67.姫の仕事
魔王様の部屋を出て、チェルさんの仕事場へ向かった。
チェルさんの仕事場はどんな所だろう。緊張はするが、シルフィさんとディーネさんがいる。もちろんチェルさんも一緒だ。そう考えていると先程に比べ気持ちが落ち着いている。
『ここだ』
歩いているとチェルさんの声が頭に響いた。
チェルさんの頭が差した方向は扉だった。先程とは違い、ガラスで出来た二枚扉だ。ガラスなので中にシルフィさん達がいるのが見える。人が少なく、更に緊張が解ける。扉を小さくノックしてから開けた。
「お邪魔します」
「姫さん。いらっしゃい。こっちこそ散らかっていて悪いな」
部屋に入り、一番最初に目が合ったのは赤い人だった。赤い鳥の巣のような短髪に赤い瞳の男の人。火属性のサラマンダーさんだと思う。
サラマンダーさん(仮)は私に近づき話しかける。背が高く体格が良いからかびっくりする。急でしたしと伝えようとすると私達の間に割り込むようにシルフィさんが来られた。
「サラ。少し離れるんだよって言ったよね。姫様。ごめんね。悪気はないんだ。これはサラ」
「これってなんだ。これって」
「姫様にちゃんと挨拶出来ないんならこれで充分。そしてそこの茶色い髪の女の子がノームだよ」
やっぱり目の前の男の人はサラマンダーさんだった。どうやらサラさんと呼ばれているらしい。見た目とは違い可愛らしい名前だ。そしてサラさんの次にシルフィさんが案内したのは茶髪の女の子。土属性のゲノームスことノームさん。彼女は見た目のように可愛らしい名前だ。
ノームさんは中学生くらいの見た目をしていた。ノームさんは私を見るとゆっくり手を振った。魔物さんの年齢は不詳なので、私の方が年下かもしれないが、妹にしたい可愛さだった。
「エリーゼです。お邪魔してます」
「ううん。全然邪魔じゃないよ! 姫様、案内するね。チェルさん。チェルさんの机で良いですよね」
『ああ』
そう言いながらシルフィさんから案内されたのは部屋の奥にある机だった。私の身長くらいの幅がある。大きくて高そうな机だ。
机の上には書類が四つの束になって置かれていた。
「一番左が最近完了したクエストの結果だよ。後は右から討伐、捕獲、採取。まだ整理が終わっていないから、終わったのはまとめて近くにおいておくね。あの辺りにいるから、他に欲しいものがあったら言ってね」
「はい。ありがとうございます」
椅子に座ると机の上に乗っている書類を数枚見る。やっぱりこの書類の束は私の頭の中に入っている。
『どうした?』
「チェルさん。クエスト内容は頭に入っています」
『そうか。シルフィ達には』
「この後のことも考えると資料を分けてて貰っていた方が良いです」
『そうだな。必要になったら呼んでくれ』
チェルさんはそう言うと邪魔にならないように私の膝の上で丸まる。ヘビだけど猫みたいだなと思った。
クエスト履歴を見ると討伐が多かった。効率が良いからかな。だが見ていくと気になる点があった。小型の魔物が多い。小型の魔物は討伐数が多い割に報酬が低いので、あまり効率が良くない。これを効率重視っぽいチェルさんが選んだのも気になる。
『どうした』
「チェルさん。小型の魔物の討伐依頼が多いですね」
『ああ。こいつらは繁殖力が高いからな。数が増えると厄介だから、早めに討伐した方が良い』
チェルさんから聞いて再びクエストを見る。どうやら報酬重視ではなさそうだ。
クエスト履歴を手に取り見ていく。まずは情報の整理だ。クエスト履歴を見た所、割合としては小型が六割、大型三割、採取は一割くらいだった。
いつものように報酬重視とはいかないので難しい。一人で決めるのは止めた方が良さそうだ。いくつか選んでからチェルさんに相談する。チェルさんと認識を合わせて、クエストを選んでいく。そして私しか持っていない情報…――魔物の生息場所のメモをつける。これでとりあえず私が出来ることは終わった。
後はシルフさん達が書き写してくれた報告書を付けて完了かな。一週間くらいは持つと思う。まずは一段落だ。安心したせいか、小さくため息をついた。
「姫様。手伝ってくれてありがとう」
『このクエストが終わったら、どうするんだ』
「時間に余裕もありますし、しばらくは私達で問題ないです」
『わかった。厳しくなったら姫の部屋に行け。魔王に伝えておく』
チェルさんの所じゃなくて私の所なんだ。確かに私の知識をバリバリ使っていたし、もう隠す必要はないのかもしれない。
それでも私の所は少し気にかかる。それはどうやらシルフィさん達も同じらしく、シルフィさん達も固まってチェルさんの方向を見ていた。
『どうした』
「チェルさんが姫様の部屋に行って良いって言うとは思わなかったから」
