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107 晩ご飯はクリームシチューです

「……というわけで、飛行魔法で競争してたら、シャーロットさんが魔力を使い切っちゃって。減速もできずに、お母さんに突っ込んでいったの」


「申し訳ないですわ……自分が恥ずかしいですわ……」


 夕食のテーブルでローラが事情を説明している最中、シャーロットはずっと小さく縮こまり、申し訳ない申し訳ないと泣いていた。


 実際、あそこに丁度よくドーラがいなければ、シャーロット落下によるクレーターが形成され、湖が少し大きくなっていたところだ。

 だというのに、ドーラもブルーノもさほど気にした様子がない。


「まあまあ。若い頃は無茶をするものだから。ねえ、お父さん」


「そうだ、そうだ。俺たちも色々やったよなぁ。はは、懐かしい」


 一体、何をやらかしたのだろうか、とローラは疑問に思う。

 クレーター形成未遂事件を笑い飛ばすくらいだから、きっともの凄く無茶なことに違いない。


「そう言えばお父さん。覚えてる? 私たちが冒険者学園に入って最初の夏休み。イカダで隣の大陸まで行こうとして……」


「ああ、途中で大嵐に遭遇して、食料を全部失って、死にかけたなぁ」


「でも途中で巨大エビが五匹も現われたから、それを倒して食べたのよね」


「最初は美味しかったんだが、途中で飽きて辛かったなぁ。それにコンパスも嵐でなくしていたから、どっちに進んでいいか分からなくて」


「もう駄目かと思ったら、大賢者様が助けに来てくれたのよね」

「懐かしいなぁ……」


 ドーラとブルーノはしみじみと語る。

 二人にとっては、いい思い出なのだろう。


 しかしローラとしては、友人たちの前で、そんな恥ずかしい話をして欲しくない。

 泣いていたシャーロットが引きつった顔になっている。まさに泣く子も黙る話だ。

 アンナとミサキも、顔に汗を浮かべている。


 ローラたちは、学園で何かトラブルが起きたら、真っ先に疑われるくらいに問題児だ。

 しかし、それでもイカダで隣の大陸に行こうとは思わない。

 まして、ドーラもブルーノも魔法使いではなく、ただの戦士。

 怪我をしても治せず、飛んで逃げることもできない。

 なのにイカダで出航するとは……無茶というか、阿呆というか。


「あら、なぁに、皆でそんな顔をして」


「な、何でもないよ! クリームシチュー美味しい!」


 ローラは適当に誤魔化し、シチューをガツガツ食べる。

 実際に美味しいから嘘ではないし。

 ハクもテーブルの上に座り、美味しそうに食べている。

 ローラが苦手なブロッコリーも丸呑みだ。

 そんなにブロッコリーが好きなら、ローラの分を分けてあげよう。


「こらローラ。ちゃんとブロッコリーを食べなさい!」


 ドーラが目をつり上げた。


「でもハクが欲しそうにしてるから……」


「ハクちゃんのせいにしちゃ駄目よ。ハクちゃんもローラのを取ってまで食べたいとは思わないわよね?」


「ぴぃ」


 ハクは力強く頷く。

 これでブロッコリーをハクに押しつける大義名分がなくなってしまった。


「私のブロッコリー適性はマイナスなのに……」


 それでもローラは、大きくなるためだと我慢し、頑張ってブロッコリーを食べる。

 食べ終わったあと、皆で皿を片付け、洗い物も手伝う。


「助かったわぁ。ミサキちゃん、凄くテキパキしてたわね」


「普段は学食で働いているでありますから」


「うちのメイドさんにしたいくらいだわぁ」


「メイドさんでありますか。そう言っていただけるのはありがたいでありますが、私は巫女として、ハク様のおそばにいるのも仕事でありますから」


 ミサキは褒められたのが嬉しいらしく、照れくさそうな顔をし、耳と尻尾をピコピコゆらす。

 しかし、ミサキにメイド服というのは実に似合いそうだ。

 今度、何か理由を付けて着せてみようと企むローラであった。


「さてと。思いがけず私の実家まで来ちゃいましたけど、そろそろ帰りましょうか。明日も授業がありますし」


「あらローラ。外はもう真っ暗よ。今日は泊まっていったら? 明日の朝、早めに起こしてあげるわ。そうしたら授業にも間に合うんじゃない?」


「うーん……確かに、今日のスピードを考えたら、ギリギリ間に合うかも。暗い中を飛んで迷子になるのも嫌だし……じゃあ泊まっていく!」


「そうしなさい。ふふ、まさか冬休みの前にローラたちが遊びに来てくれるなんてね。色々お話を聞かせてちょうだい。ハクちゃんやミサキちゃんと出会ったエピソードとか」


「うん! あのね、ハクはね、夏休みに王都に帰る途中、メーゼル川を卵の状態でどんぶらこと流れてたんだよ!」


 ローラは、ハクが神獣であることや、ミサキがそれを祭っているオイセ村の巫女であると説明する。

 それから、ハクを狙ってきた盗賊を、大賢者と一緒に倒した話もした。


「そうなんだ。ローラが神獣を育てることになるなんて……世の中、色々なことが起きるのねぇ」

「はっはっは。流石は俺の娘だ、凄い!」


 神獣を『凄い』の一言で片付けてしまう親も凄いとローラは思う。

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