66 捕獲
「あ、あんな剣、こけおどしだ!囲んでやっちまえ!!」
盗賊の頭が、そう言った瞬間にリョウが動く。
一気に踏み込み、盗賊の頭の左肩へ斬り下ろす。
俗にいう袈裟斬りだ。
「ぐほっ!」
盗賊の頭は剣で受けるが、受けた剣はへし折られ、
身体ごとふっとばされた。
「命令したということは、抵抗するということだよな?!」
剛斬丸を構えたまま、周りを見回す。
「で、命令されたほうは、どうするんだ?!」
「わ、わかった。降伏する!」
そう言って盗賊の1人が武器を落とし、両手を上げる。
それに倣って、他の盗賊も全員武器を捨てた。
「手を頭の後ろに組んで、そこに1列に並べ!」
リョウは盗賊に命令する。
最初にふっとんだ3人と頭を除いた7人が並ぶ。
「リョウ!大丈夫か?!」
そこへ、デルムッドたちが到着した。
「はい、とりあえず、そこに並んでる7人をお願いします」
リョウはそう言って、ふっとばした3人と頭の様子を見る。
盗賊の頭は、鎖骨とあばら骨が数本折れていた。
斬り捨てるつもりだったが、剛斬丸を振り下ろす直前に
つい、手首を返して、峰打ちにした上に、降りぬかずに
途中で止めて威力を落としてしまった。
悪人とはいえ、まだ、人を殺す決心はつかないリョウである。
他の3人も打ち身や骨折はあるが、命に別状はないようだ。
(まだまだ、甘いな~~~)
と思いながらもヒールをする様子はない。
意外と非情なのかもしれない。
「デルムッドさん、そっちが終わったらこの4人も
お願いします」
盗賊を縄で拘束しているデルムッドたちに声をかける。
ガラガラガラ・・・・
そのとき、アンジェリカの乗った馬車が着いた。
出迎えに行くリョウ。
「アンジェリカ様、盗賊は全員捕獲しました」
リョウの報告に、馬車のドアが開きアンジェリカが出てくる。
アンジェリカはリョウの手をかりて馬車を降りる。
「ご苦労様でした。襲われていたのは、あの者たちか?」
「はい、怪我もないそうです」
豪華な馬車から、明らかに上流の貴族の女性が降りてきたので
あわてて平伏する2人。
アンジェリカは2人に近づき声をかける。
「面を上げよ。このような場じゃ、多少の無作法は許す。
名乗るがよい」
「メ、メイディー村のハリーと申します。
こっちは妻のリリーです」
「こちらは、メイフィールド伯爵夫人・アンジェリカ様です」
メイドのクラリスが紹介する。
「ご、ご領主様の奥方様!」
再び平伏する2人。
「こたびは、災難であったの。だが、こうして無事に
助かったのだ。運がよかったのかもしれぬ。ほっほっほ・・・」
アンジェリカ、完全に伯爵夫人モードである。
(こういうのを見ると、ただの世話やき強引おばさんじゃ
ないよな~~。さすが、伯爵夫人)
などと思うリョウ。
「リョウ、何か言いたいことでもあるのかの?」
しかも、カンの鋭いおばさんでもあった。
「いえ、2人が助かったのも奥方様の人徳の賜物かと」
リョウも家臣モードであった。
その後、夫婦の馬車の荷物を収納バッグに入れ、
代わりに重傷の盗賊3人を乗せ(1人は軽傷だった)、
残りの盗賊は歩かされて近くの街の軍の駐留地まで連行された。
盗賊たちは犯罪者として、強制労働所行きであろう。
夫婦には、アンジェリカから連行の手間賃が支払われた。
余計な手間をとったため、アンジェリカ一行が
メイフィールド領の領都バルダに着いたときは、
すでに日は沈みかけていた。




