162 エリアヒール
伯爵邸から教会に戻ったリョウたち。
コリーヌやグレイシア、護衛の神殿騎士や馬車の御者などお供の者たちが
遅い夕食をとるときに、ついでにだしたカクテルは好評であった。
グレイシアはカクテルの追加をおねだりをして、マーティアに叱られていたが。
そして翌朝。
教会前には200人以上の市民がつめかけていた。
聖女に救いを求める者たちである。
ほとんどの者はただ聖女を見たいというヤジ馬だろうが、本当に救いを
求めている者もいるはずだ。かと言って、選り分けていたら時間が
かかって出発が遅れ、今日の予定が合わなくなる。
「どうしましょうか・・・?」
アイラト司祭がマーティアに聞く。
「仕方ありませんね・・・」
少し考えたマーティアは、そう言った後、護衛隊長に指示をだす。
「ジュリアさん、すみませんがお願いしますね」
ジュリアにも話をして、コリーヌとグレイシアを補助につける。
そして、準備のために奥の部屋にリョウと一緒に移動した。
「押さないで!!順番に1人ずつ入ってください」
「こっちだ、きちんと並べ!」
教会に来た市民は協会の職員や神殿騎士たちに中庭に誘導され、並ばされていた。
文句を言いたそうな者もいたが、神殿騎士に睨まれると何も言えない。
ただ、コリーヌやグレイシアに声をかけられて、いくつか質問をされた者のうち
何人かは建物の中に入って行った。
まるで日本の学校の朝礼のときの生徒のように並ばされた中庭の市民たち。
そして、校長先生のようにお立ち台に上がるマーティア。
マーティアの神々しいまでの清楚さに息をのむ市民たち。
もっとも一部には、その大きすぎる胸を見て、邪な妄想をいだく
不埒者もいたが・・・。
「第22代聖女、マーティアです。すみませんが時間がありませんので
全員まとめて治癒いたします」
『まとめて???!!!』
市民たちの頭にクエスチョンマークがうかぶ。
(まさか、コリーヌの言ったようなことを、昨日の今日で本当にやることに
なるとは・・・)
半分あきらめのような思いの中、精神統一したマーティアは、
「エリアヒール!」
かけ声とともに、両手を前に突き出し、魔力を放出する。
さすがに『ドーン!』とは言わない(笑)。
イメージの違いだろうか。
今回は、ドーム状に大きくなるのではなく、全体を包み込むように光が
放出され渦を巻いている。
そして、並んでいる市民が光に包み込まれ少し経つと、光が弱くなりはじめ
やがて消えた。
「今回はこれで、ご了承ください」
マーティアは、そう言ってお立ち台を降り、教会の中に入って行った。
何が起こったのかよくわからない市民たちだが・・・、
「き、傷がない!!」
「お腹の痛みが・・・!」
「赤ちゃんの熱が下がってるわ!」
「頭痛が消えた!」
あまり変化がない者もいるようだが、ほとんどの者が効果があったようだ。
「我々はこれからすぐに発たねばならなん。全員速やかに退出
するように!」
護衛隊長が市民に教会の外に出るように促す。
しかし、市民の多くが膝をつき聖女が入った協会に向かって頭を下げているため
あまり効果がなかった。




