147 王女と子爵令嬢
「いい香り・・・さすがに、ガリアのフォートラン農園のファースト
フラッシュですね」
そう言ったのは、このシルフィード国の王妃・アリエノールである。
彼女は、ここ王都シルファンの王城の中庭で、午後のお茶の時間を
楽しんでいた。
ファーストフラッシュとは、春摘み茶のことで、特に香りがよいと
されている。
そして、フォートラン農園とは、ガリアの冒険者ギルドマスターの
エリックが経営する農園で、毎年、ファーストフラッシュの中でも
最上品が王家に献上されることになっており、さっそく届いたばかりの
紅茶を淹れさせていたのである。
「お母様!お姉様!」
演劇場でリョウたちに会っていたカテリーナが帰ってきた。
「あら、お帰りなさい、カテリーナ」
「お帰り、カテリーナ。何をあわてているの?」
王妃に続いて、カテリーナの姉の第2王女アデルが挨拶する。
「すみません、お茶の時間に間に合わせようと思いまして」
そう言いながら、カテリーナは包みを収納バッグから取り出し、
メイドに渡す。
「ということは、珍しいお菓子でも手に入れたのかしら?!」
期待を隠そうともせずにアデルが言う。
「お菓子・・・なのか食事なのかよくわかりませんが、とにかく
おいしいものです」
『何だ?そりゃ』というような顔の王妃とアデル。
メイドが包みを開き、フルーツサンドを取り出して、少し驚いた様子を
見せた後、断面がよく見えるように皿に盛った。
「あら、綺麗!」
「何?これ」
「パンに果物をはさんだフルーツサンドイッチというものだそうです。
この白い生クリームというものが、パンと果物を調和させています。
手で掴んで、お召し上がりください」
カテリーナに言われてフルーツサンドを手に取り食べる2人。
「「 !! 」」
2人とも気に入ったようである。
「ほんと、この生クリームというものとの相性がいいですわね」
あっさりと1つを食べきって、2つ目を手に取るアデル。
「最近、異国の料理に夢中になっていると聞いていましたが、
なるほど、これはいいですね」
やはり、王妃であるアリエノールは知っていたようである。
言われる前に先んじて持ってきてよかったと、胸を撫で下ろすカテリーナ
であった。
学園に行ったジュリアはオリビアに面会を申し出、待合室にいた。
「待たせたわね、ジュリ・・・ア!!」
オリビアが面会室に入ってくるなり絶句する。
「!!」
オリビア付きのメイドも同様である。
「オリビア様、ご機嫌うるわしゅう」
ジュリアが挨拶する。
「たった今、うるわしくなくなったわ!何?!そのブローチとペンダント!!
宝石がリョウ様の瞳の色と同じじゃない!」
オリビア、やはり気づいたようだ。
「もちろん、リョウに買っていただきました」
自慢げに見せ付けるジュリア。
「ムキー!!」
藤○不○雄の漫画のような怒り方をするオリビア。
「そして、リョウの相方にしてもらえました」
「ムキキー!!」
「お嬢様、落ち着いてください」
メイドがオリビアをなだめる。
「ジュリアさんは、お嬢様のためにいらしたんですよ」
「あ・・・」
頭に血が上っていたオリビアだがようやく気がついたようだ。
「はい、お嬢様が学園を卒業なさったら、改めてお嬢様とのことを
リョウに考えてもらいますので」
この国では年度の最初は秋なので、最上級生のオリビアはまもなく
卒業である。
「わかったわ。それまでちゃんとリョウ様を捕まえておくのよ」
やっと落ち着いたオリビア。
「ただ・・・」
申し訳なさそうに言うジュリア。
「たぶん、その頃には、そばにいる女性が何人か増えているかと・・・」
「ムキキキー!!!」
自由のきかないこの身が恨めしいオリビアであった。




