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21.不快な気持ち

 ご飯が冷めてしまうとのことで、いったん休戦となった。確かにご飯は大事。それにここは食堂だ。お昼と言うこともあり、魔物さん達が集まっている。

 先ほどのラビアさんの魅了が注目を浴びたせいか、視線が痛い。ユンさんもこちらの様子をうかがっているし、さすがにここで戦闘とはならないだろう。


 チェルさんも同じ考えのようで以前のような攻撃的な魔法を使っていない。

 ここから早く離れた方が良い。ラビアさんを警戒しながら天ぷらを箸でつまみ、かき込むように口の中に入れた。急いで食べているせいか、今日のご飯はあまり味がしなかった。


 食べ終わるとチェルさんが私のお皿を自分のトレイにまとめた。それからトレイを持ち立ち上がる。チェルさんのその行動は突然だったので、私の思考が一瞬止まった。


「ほら、姫。行くぞ。袖にでも掴まっていてくれ」


 チェルさんの言葉で我に返る。そうだ早く部屋に戻らないと。私も急いで立ち上がると、ゆっくりと手を伸ばし、チェルさんの服の袖に触れた。


「はい」


 なるべくラビアさんから距離を取った方が良い。チェルさんを盾にするのは忍びないが仕方ない。チェルさんに近寄るとラビアさんを見る。


「チェルくん。もう行っちゃうの?」


 そんな私達とは正反対でラビアさんはのんびり食べていた。まだご飯が半分以上残っている。

 この様子ならしばらく時間がかかりそうだ。このまま部屋に戻った方が良い。戦略的撤退だ。チェルさんは強いが、ここは食堂だし、大きな荷物があるから仕方ない。


「ああ。良く言えるな。姫にはもう関わるな」


 チェルさんの眉間に皺が寄るとそのままラビアさんへと視線を送る。その視線は鋭く、視線だけでレベルが低い勇者なら殺せそうだなと感じた。


「どうしようかな?」


 ラビアさんはそんなチェルさんの視線を気にせずに、にやりと笑った。悪い顔をしているが、可愛らしい見た目もあり小悪魔のようだ。可愛い子は羨ましい。


「取り引きでもしたいのか?」


 チェルさんの言葉にラビアさんが頷いた。

 ラビアさんはブランドもののバッグをねだるような顔をしていた。ラビアさんとは取り引きをしない方が良い。だけどそれはチェルさんがわかっているはずだ。二人の様子を窺うように見る。


「……そうだね。じゃあチェルくんは僕のことをもう鳥って言わないでね」

「今は関係ない。そんな話をわざわざ言うな」

「取り引きをするんじゃないの?」


 ラビアさんの言葉にチェルさんが小さく舌打ちした。

 鳥? 脈絡のない言葉に一瞬戸惑う。それがラビアさんの作戦かもしれない。そっとチェルさんに視線を移動する。

 そう言えば以前ラビアさんのことを鳥とチェルさんが言っていた。目の前のラビアさんはとても可愛くてアイドルのようだ。鳥と言う言葉は似合わない。


「ああ、わかった。言わない」

「約束だよ」

「姫の前でわざわざそんな話を持ち出すなんて相変わらず悪趣味だな。姫、戻るぞ」

「はい」


 チェルさん視線が私に移動する。そのまま声をかけられた。

 話が終わった。長居はしない方が良い。返却口へ向かおうとするチェルさんについていく。その前にラビアさんをそっと見た。ラビアさんは私と目が合うとニコニコと笑いながら手を振った。


「お姫様。またね」

「もうない」


 チェルさんが私の代わりに返事をした。そっとチェルさんの方向を見る。チェルさんは黙ったままだが、視線はラビアさんに関わるなそう言っているようだった。


「チェルくんには言っていないよ」

「だからもう絡むな。約束しただろう」

「最後に挨拶くらい良いじゃない」


 ねぇ。とラビアさんは私に振ってくるが、どう返せばわからない。そっとチェルさんを見る。ラビアさんへ鋭い視線を送っていた。


「またはない」

「そうだったね。だけどチェルくん。お姫様が僕に会いたいって言ったらどうするの? 魅了が効くってことは心があるんだよ。チェルくんみたいにお姫様も面倒や不快って思うことがあるんだよ」


