173 水飴製造
昨夜仕込んだ水飴の素は、でんぷんが糖に変わって上澄みが出来ていた。
「こんなふうに上のほうが透明になったらOKです。今の季節は
暖かいのでそのままにしましたが、寒い季節は布で覆って保温したり、
暖炉の近くなどの暖かい場所に置いたほうががいいですね」
今日は、4人の女獣人たちの他に、商業ギルドの職員も見学に来ている。
ギルド職員は20代半ばぐらいの人族の女性だった。
獣人は計算や書類作成などが苦手なため、商業ギルドや冒険者ギルド、
そして村役場の職員は半数ぐらいが人族だそうである。
「これを布で濾して煮詰めていきます」
リョウは指示しながら、なるべく獣人たちに作業をやらせていく。
「アクがでますので、丁寧に取り除いてくださいね。おいしさが
違ってきますよ」
リョウはそう言いながら、小さな陶器のコップを6個用意して、それに
暖まった水飴の素を注いでいく。
そして、生姜を石臼ですりつぶし、水飴の素の入ったコップに
入れ、それを皆に配る。
甘酒の親戚のような物である。
「まあ」
「あま~~い」
「生姜が効いてるわ」
「甘すぎるかな?!」
「・・・」
評価は悪くないようだ。
「こんなふうに、そのまま飲んでもいいですね。特に寒い季節なんかは
いいと思います。ただ、煮詰めないと日持ちがしなくて保存がききません」
「煮詰めると腐りにくくなるのですか?」
商業ギルドの女職員が聞く。
「物が腐るためにはある程度の水分が必要なのです。だから、水分を
少なくした干し肉や塩漬けは腐りにくいでしょ。塩漬けと同じ原理で
砂糖漬けなんていうものもあります。この国では砂糖が高すぎるので
無理ですが」
「砂糖漬け!!」
驚く女職員。
「そんな食べ物があるのですか?!」
「私の国では砂糖は安く大量にありますので。主に果物を使って作られ、
お菓子として食べられていますね」
「そ、それを輸入することは?!」
大儲けのチャンスと目の色が変わる女職員。
「海を隔てたはるか遠くなので無理です。現在、私が帰れなくなって
困っているところですから」
苦笑するリョウ。
そして、お約束のこの国来た設定を短く省略して話す。
「そんな文明の進んだ国が・・・」
「辺境伯様の相談役・・・」
「聖女様に招かれて・・・」
女職員は、儲けるチャンスがないとわかってガッカリするとともに、
あまりのことに信じかねているようである。
横で聞いていた獣人たちも理解できないというような顔をしている。
「それはいいんですが、手が止まってますよ」
リョウの話に気をとられて、水飴の鍋が放置されていた。
「あっ!」
あわてて焦げないようにかき混ぜ、アクをすくう獣人。
「もしかしたら、ここの名産品になるかもしれないので、品質のいい物を
作ってくださいね」
リョウは獣人たち、特に村長の奥さんに言う。
そして、20分ほど後、水飴ができた。
「熱いまま、壺に入れてください」
そう言いながらリョウは、見本をみせるように小分け用の壺に入れ、
後は獣人たちにやらせる。
「水飴は出来ましたが、もう少しお手伝いをお願いします」
リョウはそう言って、昨夜マーティアに認めてもらったことの準備を
始めるのだった。




