうとした極悪人です。ただ、実子が憎かった。すべて見透かすような目が怖かった。所詮代行でしょうという侮りも感じました。貴族として家の乗っ取りを失敗したことは後悔しませんが、愚かだったとは思います。一言、実子に虐げたことは謝罪したい。それだけはやってはいけなかった。実子を形だけでも愛し、良好な関係を維持して愛人を隠すべきだったと・・」


 女伯爵は重い口を開いた。



「・・まあ、奇遇ですわ。私は父が憎かった。家のことは使用人に任せっきり。しかし、社交だけは一人前に出来た父を憎たらしかった。しかし、家を継いでわかったことがあります。貴族当主は、他の方々と交流して遊ぶことも仕事なのですね・・あの時、お母様が亡くなってから、家のことをきちんと見れる人を招聘するように、進言すべき、いや、私が使用人たちを統率するべきでした。父は鉱山送りになって消息不明です。愛人をつくって屋敷に入れたことを今も憎んでいますが、貴族の重責は、理解していると伝えたいものですね・・」



「ハハ、私もですよ。今でも娘は嫌いだが、儂を断罪して、追いやったことは貴族として正しい身の守り方だ。負けた私が未熟だと伝えたいものだ」



「フフフフフ」

「ハハハハハ」


「そうだ。私の子供たちに会って、平民の生活や教育の状態について、話して下さらない。今日はもう遅いわ。泊まっていきなさい。晩餐も用意しましょう。いいでしょう。貴方?」


「ああ、ハニーかまわないよ」


「しかし・・」


「これは貴族として、平民に命令ですよ。モーガン聖人」



 モーガンはこの後、女伯爵の領地に来ることはあっても、領主の屋敷には二度と戻らなかった。



 女伯爵は鉱山送りになって消息不明の実父の墓を用意した。亡くなったら、伯爵家の墓に遺品を入れて弔うつもりだと旦那や使用人たちには話した。


「どこで、何をしているかわからないけどもね。お墓だけは入れてあげるわ・・」













最後までお読み頂き有難うございます。

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