64 出発
翌朝、リョウは、報酬と蒸留器など立て替えていた
代金合わせて金貨30枚、約300万円相当を
シュタイナーから貰った。
リョウからは、作っておいたメープルシロップや麦芽糖、
蒸留器2セット、料理やお菓子のレシピなどが渡された。
ウイスキーは、アルフレッドに樽で渡して、熟成を頼んだ。
そして、アンジェリカ一行の出発である。
「リョウ、指名依頼が済んだら、戻ってきてくれ。
待っているぞ」
シュタイナーがリョウと握手をする。
「お世話になりました。必ず戻ってきます」
リョウには、また子供達がしがみついている。
「あと、王都の学園にいる長男のウォルターにも会ってやってくれ」
と、手紙を出すシュタイナー。
(フェルナンデス、長男じゃなかったのか?!)
と思うリョウ。
確かに、フェルナンデスの甘えんぼの性格は
貴族の長男ぽくなかった。
「お預かりします」
手紙を受け取る。
「リョウ、早くいらっしゃい」
先に別れをすませたアンジェリカが馬車から呼ぶ。
「では、フェルナンデス様、マリエール様、行って
参ります」
2人をギュッとして別れを告げる。
「すぐに帰ってきてね」
「待ってますわ」
リョウが馬車に乗り込み、一行は出発した。
馬車の中でリョウは景色を見ながら考えていた。
もともと、休みをもらってゴジールに旅行に行く予定だったのだ。
それが、王都への旅行になったと思えばいいのではないかと。
もちろん、米や米に付随する文化はないだろうが
この国一番の都市なのだから、ガリアとは違ったものが
いろいろあるだろう。
サンフランシスコにいて、休みをもらって東南アジアに
観光旅行しようと計画していたが、会社の都合で
ニューヨークへ出張になり、ついで観光もすることに
なったようなものだと考えればいい。
まあ、リョウは、サンフランシスコにもニューヨークにも
東南アジアにも行ったことはないのだが。
そう考えて気が少し楽になったリョウは、無意識に鼻歌が
でていた。
「ご機嫌ね、リョウ」
アンジェリカが話しかける。
「あ、すみません。王都に行くのが、楽しみで・・・。
どんなところなんですか?」
「そうね、ガリアは農業中心の領で、のんびりした感じが
あるけれども、王都は商業の最大中心地だから、にぎやかで
あわただしいわね。様々なものが集まってくるので、
あなたが欲しいものもあるかもしれないわ」
リョウが、欲しい物といえばまず調味料である。
醤油は難しいだろうが、ナンプラーみたいな魚醤は
あるかもしれない。いろんな種類の香辛料があるなら
カレーに挑戦するのもいいだろう。
「メイフィールド領も商業が中心で王都にも
直営店があるから、紹介状を書いてあげるわ。
値引きしてあげるから、アドバイスがあったらお願いね」
農業(と軍事)のガリア領と商業のメイフィールド領。
もともとお互い協力関係にあったのだが、アンジェリカが
メイフィールドに嫁いで、友好関係はさらに強固になったそうだ。
「ガリアはシュタイナーが領軍をまとめて治安維持に
あたってるから、あまり変なのはいないけれど、王都は
いろいろな者がいるから、何かとめんどくさいわね。
特に法衣貴族が」
法衣貴族とは、領地を持たずに年金や役職手当で
生活する貴族で、現代で言うなら官僚に近い身分である。
こいつらが、役職の取り合いや商人との癒着など裏で
いろいろやっているそうだ。
また、軍人系の法衣貴族もおりこっちはこっちで、
国軍の役職の取り合いをしている。
ただ、こっちはある程度、実戦・戦略・兵站の分野ごとに
住み分けがされてるそうだ。
「まあ、はっきり言って、出来るだけ関わらないことね」
何か変なフラグがたったような気がするリョウであった。




