少年は夢を叶えた
あの車はずっと僕の憧れだった
あの車に出会わなければ、僕はもっとつまらない人生を送っていたのかもしれない
10歳の僕の目の前に、不意に現れたあの車は僕の世界を変えてくれた
あの車に乗る事が僕の夢だった
あれから17年・・・
僕の恋焦がれた憧れの車が目の前にある・・・・・
ガングレーメタリックのR32GT-R・・・・・
そして僕の右手にはチタン製のキーが握られている・・・
僕はドアの鍵を開けバケットシートに身体を滑り込ませる・・・・・・
そしてキーシリンダーにキーを差込み、セルを回す・・・・・・・・・
ゆっくりとエンジンが始動する・・・・・・
この車だけが持つエンジン音・・・・
世界中を探してもこの車にしかない音・・・・・・
僕は、ゆっくりとGT-Rを動かす・・・・・・
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家に帰った僕に、妻は話しかけた
「どう?初恋の相手は?」
「うん・・・なんか・・・感動してる」
「そう、にしても車が初恋って何か変ね」
「そうかもね・・・」
「ねぇ、なんであの車に恋しちゃったの?」
「長くなるよ?」
「妻としては旦那の初恋が気になるの」
「あれは・・・僕が10歳の時・・・・・・・・」
僕は妻にGT-Rを始めて目にした時の話しをした。
恥ずかしくて誰にも離したことの無い話を、妻は黙って聞いていてくれた。
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その後のことを少し
息子もGT-Rを気に入ってくれたみたいで、いつもGT-Rのミニカーで遊ぶようになった。
たまに仕事が早く終わった時とか、妻と幼稚園にGT-Rで迎えに行って、そのままドライブをするのが息子の楽しみになったみたいだ。
そういえばこの前、3人で買い物に行った時、駐車場でGT-Rを見ていたおじさんに話しかけられた。
「この車、大事に乗られているんですね」
「はい、僕の宝物ですから」
「そうですか・・・これからも大事にしてやってください・・・」
「はい・・・」
おじさんはもう居なくなっていた。
息子と手を繋いだ妻が不思議そうに僕に言う。
「さっきの人なんだったんだろうね?」
「・・・・・・・さぁ・・・」
僕らはGT-Rに乗り家路に付いた
ずっと大事にしますから・・・・・・安心してください・・・
貴方の分まで大事にしますから・・・・・・・・・・・