Ex1-2.とある魔物のプロローグ
ニクス視点になります。
「フェニックス。君も一緒に来るかい?」
そう俺に対して優しく笑う魔王様を見て、俺もあんな風に流暢に言葉を話せるようになりたいと思った。
そして次に俺は魔王様の隣にいた美少女に興味を持った。今から考えると消したい過去だが、あの時はこの可愛い顔をずっとみていたかった。
「く、る」
人の言葉ははっきりとはわからなかったが、魔王様の言葉を繰り返せば、魔王様について行けると思った俺は魔王様の言葉をそのまま繰り返した。
そして無事魔王城に住むことになった。直ぐにフェニックスは長いからニクスと呼ばれるようになって、それから少ししてからその可愛い女の子の配下となった。俺の持っている不死の特性が気に入られたからだ。
あの時は可愛い子と一緒にいれるととても幸せだった。不死持ちを手元に置きたいと考える者は命を粗末にするなんて大事なことを忘れるくらいに。
そう……彼女は悪魔だった。俺を惑わし、俺の命を使い捨てるように軽々しく扱った。
それでもあの可愛い顔で「ニクスくん。お願い」なんて言われたら簡単に絆されてしまう。俺は可愛い女の子に弱い。
だがその関係は直ぐに終わった。理由はとても簡単だ。その子が男だと知ったからだ。野郎には全くもって興味ない。俺のラビアへの興味は一気に冷めた。
それでもこの悪魔は俺に取って有用な存在にあることは変わりなかった。悔しいことに。
この悪魔の横にいると自分の思うようにことが運ぶ。そして自分が騙されにくくなる。これは俺がこれから生きていく中でとても役に立つものだ。
それもあり俺はラビアの元を離れず、ここで働き、今ではあの時の魔王様のようにペラペラと言葉を話せるようになった。
そして俺は言葉と共に悪魔の恐ろしさを知った。
あれは他の魔物を惑わす。可憐な容姿と耳に優しい言葉は警戒しないといけない。
そう。ラビアは今、俺を殺すときにするとても可愛らしい笑顔をしていた。男と知っているせいか、今回はトキめきではなく、禍々しさのが強い。
「今度ニクスに姫ちゃんを紹介するね」
俺に何かさせたいのはバカでもわかった。この悪魔は相変わらず可愛い女の子で俺を釣ろうとしているようだ。
今回の釣り餌はエリーゼちゃん。ロンディネという国のお姫様だ。プラチナブロンドのさらさらロングヘアーに深い黒い目。薔薇のように赤くて小さな唇。触れただけで壊れてしまいそうな細くて小さな体。さりげなく近くを通ったときに聞こえた「チェルさん」とチェルを呼ぶ声はとても癒やされるし、心なしか良い香りもした。全てが完璧でとても可愛い。見ているだけで幸せな気分になる可愛い女の子だ。
魔王様が人の国から捕らえて来た。俺も詳しい話を聞いてはいないが黒目のお姫様。何か事情があることくらい簡単にわかる。
不馴れな環境に護衛はあの無愛想なチェル。心配でたまらない。チェルが姫を泣かせたらすぐに魔王様へ報告する手筈も整っている。
だが俺が唯一見ることが出来る食堂での彼女はチェルの横で幸せそうにラーメンを食べている。俺の出番は今の所はないが、あの可愛らしい笑顔が曇ったらすぐに動く予定だ。
「ニクス」
姫のことを考えているとラビアの声が聞こえた。そうだ。姫に会いたいかって質問の途中だったな。もちろん会いたいに決まっているが、ラビアから聞かれた場合の答えはノーだ。
「いや、いい。今のところ、俺は幻想の姫を愛でるだけで充分だしな」
「顔が良ければ性格はどうでも良いんじゃないの?」
「高嶺の花は憧れのままが良いもんだ」
ラビアの言葉には裏がある。それはもう嫌になるくらいに知っている。
それにチェルには喧嘩を売りたくないしな。あれは知性はあるが知能がない。この城の中で一番魔物らしい魔物だ。
「この前まで会いたがっていたのに?」
「そりゃ。仲良くしたい。けどあんたがそう言う時はたいてい俺を殺そうとしているからな。痛いのは嫌いだ。それにチェルが執着しているものに手を出すなんて自殺行為だ。あいつ姫の事が好きだし」
「チェルくんが? ニクス。何で知っているの?」
ラビアが俺に聞くのは珍しい。俺はラビアの手の平で動いている。
と言うことはチェルが姫を好きなことはそこまで知られていないのか? あんなにわかりやすいのに。
