22.仕事熱心な最弱四天王(自称)
視点が変わります
今日はチェルが魔王に姫の様子を報告する日だった。最近のチェルはきっちり七日後に魔王の元を訪れていた。
時間は十七時三十五分。体の中に時計でも組み込まれているのかと思うほどに正確だった。
十七時半になり、魔王が部屋の扉を開けた。
そのまま扉の前で待っているとすぐにこちらに歩いてくるチェルが視界に入った。
同じタイミングでチェルの視界にも魔王が入るが彼は気にせずそのままのペースで歩いた。
チェルは扉の前に到着すると止まりそのまま魔王へ視線を移動した。
「どうした?」
「待っていたよ。そろそろチェルが来る時間だと思ってね」
「そうか」
「ああ。丁度七日。チェルはきっちりしているからね」
最近のチェルは今までからは考えられないくらい正確に魔王の元へと訪れていた。
彼の時間の流れは簡単には変われない。何かあったのだろうか? 魔王は探るようにチェルへ声をかけた。
「当たり前だ。姫と飯を食べた回数を数えているからな」
その言葉は魔王にとって意外な言葉だった。魔王の僅かに目を大きく開く。だがそれは一瞬で、すぐにいつもの感情が読み取りにくい微笑みへと戻る。
「それは仕事熱心だね」
「報告しないと姫の部屋に来られても困るからな」
「手厳しいな」
「後はラビアのこともある。他の奴らにも俺が見ているから問題ないと伝えておけ」
少し前に四天王のラビアがチェルの前で姫に魅了をかけようとした。チェルが防いだため、大事にはならなかったが、チェルにとっては不快な出来事だった。
あの後、姫を部屋へ送り届けるとすぐに魔王の元へ向かった。そして魔王へ「ラビアを姫に近づけるな」と不機嫌な表情で言い捨て去って行った。
その時のチェルの姿を思い出したのか魔王が苦々しい表情をした。
「魅了の件か。ラビアには言っておいたよ」
「言って直るなら、問題にはしない」
「そうだな。ここの魔物達は自由なものが多いからな」
魔王がチェルから視線を外し眉を下げながら笑った。魔王と自称しているが、配下のもの。特にチェルとラビアは魔王に対して敬意と言うものが全く感じられなかった。
敬われて欲しいと言うわけではないが、もう少し優しく扱って欲しい。魔王はそんな気持ちを込めながらチェルに視線を移動する。
「あいつと一緒にするな」
チェルが苦い表情をする。
魔王は「私に対する態度だ」と出てきそうになる言葉を飲み込みこんだ。チェルからお前の言いつけ通り、姫の監視をしているだろう。なんて言葉が出たら厄介だ。
なら監視を変えようかなどと自分が言ったらチェルはどう答えるのだろう。魔王が考える。
チェルは賢いが腹の探りあいは得意ではない。ここに来る前は思惑などとは関係のない世界にいたせいか、詰めが甘い。
だがそれを力で解決が出来るくらいの強さを持っていた。彼の前ではどんな理論も力でねじ伏せられてしまう。だからこそチェルの扱いは難しかった。
なんで姫はこんな男に一目惚れをしたのだろう。魔王はゆっくりとまばたきをするといつものように笑った。
「ラビアと?」
「俺は魅了などかけない」
魔王が小さく息を吐くとごまかすように微笑んだ。この様子だとチェルはラビアの思惑と姫の気持ちに全く気付いていない。
その割に最近のチェルからは姫への独占欲のようなものがじわじわと出てきている。全く姫はこの男のどこが良いのだろう? 魔王は食堂でチェルと話す姫の表情を思い浮かべながらチェルへと声をかける。
「かけられると困るよ。そうじゃなきゃ君に頼まないだろう」
「そうだな」
「だろう。ラビアのことは私に任せて、君は君の仕事をしてくれ」
「俺の?」
「そうだ。今週の報告もまだだろう。最近の姫はどんな感じだ?」
魔王の言葉にチェルが顔をしかめながら考えた。
最近の姫は本を楽しそうに読んでいるが、それは何故か魔王には知られたくなかった。大したことではないはずだが、魔王が自分の住み処に入った時のような感覚に陥る。
だが何もここで答えなかったら、この男はまた姫の部屋に現れるだろう。チェルがため息をつくと諦めたように口を開いた。
「……本も読んでいる」
詳しくは聞くな。チェルの表情はそう言いたげだった。
もう少し続きます。




