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39.大事な休み

 チェルさんと地図を作り始めてそろそろ二週間。地図作製は順調に進み、そろそろ折り返しという所だった。

 お休みの日以外にも夜ご飯を食べ終えた後に作っているのもあるかもしれない。


 今日の地図作製ノルマが終わったので、最後に内容が問題ないか確認する。

 アイテムの出現場所は記憶通り。アイテム名も問題なし。魔物の出現位置は多分大丈夫なはずだ。記憶とは一緒だが、魔王様視点のためあまり自信がない。

 魔物の名前はまだ記憶レベルが足りないので、空欄で問題なし。一旦完成だ。チェルさんへ伝えようと方向を見るとチェルさんが目を瞑っていた。

 どうやらうたた寝しているようだ。以前寒さが苦手とお話していた。お仕事が終わった後やお休みの日は私と一緒に勇者と戦う準備をしている。それもありチェルさんはあまり休めていない。疲れているのかもしれない。

 時々、体が僅かに揺れているが机にぶつかる程ではない。そのままで問題なさそうだ。起こす必要はないしそのままにしよう。


「……」


 そのままにする予定だが、好きな人の寝顔。気にならないわけがない。周りを見回してからゆっくりと視線をチェルさんへ移動した。

 チェルさんの寝顔もとても綺麗だった。白い肌は透明で神秘的。髪も上品な絹のようにさらさらしている。

 寝顔はいつもよりも穏やかで、いつも以上に視線を奪われるようだった。


「悪い。寝てしまったか」


 チェルさんの寝顔に釘付けとなっていると、チェルさんの目が開く。自然と見つめ合う形となった。

 チェルさんは私の視線に気付くと居心地が悪そうな表情をした。


「ごめんなさい」


 ずっと見つめられていたら嫌に決まっている。チェルさんの様子を見ながら謝るとチェルさんが私からそっと視線を外した。


「いや。俺を起こそうか迷っていたんだろう。途中で寝てしまって悪かったな」


 うたた寝してしまったのが恥ずかしいのかもしれない。地図を作っていた最中でもあった。チェルさんの気持ちもわかる。

 この流れで見つめていたなんて言えない。

 このまま起こすタイミングを見計らっていたことにしよう。落ち着かせるように息を吐く。


「いえ、こちらこそチェルさんに手伝って貰っていますので」

「問題ない。気にするな。人とは体の構造が違う。丈夫だ」


 そうは言っているが先程の様子を見ていると気にかかる。心配性なチェルさんが私の前でうたた寝。しかも地図を作製している最中にだ。

 以前チェルさんは寒さが苦手と話されていた。無理をしている可能性が高い。


「丈夫だからと言って無理していいわけではないです。休みなしで作っていましたので、明日はお休みしませんか? ここ最近はずっと地図を作っていましたし」

「休み?」

「地図も順調ですし。無理は良くないです」


 魔王城付近のダンジョンは全て紙に書いた。次の採取に必要な地図は出来ている。

 それに本格的に動くのは春からだ。明日休んでも問題ない。


「地図を作らないと」


 チェルさんは不服そうな表情をしているが、ここは折れちゃいけない所だ。


「予定よりも遅れていたら作った方が良いですが、かなり進んでいるんですよ。明日は休みましょう。働き過ぎている時は休んですっきりした方が効率が良いです」

「そうかもしれないが。……突然休みと言われても何をすれば良いかわからない」

「居心地の良い場所で本を読んだり、お昼寝したり。地図を作る前と同じですよ」


 そこまで難しいことは言っていない。今までのお休みと同じで良い。


「わかった。ちゃんと考える」


 それなのに何故かチェルさんは私の言葉に真剣な表情で答えた。


 ***


 今日はチェルさんがお部屋に来ない日だ。寂しいけれど仕方ない。お休みは大事。朝ご飯を食べた後に今日はお休みですとも言った。流石にご飯の時間以外は来ないと思う。


 朝ご飯を食べた後なのにお昼ご飯が待ち遠しい。

