49.ラビアの再戦
コカトリス。鶏の頭に竜の体を持つなんとも言い難い外見をした魔物だ。体は白い竜なのだが、その白さもあってトカゲの様な皮膚を持った鶏に見える。勇者からは鶏と呼ばれていた。
ただの鳥だと思い油断すると負ける。しかも同じ場所にたくさんうろついているものだから、この鶏は雑魚だよ。なんて意地悪なアドバイスをする勇者もいたほどだ。
「この竜は」
「竜? これが? 鳥じゃないの」
ラビアさんがコカトリスが描かれた紙をまじまじと見る。だが鶏の頭のせいか信じていないようだ。大丈夫。誰もが通る道だ。
「ラビア。その絵を見せてくれ」
チェルさんがラビアさんから紙を受け取ると、絵をまじまじと見る。しばらくすると私の方向を見て口を開いた。
「確かに竜かもしれないな」
「チェルくん。わかるの?」
「この尾は蛇だったのか」
「蛇の尾?」
チェルさんが紙を机の上に置き、コカトリスの後ろ足辺りを指差した。そこには小さいが尻尾のようなものがあり、その尻尾にはよく見ると鱗があった。
「大抵の竜は長く生きた蛇だからな。そうか。蛇の尾とは気づけなかった。姫。お前のおかげだ」
私の手柄の様になっているが、それ以上にチェルさんの方が凄い。ヘビが進化すると竜になることは知らなかったし、私は尾があるのも気付かなかった。
「チェルくんが言うなら本当に竜なんだね」
明確な理由が出てきたからか、ラビアさんとニクスさんも納得する。
チェルさんはいつも本を読んでおり、知識量が豊富だ。何気なく出てくる言葉は理論づけられている。説得力が段違いだ。
「ん? 姫。どうした?」
「チェルさんは凄いですね」
チェルさんが評価されていると自分のことのように嬉しい。そのまま笑いかけるとチェルさんは少し考えた後にふわりと笑った。
「そうか」
当たり前だ。なんて流されるかと思ったので驚いた。それにその表情は反則だ。これ以上好きになったらどうするんだ。
「そうですよ」
笑顔のままチェルさんに伝えてから、視線をラビアさんへ移動する。ラビアさんは拗ねた表情で紙を見ていた。
「竜か~。そっか油断してた」
「油断?」
ラビアさんの言葉にすぐにチェルさんが苦い顔へと変わった。勿体ないと思ったが、それ以上に油断なんて聞き逃せない言葉が出てきた。再びラビアさんへと視線を戻す。
「たかが鶏が僕に敵うわけがないってどこか油断してたかも。ありがとう。これからは気を付けるよ」
「俺はお前を油断させるために、情報をまとめているわけではない」
ラビアさんの言葉にチェルさんの眉間に皺が寄る。
「わかってるよ。次は気をつける」
そう言うラビアさんの声はいつもよりも低く、表情も今までみたことがないくらいの真剣なものだった。
「だから姫ちゃんに聞きにきたんだよ。たかが鶏から毒を付与された。まぐれじゃないって。認めるの本当は嫌なんだからね。だから教えて。姫ちゃんだったらどう戦う?」
コカトリスを頭に浮かべる。やばい。毒消し草を食べながら戦うゴリラみたいなことしかしてない。
「この前みたいにぱっとは出てこないんだね」
「直ぐに出てくるのが”毒消し草を食べながら戦う“だったので、あまり現実的ではなく」
「確かにその戦い方は嫌だな。この前みたいにその竜が苦手なものはないの?」
声色は普通だがラビアさんは引きつった顔をしていた。勇者以外にはさせないつもりです。心の中で謝りながらコカトリスのことを考える。
「毒以外はそんなに脅威ではないんです」
「そう、なんだ。……まあいいや。続きを聞かせて」
「弱点属性は火で複数攻撃に弱いので、準備さえできれば討伐難度が一気に下がります」
Sと書かれているが、私の中ではキングタートルと同じくらいの立ち位置にいる。多分Aくらい。猛毒は厄介で、単独攻撃は避けられてしまうが、弱点属性はあり、複数攻撃なら二回目以降がヒットする。決められたフローで確実に討伐出来る。
だが実際の世界では毒消し草を入手するのが大変だ。その辺りを考慮すると、Sになるのもわかる。
