153 レイチェル
「却下!」
「え~~~~~?!!!!!」
暗部の者と入れ替わりにリョウを呼び、計画を話したところ、いきなり
否定されたマーティア。
「最初はインパクトが欲しいので見物人が多いほうがいいと思います。
そっちのほうは計画どおりにしましょう」
「では、どうするのですか?」
計画を否定されて、ちょっと膨れるマーティア。
それを見て、(くそう、無駄にかわいいな!)と思いながら言うリョウ。
「私の別の顔を使ったほうがいかと」
「別の顔?」
「ガリア辺境伯様の相談役という顔です。相手は貴族ですから何か利益になる
知恵や知識のほうが喜ぶんじゃないかな?!と。私の目的にも合いますし」
リョウの目的とはもちろん、文明を少しだけすすめる、ということである。
「私からの紹介ということで、教会としても恩が売れる・・・と?!」
「そそ、三方一両得です」
リョウは筒○康○も読んでいたらしいが、当然マーティアは意味がわからないので
頭に『?』マークが浮かんでいる。
「奥方様の御母堂は、マーティア様が治すということで。もし、難しければ
私がこっそり手伝いますし」
「そうですね・・・わかりました、それでいきましょう」
マーティアもしぶしぶだが納得したようだ。
しかし、このリョウの提案が思いもかけない方向に行ってしまうのだった。
「ああ、入り婿だから奥方様の御母堂と一緒に住んでるんですね」
リョウは、領主館に行く馬車の中でウィスラー伯爵についての情報を
確認していた。
マーティアの他にはコリーヌとグレイシア、護衛の騎馬が2人馬車の
前後に配置されている。
人数を絞るために、ジュリアは今回は留守番である。
「報告によると、伯爵夫妻は学園の同級生で、そのときから伯爵は
奥方の尻に敷かれているのだとか」
少し面白そうにマーティアが言う。
「子爵家の三男が伯爵家の当主ですから、よかったんじゃないでしょうか」
「俗に言う『逆玉』ですか・・・」
当人にとっていいことだとは思うが、いろいろと大変だろうなと思う
リョウであった。
そして、まもなく領主屋敷に着いた。
屋敷の玄関に馬車を横付けし、リョウたちは、馬車から降りる。
「聖女様、いらしていただき、ありがとうございます。ジャスティン・
ウィスラー伯爵にございます」
30代半ばに見える中肉中背の男が出迎える。
「こちらは妻のレイチェルです」
「・・・」
紹介された女性は、驚いたような顔をしてリョウを見ていた。
「レイチェル?!」
「あ、せ、聖女様、よくいらっしゃいました。レイチェルにございます」
伯爵に名前を呼ばれ、我に返った伯爵夫人は、あわてて挨拶をする。
「第22代聖女を拝命しております、マーティアでございます。
このたびは、ご招待ありがとうございます」
マーティアが挨拶する。
「と、ところで、聖女様、そちらの方はもしかして異国の大賢者リョウ様では
ありませんか?」
興奮した様子でレイチェルが聞く。
「え?!なぜご存知なのです?」
驚くマーティア。
というか、リョウ本人が一番驚いている。
「きゃぁ~!」
アイドルに会った女子高生のような悲鳴を上げるレイチェル。
「さすがは聖女様!よくぞ、リョウ様をお連れくださいました!」
マーティアの両手を握り、喜ぶレイチェル。
伯爵を含めた周りの者は、何が起こったのかわからず、ただその様子を
見ているだけであった。