 気分転換に文字の練習をしようか考えたが、チェルさんにああ言った以上、私もしっかりと休まないと。とりあえずベッドに向かおうとするとノックを叩く音がした。

 チェルさん以外に来客の予定はない。誰だろう? 恐る恐る扉を開けるとチェルさんがいた。


「お前の部屋に置いてある本を読もうかと思っただけだ。ここで読んで良いか?」


 チェルさんは私の視界に入ると口を開いた。

 地図を作ると言ったら心を鬼にして部屋の中へは入れない予定だったが。本を読むなら別だ。お休みの日は本を読むと昨日も話していたし問題ない。チェルさんを部屋の中に案内するように扉を大きく開ける。


「構いませんよ。どうぞ」

「みやげも持ってきた。果実の汁が入っている。机の上に置いておく」


 チェルさんの手にはオレンジ色の液体が入っている瓶があった。果実の汁。オレンジジュースだろうか。突然どうしたんだろう?


「みやげ?」

「配下の者達が話しているのを聞いた。休みの日に集まる時には必要だそうだ。姫。コップを借りる。出して良いか?」


 休みの日に集まる。チェルさんの配下の魔物さんは仲が良いみたいだ。

 なんとなく狩りに行こうぜ。なんてスナック菓子や炭酸飲料を持ち込む学生さん達が頭に思い浮かんだ。


「はい」


 チェルさんは私の返事を聞くと。手慣れた手つきでコップを二個出す。それから持ってきた果実の汁を注ぎ。机の上に置いた。

 そして棚に向かうと本を数冊取り、ソファーに座った。私もチェルさんに続いて棚から本を取りチェルさんの隣に座る。


「おみやげがなくてもいつでも大歓迎ですよ」


 気持ちは嬉しいが必須ではない。チェルさんに伝えるとチェルさんが驚いているような表情をする。


「何もなくとも、ここで休んでも良いのか?」

「もちろんですよ」

「そうか。なら休みの日はこれからはここで本を読む」


 チェルさんがそう言いながら本の表紙をめくる。心なしかチェルさんの声が高く感じたのは私の願望だと思う。

 チェルさんに続いて私も本を見る。読んでいるのは歴史書だが、恋愛小説を読んでいるような気持ちだった。


 チェルさんと一緒に本を読んでいたら肩に昨日と同じ感触があった。横を見るとやっぱりチェルさんがお休みになっていた。


「あたたかい」


 寝言。だと思う。寝顔も気持ち良さそうだった。チェルさんは体温がないから私の手が温かく感じるのかもしれない。

 寒さが苦手と言っていた。毛布を取りに行った方が良いが、私が動いたら目が覚めてしまうかもしれない。ベッドに運べたら良いが私にはそんな力はない。

 本を膝の上に置くと、右手でチェルさんの左手を包み込むように握る。チェルさんの表情が穏やかになった気がする。


「ゆっくり休んで下さいね」


 ここ最近は私が振り回してしまっていた。少しでも休めますようにとチェルさんの手を温めるようにチェルさんの手を握る。

 チェルさんの手が温かくなったことを確認し、再び読書に戻る。規則的に聞こえるチェルさんの寝息が愛しく感じた。


 チェルさんが起きたのは二十分くらいしてからだった。「寝ていたか」その言葉とともに肩から温もりが消えた。


「はい。休めましたか?」

「ああ。まだここで休んでいたい」

「どうぞ、今日はお休みの日です」

「……ああ。休みも良いな」


 チェルさんは膝の上にあった本を取る。ページをめくるとすぐにチェルさんの視線が本に行く。真剣な表情で本を読むチェルさんの横顔はとても綺麗で見ていたいが、見つめているわけにはいかない。


 私も続きを読もうと本を取るが文字を見ると眠くなってきた。そのままうとうとしていると私の肩にチェルさんの頭が乗っかるような感触があった。


「お前の肩は温かくて気持ちが良い」


 チェルさんの言葉が聞こえたが、何を言っているかわからなかった。ひんやりとした温もりが心地よく私はそのままゆっくりと眠りに落ちた。

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