「顔を見ていればな。チェルの片想いだ。姫にシュークリームを贈って求愛をしているが姫にはこれといった変化はないしな」
「チェルくんが姫ちゃんにプレゼント? あのチェルくんが?」
「ああ。売店の当番をしている魔物から入った情報だから間違いない」
チェルの動向はある程度把握している。あいつは本能で動くからな。姫に危険なことが及ぶ前に動きたい。些細な変化も大事だ。
「相変わらず、可愛い子関連だとニクスはとても優秀だよね」
「不馴れな環境にあの無愛想なチェル。心配で仕方ないだろ。あんたはどうなんだ」
魔王様もなんでチェルに頼んだのか。あいつならまだラビアの方がましだ。
「君ほどじゃないよ。そっか。ここまでニクスが姫ちゃんのことを考えてくれるなら、あの時にチェルくんをけしかけなければ良かった」
「あの時?」
「魔王様が姫ちゃんを連れて帰ってきたあたりにチェルくんをけしかけたんだ。魔王様がどこかへ出掛けちゃったみたいだけど、探しに行かなくて良いの? って。そうすればチェルくんが姫ちゃんの監視をすることになるかなって思ったんだ。計算通りでしょ」
俺の聞き間違え出なければ姫の隣にチェルがいる原因はラビアのせいとなる。今までの苦労は? いや、勝手にしていると言ってしまえばそれまでだけど。姫が良いなら良いが、ラビアが一枚噛んでいると知ると腹立たしさを覚える。
「聞き流せない言葉ばかりだぞ。あんた。姫のこと隠しているな」
「なーいしょ」
「何か考えているな」
「そんなに知りたいのなら教えてあげようか? けど良いの? 知っちゃったら姫ちゃんがニクスの幻想の存在ではなくなるよ」
ラビアは魔王様が姫をさらうのを知っていたようだ。これは何か隠している。
冷静になれ俺。って遅かったな。まずい。姫が絡むと熱くなる。ラビアは満面の笑みを浮かべた。
「ぶっぶっー。時間切れ。ニクスがそこまで姫ちゃんのことを気にかけているんだったら、巻き込んであげる。まずね。姫ちゃんは鑑定スキルを持っているよ。チェルくんからは内緒って言われてるから、誰にも言っちゃだめだよ」
星のようにキラキラと輝いているんじゃないかと思う程に軽快な口調だった。
「もし姫を利用するならチェルと共闘するぞ」
背に腹は代えられない。俺は姫の味方だ。
「そんなことしないよ。僕が利用するのはニクスくらいだよ。姫ちゃんは利用しないよ。あっ。チェルくんは別かな? ニクスにはチェルくんと共闘はしてもらう予定。チェルくんだけだとこの城のお姫様を守れるか不安だしね」
「不安?」
「チェルくんは隠すの下手でしょ」
隠すのが下手。知能がないってことか。確かにこんな重要な情報をラビアと何故か俺まで知っている。ラビアが監視していたらこうはならない。
「そうだな。そういや。俺の不死スキルもあんたと魔王様以外知らなかったな。この城はなんかあるのか?」
「特にないよ。ただこの城のもの以外に広がってしまうと大変でしょ。魔物より人間のが知能はあるんだから。人間に知られたらこの城が焼かれてしまうよ」
「そこがいつも引っかかる。人を警戒している割に協力的だろ」
まだわからないのが魔王様が時々言っている「人間を信頼し過ぎちゃいけないよ」と言う言葉だった。魔王様は人に対して友好的なはずだ。それなのに敵になる。正直、俺の頭にはまだ早すぎる。
「知能があるからいつ敵になるかわからないんだよ。僕たちのことが邪魔になったら僕たちを討伐しに来ちゃうかもね」
「敵に? もしかして姫が城に来ていると」
「うん。ロンディネの人間が救いに来ているよ。ニクス。もしかして、その話も知りたい? じゃあその話をしようか」
「おい待て」
ラビアは俺の制止など気にせず、そのままラビアが話しはじめた。俺もどうやらこれから姫を助ける計画の一匹に入っていたらしい。元々巻き込まれる予定なら仕方ない。俺もお姫様の戦おう。姫は「ニクスくん」と俺を呼んでくれるかな。考えるだけで顔が熱くなる。姫と話すために命が五個くらいは減りそうだが、それでも彼女と話せるその日が楽しみな事には変わりなかった。
次回からは第二部です。バッドエンド阻止に向けて動き始めます。
二部もよろしくお願いいたします。