「火の魔力かぁ」
「火属性は――」
火属性を持っていそうな魔物さんを考えながらぼんやりとラビアさん達を見ているとニクスさんの頭に赤いクラブのマークが浮かんだ。あっ。横にいる。
「ニクスさ」
んと言う口が途中で止まった。勢いで言いそうになったが、属性についての知識はまだ言っていない。
「……黙っているから続けて下さい」
ニクスさんが属性の知識に気付いたようで頭を下げた。
「伝えてくれ。怪我が減った方が良いんだろ?」
チェルさんの方向を見ると、仕方ない。そう言いたげな表情をしていた。
「……はい。ニクスさんが火属性ですので、もし火に関した魔力が使えたら」
「火の魔力は持っていますが、俺の攻撃は避けられてしまい」
「ニクスさん。コカトリスに攻撃されたんですか?」
「はい。火で輪を投げたのですが」
火の輪。単独攻撃だと思う。
「単独攻撃は効かないんです。複数攻撃。例えばですが、輪を二個作って連続して投げるんです。一つ目の輪は避けられますが、二つ目は当たります」
ニクスさん達が真剣な表情をしていた。
「試してみる姫ちゃんの理想の回数は」
「短期決戦に持ち込みたいので十回ですね」
複数攻撃しか効かない。自然と火力寄りになる。その中で切り捨てられるのは毒対策となり、結果、毒消し草をかじることになる。
「ニクス。出来る?」
「やったことないが、やるしかないだろ。討伐前に練習する」
やるしかないなんて言っているが実際出来そうだ。ここの魔物さんはラストランジョンと言うこともあり、実力者が揃っているように感じる。実際ヴクさんの攻撃は強かった。
「わかった。攻撃はニクスに頼んだよ。後は毒の対処だよね。チェルくん、毒を無効にする技。誰か持っていたっけ?」
「俺以外は聞いた事がないな」
「そうだよね」
「あ、あの、チェルさんから頂いたものなんですが。毒消し草を」
冗談抜きで毒消し草をかじった方が良い。
私はチェルさんから毒消し草を買ってもらっているワガママなお姫様だ。たくさん持っているのはおかしくない。それにこんな時の毒消し草だ。
「姫。それを渡す必要はない」
「チェルさん?」
取りに行こうと立ち上がった瞬間、チェルさんが制止する。そのままチェルさんを見ているとポケットから何かを取り出した。
月の欠片だ。
「ラビア。これを使え」
「何? これ?」
ラビアさんがチェルさんから月の欠片を受け取るとまじまじと見る。
「状態異常を十回、回復する。姫に渡そうと思っていたものだ」
「十回も? そんなアイテムがあるんだ。どうやって手に入れたの?」
「森に落ちてた。これは竜の抜け殻の一部だからな。きっと脱皮した竜が森に捨てていったのだろう」
竜って脱皮するんだ。ヘビから進化など生態が謎すぎる。あ、そうか。ヘビから進化したからか。
ヘビの抜け殻。幸運アイテムだ。竜に進化する位だ。弱体無効くらいあってもおかしくないかもしれない。
「竜って珍しいと思っていたけど、更に興味がわく内容だね。それより良いの? 姫ちゃんに贈ろうとしていたんでしょ?」
「ああ。お前に渡した方が姫も喜ぶ」
チェルさんの言葉に思い切り頷くとラビアさんはクスクスと笑う。
「みたいだね。ありがたく使わせて貰うよ」
「油断するなよ。十回使用したら破壊される。そしたら直ぐに撤退しろ」
「うん。わかった」
「姫の情報で怪我でもされたら困る」
チェルさんが苦い顔で言った。そのセリフはラビアさんには意外だったのか驚いている様子だった。だが直ぐに目を細めると今までとは違い、柔らかい口調で言った。
「……確かにそうだね。優しい姫ちゃんを悲しませるわけにはいかないからね」
「当たり前だ」
「無理やり聞いているのにこんなに優しくしてくれて助かるよ。そうだ。お礼と言うには安いかもしれないけど、代わりにニクスの命をあげるよ」
ラビアさんは名案でしょと言いたいようで、とても明るい表情をしていた。
ニクスさんの命。情報と交換するには重すぎるものだ。正直、頂いても扱いに困る。




