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96.彼女3人の女子トーク ①

 トオルとリーゼロティの二人だけでの念話の交流がわずか5分間続いた、屋上にいるはずの春斗の姿が消え去った。




 トオルが座っているベンチから少し離れた場所に立つ小さな茂みの中に、依織が無言で立ち尽くしていた。言葉を交わせない二人の様子がわからず、彼女は自分が愚かな行動をしていると感じ、トオルたちに気づかれる前にその場を立ち去った。


 ペラシオンタワーへの通路を歩いている依織は、眉をひそめ、目の焦点が定まらず、ぼんやりとしていた。


「依織ちゃん〜〜!」


 遠くから女子の声が響いたが、トオルのことを考えていた依織は彼女に3度呼ばれても反応しなかった。


「依織ちゃん!」


 ポンっとやや強めに肩を叩かれた依織は、ようやく反応して振り向いた。そこにはTシャツに裾を結んだミニスカート、腕に金属アーマーを着けた、健康的な褐色肌の少女が立っていた。へそを見せた彼女の姿を見て、依織は少し意識が戻り、驚いた表情を浮かべた。


「あっ、ミューリちゃん?」


依織の目線は、ミューリの隣に立つもう一人の少女へと移った。


「ロサリちゃんも一緒なの?」


「ご機嫌よう」


 ロサリはダークパープルのドレスに白い下地が施され、ローズとクオモリの紋様が縫い込まれたレースをまとっていた。両側に結んだリボンが揺れ、レースタイツと厚底ブーツが彼女の小柄な体型を引き立てている。顔色は薄いが、どこか不思議な存在感を放っている。


「どうしたの?何度も呼んでたのに、無視するなんてひどいじゃない?」


「ごめん、ちょっと考え事してたの。気が抜けてたみたい。それより、ミューリちゃん、またアルス先生の授業をさぼったんでしょ?」


「ポイントを稼ぐために、今朝から戦ってたのよ」


「またアメラィーアステージに出てきたの?」


「私にとって、それが一番効率的にポイントを稼げる方法だからね」


 アメラィーアステージとは、特に資格を必要とせず、誰でも参加できるクイックバトルロイヤルステージだ。EPポイントや装備、武器、アイテムなど、賭けられるものはさまざまで、勝利した者が相手の賭けたものを手に入れるルールだ。


 ルールはシンプルで、戦闘スキルに関係なく、自分以外の挑戦者を倒して戦闘不能にするか、ステージから追い出せば勝者となる。1対1から最大16人のバトルロイヤル形式があり、2人ペアや3人チームでの戦いも行われる。相手の命を奪うことは厳禁であり、違反した場合は失格となり、故意に命を狙ったと認定されれば、二度とステージに立つことは許されない。戦闘時間が終了し、ステージに立つ者が複数いる場合は、敗者の賭けた物品が均等に分配される。


 ステージに参加するには、必ず抵当物を用意しなければならない。同じステージに立つ挑戦者は相応の価値を持つ物を賭けなければ戦うことはできない。観戦者も気に入った挑戦者に賭けることができ、EPポイントでの賭けが可能で、勝てば賭けた額の倍のポイントを得られる。押し当てた挑戦者が勝利した場合、観戦者が賭けたポイントはAPポイントとして計算される。


 このステージの起源は、連邦が形成される前、ターヌモンス人が住んでいたエルノレンス王国にまで遡る(さかのぼ)。国民全体の身体能力を強化する目的で、各地に闘技場が設けられ、王族や貴族が模範となって参加することが義務付けられていた。元々、このイベントは貴族と平民を分けて行われ、平民が貴族の場に立つことは禁じられていた。

 この制度により、エルノレンス王国の国民は男女問わず、身体能力が向上し、当時の戦争で敵対する帝国に連戦連勝し、失われた領土を取り戻すことができた。そのため、他国も同様の制度を導入した。


 当時の時代背景では、奴隷は穢れた存在と見なされ、裏切りや反逆が少なくないため、神聖なステージに奴隷が出場することは許されていなかった。しかし、元奴隷であるアメラィーア・ルノータルト女爵が、貴族である夫に代わってステージに出場し、見事優勝を果たして失った名声と資産を取り戻した。この功績により、イベントは身分に関係なく誰でも参加できるようになり、彼女の名を冠して「アメラィーアステージ」と名付けられた。


 300年前のヘルティス革新以降、このステージは自身の腕を試し、出世を目指す者たちにとって格好の場となった。平民や罪人が一気に大出世を果たすことも多かったが、一方で没落した貴族や王族がすべてを失うこともあった。


 アメラィーアステージにはリスクが伴い、多人数戦において最後に勝ち抜ければ多くの報酬を手に入れることができるが、自分の実力を過信しすぎて多額の賭け物を失うこともある。強欲な挑戦者には常に大きなリスクが付きまとうイベントである。


「それで、今日の成績は?」


ミューリは眉を軽く顰め、言いにくそうに恥ずかしそうな笑みを浮ぶ。


「まあまあね。8戦して、3勝3敗2引き分けかな」


「まさか、赤字になってないよね?」


依織は呆れた笑顔を浮かべた。


「大丈夫、私がちゃんと見てるから。戦績はまあまあだけど、ちゃんと稼いでるよ」


「ロサリちゃんが付いているなら安心だね」


「もっと信じてくれていいんだよ」


「ミューリちゃんの腕がいつも信じているよ、ただ自信過剰でバトルに出過ぎるから、ピンチになることも多いけどね」


ロサリがニヤリと笑った。


「予想外の相手も多いからね」


「外見で判断しちゃダメよ」


「次はイオリちゃんも一緒に出ようよ。ステージに仲間がいると勝率も上がるし」


「出るのはいいけど、授業やバイトの時間以外ならね」


「分かっている。それと、アルス先生の授業の録画は?」


 依織は軽くため息をつき、ポケットからミューリに預けられた記録機元(ピュラト)を取り出して手渡した。


「はい、これ。ミューリちゃんのために授業の内容を録っておいたけど、講義ノートも付いているよ」


「ありがとう!これであるなら助かるよ、後でちゃんと勉強するよ。あっ、その代わり、今朝に勝ったポイントもちゃんとイオリちゃんに送るね」


 これは依織とミューリの間での条件交換だ。依織が授業をサボったミューリのために授業の内容を録音とノットを作りし、その代わりにミューリはアメラィーアステージで稼いだポイントの一部を依織とシェアするという取り決めがあるのだ。


「そうは言ってても、ミューリは勉強する気が一度もないんでしょ?」


ロサリが突っ込みを入れた、その顔には微笑みが浮かんでいた。


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