『仕事なら仕方ない。姫に甘えすぎるなよ』
「わかってますよ。姫様。嫌だったら言ってね」
なんだろう。さっきからチェルさんの言葉に違和感がある。私の話だけだ。いや、私のことを気にかけているからかもしれない。
『他にはないか? ないならシルフィ。姫を部屋まで送り届けてくれ』
「はい。チェルさんは一緒に戻らないんですか?」
「魔王に用事がある」
「魔王様の所でしたら、俺達から」
『他にも話がある』
チェルさんは私の腕の中から飛び降りると綺麗に着地し、扉の方へ向かった。
サラさんが扉の近くにいたので、すぐにサラさんが扉を開ける。チェルさんは扉の前で止まり、振り返るように私の方向に頭を動かす。だがそれは一瞬で、再び魔王様の部屋の方向に頭を動かし向かった。
私が聞かない方が良い話だってある。わかっているはずなのに、何故か胸が痛くなる。
多分突然だったからだと思う。それでもこのままチェルさんがいなくなってしまうような寂しさが生まれた。
「姫様。どうしたの?」
シルフィさんの言葉にはっとする。そのままシルフィさんへ視線を移動すると。シルフィさんが不安げな表情で私を見つめていた。
「あーごめん。なんか寂しそうな表情をしてたから」
「チェルさんがこのまま離れてしまいそうな気がしてしまって、気のせいですね。チェルさんは気まぐれですし」
気のせいだと思う。気にしないように伝えるがシルフィさんは未だに難しい表情をしていた。そして私には何もいわず、ディーネさんの方向を見る。
「ディーネ。今度お菓子を奢るから、残りの仕事頼んで良い?」
「構わないけど、どうした?」
「姫様と魔王様のところに行ってくる」
「わざわざ一匹で言ったんだ。俺達に話せない内容だろ?」
「話に混ざりに行くわけじゃないよ。迎えに行くの! ほら蛇の姿だと動き辛いじゃん」
「じゃあ。私はジュースだね~」
シルフィさん達の話にノームさんが加わった。シルフィさんとディーネさんが緊迫した中でのんびりとしたノームさんの口調は何となくハラハラする。
「ノームはなんだ」
「シルフとお姫様と三匹でチェルさんのことを待ってる~」
ノームさんが扉へと向かう。言動と見た目に反して一番アクティブだ。扉に付くと、ノームさんが振り返り私達を見る。
「お姫様。シルフ。先に行っちゃうよ」
「ノーム待って」
「は、はい。ノームさん。行きます」
「シルフィ。待て」
シルフィさんと一緒に急いでノームさんの元へ向かう途中、ディーネさんがシルフィさんを引き留めるように呼んだ。
まだ話は終わっていなかった。とりあえずノームさんの所へ向かうと、ノームさんは少し頬を膨らましてシルフィさんとディーネさんの光景を見ていた。
「シルフ。少し待て、急いで資料を渡せる形にする。チェルさんから文句を言われたら、書類を忘れてたから届けに来たって言えるだろ」
「ディーネ。ありがとう」
すぐにディーネさんがシルフィさんへ書類を渡す。シルフィさんは受け取ると嬉しそうな表情をしていた。
「ノーム。姫様。おまたせ。ディーネが書類を用意してくれたよ」
ディーネは凄いでしょ。そんな表情をしていた。シルフィさんはディーネさんと仲良しなんだなと思う。四大精霊さん達は仲が良くて、私にも優しい。少ししかいないのに、私もここに溶け込んでいるようだった。
「もう忘れ物ないね~? じゃあ、行くよ~」
シルフィさんの書類を確認したノームさんが言った。ノームさんが隊長みたいだ。場所はうろ覚えなので、ノームさんとシルフィさんについて行く。
魔王様の部屋へ向かう途中でラビアさんとニクスさんがこちらに向かってきたのが見えた。
チェルさんがいない。どうしようと言葉を考えているとシルフィさんとノームさんが私の盾になるように立った。
「珍しい組み合わせだね。チェルくんと一緒じゃないの」
「チェルさんは今、魔王様に明日からのことを報告してるの~」
「そうだったね。君たちは?」
「チェルさんが資料を忘れたので届けに行くだけです」
「チェルさんは頭の中に入っているから問題ないって言っていたけど~、魔王様は困るでしょ~」
嘘はついていない。シルフィさんとノームさんは話が上手だ。
「確かに。ギルドの資料なら僕達もついて行くね。ほらニクスも」
「わかった」
強引にパーティーに入る。さりげなくシルフィさんが壁になるようにラビアさんと私の間に入り、ノームさんはラビアさんが私に振ろうとすると躱すように話す。二人が心強い。
シルフィさん達が助けてくれたんですよ。とチェルさんに伝えよう。気合いを入れるように息を吐くと私はシルフィさん達と共に魔王様の部屋へ向かった。




