はじまり
人というのは簡単に、嘘をつく。
お母さんが笑いながらスープをくれる時、その背中ではドロドロとした濁った黄色が揺れている。お父さんが「お前は自慢の娘だ。」と頭をなでてくれる時、頭に響いてくるのはは(早くこの気味の悪い化け物が消えればいいのに)という冷たい本音だった。
リズ・テイラー、十八歳。
ウェーブのかかった金髪と、強い光をたたえたエメラルドグリーンの目。「可愛い」なんて言葉は私には似合わないだろう。
私には、生まれつき他人の気持ちが「色」で見えてしまう不思議な力があった。怒りは赤く、恐れは青黒く、嘘つきは濁った黄色に見える。さらに厄介なことに、肌と肌が触れ合うと、相手の「本当の声」が頭の中に直接聞こえてしまう。
嘘と本音がバラバラな家族の中で、私はいつしかなにも話さなくなり冷めた目で二人の事を見ていた。
その姿が、両親にとっては自分たちの心を見つめる監視者のように見えていたようだ。
「いい加減にしろ、リズ! お前のそのジロジロ人を見る目が気持ち悪いんだよ!!」
今日も夕食の席で、父がお皿をドンと机に叩きつけた。
母は怖がって目を合わせようとしない。彼女から出ているオーラは、恐怖の青と、嫌がる黒が混ざっていた。
「明日から、お前はこの家から出ていけ。コネを使って王都の騎士団に放り込んできたからそこで働け。二度と戻ってくるな。」
それは事実上の追放だった。だけど私の胸にあったのは、ホッとするような静けさだった。
嘘の優しさしかないこの家を出られる。自分の足で、誰の心の声も聞かずに生きられる場所へ行ける。
「わかりました。明日、荷物をまとめて出ていきます。」
淡々と答えた私に、父はさらに顔をしかめた。
服の上からでもわかるしなやかな腕を組み、私は自分の部屋へと戻った。
朝が来て、少しの荷物を持って家を出た。見送りなんてない。
冷たい朝の空気を吸い込みながら、私はまっすぐ前を向いた。気持ちが悪いと言われ続けたこの目と、余計な声が聞こえるこの耳を持ったまま、私は鉄と汗の匂いがする騎士団の門へと歩き出した。
どんなにつらい毎日が待っていようと、あの家より息が詰まることはない。
そう信じて、私は新しい世界へ一歩を踏み出した。




