154 マルティナ
さらにレイチェルはリョウの前に行き、
「リョウ様、ようこそいらっしゃいました。さあ、こちらへ」
「えっ・・・、な、何を・・・」
戸惑うリョウの左腕をとって引っ張り、屋敷の中へ入って行った。
他の者は唖然として見ていたが、すぐに気を取り直して後を追う。
リョウの左腕を抱えて、廊下を楽しそうに歩いていくレイチェル。
リョウは振りほどこうと思えばもちろん簡単だが、そんなことが
出来るわけがないので、おとなしく付いて行く。
そして、レイチェルは、廊下の突き当たりの部屋のドアの前で止まり、
ノックする。
「お母様、レイチェルですわ」
中からメイドが開けたドアを通って、部屋に入るレイチェルとリョウ。
「お母様!リョウ様を!大賢者様を!お連れしましたわ!」
「え?!!!」
椅子に座っていた初老の女性が立ち上がるが、
「あ・・・」
一瞬動きが止まり、
「い、痛たたた・・・」
腰に手をあてて、椅子に座り込む。
「お母様!」「!」
あわてて駆け寄るレイチェルとメイド。
リョウは片膝をつき、初老の女性に目線を合わせる。
「大奥様、リョウと申します。治療のため、お身体に触れても
よろしいでしょうか?」
「は、はい・・・」
痛そうにしながら、うなずく女性。
リョウは女性の腰に手をあて、ヒールで腰痛を軽減させる。
「あ・・・」
痛みが弱くなり、驚いた表情でリョウを見る女性。
リョウは優しい笑顔でうなずき返す。
「きちんと治療をしますので、横になれるところはありませんか?」
「そ、そちらが寝室です」
メイドが手でドアを示す。
「失礼いたします」
リョウはそう言って女性を抱え持ち上げる。
俗に言う、『お姫様抱っこ』である。
そのとき追い付いた者たちが、伯爵を先頭に部屋に入ってきた。
「義母上、失礼しま・・・す」
リョウに抱き上げられている義母を見て動きが止まる伯爵。
「すみません、治療をするので移動します。聖女様、サポートをお願いします」
そう言って、寝室に入るリョウ。
「はい、わかりました」
マーティアもすぐに後に続く。
「手伝いが必要なときは呼びますので、あなたたちは待っていて」
レイチェルがそう言って、メイドと一緒に寝室に入りドアを閉める。
コリーヌとグレイシアは落ち着いているが、他の者はレイチェルが『大賢者』
と呼んでいたいた者の正体がわからず不安げだ。
そして伯爵は、さきほどの光景を思いだしていた。
(義母上、治療だというのに嬉しそうな顔をしていなかったか?!)
抱き上げていた女性をベッドに寝かせて声をかけるリョウ。
「大奥様、申し訳ありませんが、治療のために上着を脱いでいただけま
せんか?!」
「マルティナと呼んでちょうだい」
「え?!は、はい、マルティナ様」
(今、それをこだわる状況か?!)
と思いながらも、従うリョウ。
「それでいいわ。リリー、脱がせてちょうだい」
リョウに名前を呼ばれて満足そうにして、メイドに命じるマルティナ。
「では、治療をしますので、うつぶせになってください」
「はいはい」
伯爵が感じたように、なぜか嬉しそうに治療を受けるマルティナであった。