 にやりと笑うラビアさんと正反対にチェルさんの眉間に皺が寄った。


 チェルさんは何も言わずにトレイの返却口へと向かう。私もチェルさんの袖を握りついていった。

 チェルさんがそのままトレイを戻すと手を繋ぎ二人で部屋に戻る。部屋に戻る途中もラビアさんが突然現れないか緊張してしまう。

 それはチェルさんも同じようで、私を握る手が僅かに強い。張りつめた空気が流れているからか、なんとなく気まずい。


「軽々しくラビアに近づかないで欲しい」


 歩いていると突然チェルさんが溢すように言った。チェルさんに言われるまでもない。ラビアさんは危険だ。いくら元戦闘好きな勇者でも知らない魔物相手には簡単に会いにいかない。まずは準備を整えてからだ。


「はい。もちろんです」

「お前は……」


 チェルさんの視線が僅かに私からそれた。話し辛い内容なのか途中で言葉に詰まっているみたいだ。


「そう俺に言われるのは不快ではないのか?」


 少し待っているとチェルさんが続ける。その口調は重く、先ほどのラビアさんの言葉を気にしているようだった。


「そんなことないです。あんなことがあったばかりですよ。警戒するのは当たり前です」

「ならいい」


 突然魅了をかけられた。チェルさんが一緒に居てくれて助かった。と言うよりもだから私はチェルさんがいないと外に出られないんだろう。


「明日から食堂には行けそうもないですね」


 ラビアさんは危険だ。近づかない方が良い。そんな気持ちを込めてチェルさんへ伝えた。

 それは仕方ないとは言え、チェルさんと一緒にお昼ご飯が食べられないのは寂しい。


「なんでだ?」


 チェルさんが怪訝な表情をしていた。私はおかしい事を言っていないと思うが、とりあえず理由を伝えよう。


「ラビアさんと鉢合わせしたら」

「俺が近くにいれば問題ない」

「チェルさんが?」

「ああ。わざわざ約束なんて言ったんだ。俺がいる横でちょっかいなど出さないだろう」


 チェルさんがラビアさんを信頼している。どうしてだろう。先ほどまでのやり取りを見ていたせいか、違和感しかなかった。


「……ラビアさんは約束を守るんですね」

「魔物がわざわざ約束なんてしないだろう。それにあいつは悪魔だ。何よりも契約を大事にするからな簡単に破ったりはしない」


 ラビアさんは悪魔らしい。悪魔は契約を守る。よくある設定だ。魅了をかけて契約なんてこともありそうだ。やっぱり近づかない方が良い。

 それにしても悪魔は意外だった。あの容姿に口調は悪魔と言われれば納得だが、チェルさんの言葉もあり鳥の魔物だと思っていた。そう言えば勝手にオウムと思っていたから、最初ラビアさんとはわからなかった。


「悪魔? ラビアさんは鳥じゃなかったんですね」

「……ラビアの部下は鳥ばかりだからな。ピーチク。パーチクとやかましいだけだ」


 なんとなくチェルさんが何かを隠している気がした。きっとそれは知られたくないことだ。なんとなくそう思った。


「チェルさんは騒がしいの苦手ですからね」


 私もチェルさんが好きってことは知られたくない。隠し事というと気になってしまうけれど、何も聞かない方が良さそうだ。

 ここは話を合わせた方が良い。肯定するように小さく笑った。


「……お前のことはやかましいと思ったことがない」

「え?」

「そう言うことじゃないのか?」

「えっ、あ、はい」


 僕の魅了が可愛く見えるね。ラビアさんの言葉が頭に浮かんだ。

 チェルさんの言葉は良くも悪くも裏表がないからか、心臓に悪い。その言葉が私にとっては魅了に近いものだと知らないんだろうな。そう考えると少し切なくなってしまうので、私は気付かなかったことにした。

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