表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/202

Ex1-1.勇者の現状

視点が変わります

 チェルが仕事に戻って来ない。ディーネから魔王が報告を受けたのは三十分ほど前だった。

 そろそろ十五時になる。昼飯の時間をずらしたにしても、もう仕事には戻っている時間だった。

 チェルが遅いだけならそんなに大きな問題ではないが、今チェルは姫の護衛をしている。姫と共にいる可能性が高く、魔王はチェルよりも姫の所在が気にかかっていた。ディーネも「お姫様が何かに巻き込まれていなければ良いのですが」と姫を気にかけているように言っていた。

 魔王はチェル達の痕跡を探すためにまずは食堂へと向かった。チェルはいなかったが、ユンからチェルが食堂に来ていたこととラビアと話していたことを知る。

 魔王がユンの言葉を聞いて僅かに眉を顰める。

 チェルがラビアに何か言われた。機嫌が悪くなったチェルを姫が宥めているのだろう。それならば彼らは姫の部屋にいそうだ。一先ずは一安心だが、魔王がこれからどうすれば良いか考える。

 姫の部屋を訪問すると確実にチェルの機嫌を損ねる。ラビアからも何も報告はない。夕方あたりまでチェルの様子を見よう。そう決めることにし、魔王は執務室に戻ることにした。

 ディーネ達の所に立ち寄り、魔王が食堂から執務室に戻ると部屋の前にいるチェルを見かけた。


「お前を探していた」


 魔王と視線があうとチェルが言った。こちらのセリフだ。その言葉は魔王の口の中に飲み込まれた。


「悪いことをしたね。急用があったんだ。チェル。どうしたんだ? 午後の仕事の時間だろう?」

「そうだな。お前との話が終わったら戻る予定だ」

「急ぎの用事か? もしかして姫に何かあったのか?」


 ラビアといたというユンの言葉が頭に浮かぶ。ラビアが姫に危害を加える事はしないはずだが、姫の事が気になるのも確かだった。


「俺が見ている」


 チェルの顔が歪んだ。チェルの言葉は足りないが、姫が怪我をするわけがない。と魔王に伝えているようだった。


「無用な心配だったね。ならなんだい?」

「お前に確認したい事があった。姫を城の外に連れていきたい。問題はあるか?」


 魔王はチェルの言葉に目を丸くする。チェルから出てきた言葉を魔王は全く予想していなかった。

 そしてチェルが姫を外に連れ出したいと思っている理由を考える。だがわからなかった。もしここから逃げるつもりなら私の元に来ない。まずはチェルに真意を確認しないと。魔王が落ち着かせるように息を吐くと口を開いた。


「チェル。まさか姫を逃がしたいとでも思っているのか?」

「何を言っているんだ? あいつが逃げたいと思うわけがないだろう」


 姫はここに居たいのか。チェルの言葉に魔王が安心したのかわずかにこわばっていた表情が元に戻った。


「そうか。良かった。なら、突然どうして?」

「ラビアが外に出さないのかと五月蠅い。このままだとラビアにつけ入れられる」


 食堂でしょうもない小競り合いをしていたのだな。ラビアはチェルをからかい過ぎだ。振り回される姫が可哀想だ。それは言葉ではなく、ため息として出てきた。


「部屋の中に居たら陰鬱としてしまうからね。そうか、暗くなるまでに帰ってくるんだよ」

「夕飯の時間には帰ってくる」


 今の所はどうやら姫達にはここが帰る場所のようだ。魔王はチェルの言葉を聞き僅かに笑った。


「わかった。ディーネ達に行く日をちゃんと言っていくんだよ」

「ディーネに? 必要ないだろう。行くのは休みの日だ。仕事には影響が出ない」


 予想外の出来事に魔王の頭が僅かに混乱する。チェルは自分以外のために休みを潰すような男ではなかった。欲しいものでもあるのだろうか? 魔王が頭の中を整理しながらチェルに話しかける。


