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105 シャーロットさんが墜落です

 最初は、ちゃんとした空中散歩だったのだ。


 六本脚ジャイアントバイソンの群れが草原を移動しているのを眺めたり。

 コスモスの花が咲き誇っている丘を見つけ、明日はお弁当を持って、あそこに行こうと計画を立てたり。

 途中で小型のワイバーンに襲われたので、「ていやっ」とげんこつを喰らわして追い払ったり。


 そんな放課後らしい、まったりとした時間の過ごし方をしていた。

 ところが、途中でシャーロットがスピードを上げて、ローラの前に出てきた。

 空が茜色になってきたので、そろそろ学園に帰ろうかと思っていたのに。

 これでは夜になってしまう。


「シャーロットさん。何のつもりですか? まさか……まさかなんですか!?」


「ふふふ、そうですわローラさん。やはり、競争ですわ! 血が騒いで仕方がないのですわ!」


「いや、しかしですね……もう遅いですし、お腹も減りましたし……明日にしませんか?」


「では、わたくしの不戦勝ということでよろしいですわね! おほほほほ!」


 シャーロットは悪役みたいな高笑いを上げ、ばびゅーんと加速していった。

 あっという間に小さくなり、もうほとんど見えない。

 やはり負けるというのは悔しい。

 しかし、ここで追いかけたら、本当に夜になってしまう。

 夜になったらメーゼル川が見えなくなるので、王都に帰れないかもしれない。


「シャ、シャーロットさんは仕方のない人ですね……あんなはしゃいじゃって……はは」


「ローラ、声が引きつってる。別に我慢しなくてもいいんだよ」


「ロラえもん殿。売られたケンカは買うであります! 私たちも付き合うであります!」


 後ろから、友人たちの声援が聞こえてくる。

 まるで……というか、実際に背中を押されている。

 おかげでローラの迷いは吹き飛んだ。


 そうだ。挑まれたら、受けなければならない。それが冒険者というものだろう。夕飯とか、夜になる前に帰りたいとか、そんなのは些細な問題だ。

 まして相手はシャーロット・ガザード。

 かつて校内トーナメントの決勝で競い合ったライバル。

 ここで逃げたら、大切な何かを失ってしまう!


「ハク、私に掴まってください。加速しますよ!」


「ぴぃ」


 ハクはいつものように、ローラの頭にしがみついてきた。

 それから後ろの二人にも、しっかり掴まっているように念を押してから――魔力を全力噴射。

 と、同時に、空気抵抗を減らすため、円錐状の結界を構築。

 これでどんなに速度を上げても、風圧が直撃することはない。


 しかし加速による重圧だけは防げなかった。

 ローラは内臓が圧迫されるのを感じる。

 ハクが髪の毛にぎゅっとしがみついてくる。

 アンナとミサキも苦しげな声を漏らす。


 だが、ここで止めるわけにはいかない。

 もう少し付き合ってもらう。


「……シャーロットさんが見えました!」


「なっ、ローラさん、もう追いついてきたのですの!?」


「ふふふ、追いつくだけでなく、抜いちゃいます!」


「ああ、そんな……ぐぬぅ!」


 ローラの真横でシャーロットが歯を食いしばっているが、どんなに魔力を絞り出しても、無理なものは無理だ。

 ローラにはまだ余裕があり、シャーロットは限界。

 当然の帰結として、ローラが追い抜き、そのまま差を広げていく。


「これで決着が付いた。そろそろ学園に帰ろう」


 アンナがシャーロットに向かって言う。

 実際、先行したシャーロットをぶち抜いた時点で、ローラの大勝利だ。

 悪いが、シャーロットがローラに勝つ日があるとしても、遠い未来だろう。

 そう思ったのも束の間――。


「……まだまだ、ですわ!」


 限界だったはずのシャーロットは、更に速度を上げた。

 毎日シャーロットと過ごしているローラは、彼女が一度に放出できる魔力量を熟知している。

 なのに、その予測を上回ったのだ。


 どんな理屈かと言えば、至極単純。

 ど根性。その一言に尽きる。


 肉体から生み出される筋力と比較して、霊体から生み出される魔力は、根性論が通りやすい。

 そしてシャーロットは根性の人。

 普段の魔力量から想定される予測値など、いざとなれば役に立たない。


「いや、それにしてもこの加速は……シャーロットさん、無茶しちゃ駄目ですよ! これはそんな根性を絞り出すほどの勝負じゃないんですから!」


「ぐぬぬぅ、ぐぬぬぬぬぅ!」


 どうやらローラの声は届いていないらしい。


 振り返って見ると、シャーロットは目を血走らせて追いかけてきている。

 鬼気迫るものがあった。

 こんな放課後のちょっとしたお遊びで、ここまで本気になれるとは……これも一種の才能かもしれない。


 しかし、いくら根性を絞り出しても、届かないものは届かない。

 ほどなくしてシャーロットは、白目をむいた。


「のわっ、シャーロット殿が凄い顔になってるであります!」


「何かが乗り移っているとしか思えない……!」


 ミサキとアンナもシャーロットを見て、ギョッとした顔になっている。

 だが、二人以上にローラが一番驚いている。

 なぜなら、もうこれまでと思ったシャーロットが、更に一段階加速したからだ。


 ローラはハクやミサキを気遣っているゆえに、これ以上、急激に速度を上げることができない。

 よって、シャーロットはついにローラを抜き返した。


「シャーロットさん、凄い……!」


 ローラは素直な賞賛を口にする。

 まさか抜き返されるとは思ってもみなかった。

 これはシャーロットの勝利だ。誇ってもいい。


「私の負けです……だから、もう止まってもいいんですよ! どこまで行くんですか!?」


 シャーロットは脇目もふらず、放たれた矢のように飛んでいく。

 速度はそのまま、しかし高度を落とす。


「……もしかして、気絶してる?」


「白目だったでありますからなぁ」


「ええ……あんな速度で落ちたら色々と大変ですよ! 止めないと!」


 まずシャーロット自身が目も当てられない状態になるだろう。

 それから激突した地面にクレーターができる。

 もし町や村に落ちたら、沢山の人が死ぬかもしれない。

 親友のため、皆のため、ローラはホウキを飛ばした。

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