「休日に? 残業代はでないが良いのか?」

「ん? 俺が出かけたくて姫と出かけるんだ。何故残業の話が出る」

「そうだな。いや。すまないな。楽しんできてくれ、この辺りは私の領域とは言え、魔物が出現する可能性もある。気をつけてくれ」

「わかってる。俺はお前より強いんじゃなかったか?」


 チェルが淡々と言った。それはまるで魔王に姫のことを気にかけるなと言っているようだった。傲慢だな。魔王がピクリと眉を上げた。


「そうだったね。チェル頼んだよ。他はないか?」


 その言葉にチェルは考えた。魔王にどこまで聞けるか? 魔王が自分の質問に答えるかわからない。それでも聞かないよりはましだろう。


「姫は……。姫はなんでこの城にいる」

「まだ言えないかな」


 その言葉はチェルの予想通りだった。もう少し粘れるか考える。


「……何でも知っている顔が嫌いだ。なら質問を変える。あいつはいつまでここにいる?」

「そうだな。私が死ぬまではここにいて欲しいな」


 チェルは魔王の”死ぬまで”と言う部分が引っかかる。

 死ぬ。チェルの頭の中に直ぐに勇者と言う言葉が浮かんだ。魔王に確認をしたかったが、外れた場合、魔王は姫に興味を持つ。それはチェルにとって良くない展開だ。そうならないように言葉を考える。


「死ぬ? お前、殺される予定でもあるのか?」


 チェルは今まであまり考えて話すことをしなかった。魔王の真意はわからない以上、姫のことを知られるわけにはいかない。

 冷静に考えるために感情は抑え、魔王の言葉を待つ。


「言葉のあやだ。死ぬ予定などないよ。ふふっ。そうだな。もし死ぬのなら、お姫様を守って死ぬのが良いな。騎士のようで格好良いだろう」


 チェルが再び魔王の言葉を考える。守って死ぬ。守る事があるのか? 無理やり聞き出すことは出来ない。頭の中で言葉を考える。勇者と言う言葉は使ってはいけない。制約が多い。魔力を使うよりも疲れそうだ。


「俺が守れば充分だろ。襲撃か?」

「たまに魔物が襲撃することもあるだろう。それにロンディエの者も救出に来ている」


 魔王の言葉にチェルが反応する。

 ロンディネの者。姫の言っていた勇者か? 魔王も掴んでいるのか。チェルが唾を飲み込んだ。


「そうか。姫を奪いに。蔓延らせていて良いのか? 討伐をしようと思わないのか」

「まだ脅威ではない。それにここを長期間離れるのも良くないだろう」

「なら、俺に任せろ」


 チェルが言った。チェルはそれがアンデッドのようなものとは知らないようだった。だから呑気に待つなど言えるのだろう。追い返すことしか出来ない以上。勇者は早く対処した方が良い。


「チェルが? 助かるが、ここに来るまで後一年くらいはかかりそうだよ」


 一年と言われてもそれがどれくらいの期間かチェルには直ぐに思い浮かばなかった。

 一日は三回。頭の中で食事の回数を計算した。千百回くらいか。長いな。チェルが苦い顔をした。


「ならもう少し泳がしていても問題ないな」

「討伐をしにいかないのか?」

「一年は聞いていない。その間、あいつと飯が食えなくなるだろ」


 それはチェルにとって大事な事だった。この千百回を我慢すれば、何千回いや何万回と姫と一緒に食事を出来るのは知っている。だがそう簡単に目先の千百回は我慢出来るものではなかった。

 それに姫だけをこの城に置いていくのも不快だった。この城に居れば姫の身の危険はない。だが他の魔物と姫が一緒に食事をする可能性がある。チェルはそれを考えるだけでも腹立たしかった。


「確かにそれはチェルにとっては一大事だな」

「ああ。俺は姫とこの城にいる。もし脅威になったら教えてくれ。直ぐに討伐する」

「助かるよ。だが命を大事にしてくれよ」

「当たり前だ。死んでしまったらあいつと飯が食えなくなる」

「そうだね。チェルのそういう所は気に入っているよ」


 チェルは自分が死ぬとは思っていないのだろうな。魔王がチェルを見ながら小さく笑った。


「……何が言いたいんだ?」

「君は欲しいものは全部手に入れようとするだろう。私も見習わないといけないと思っただけだ。チェル。他は?」

「ない」


 これ以上は収穫はなさそうだ。こちらの情報を漏らしてしまう前に帰った方が良さそうだ。チェルはそう判断すると魔王に言った。


「そうか。なら仕事に戻ってくれ。ディーネ達も君が戻ってくるのを待っているみたいだからね」

「ああ。そうする」


 魔王の部屋に出る。扉を閉めるとチェルが小さくため息をついた。考えて話すことがここまで疲れるものとは思っていなかった。


 だが姫と一緒に食事をするためだ。仕方ない。姫のことを考えると姫の部屋に行きたくなる。

 仕事場へ行くなど言わなければ良かった。チェルが姫の部屋へ方向を見ながらため息をついた。それから諦めるように仕事場へ向かう。その足取りはとても重いものだった。

次も閑話を予定してます。

ラビアとニクスの二匹が出て来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