26.入学式の日 ③
「面白いよ、ロボット作りはタグさえ確実に書いていれば、裏切らないから」
「うん。そんなトオルくんが、十分に楽しめそうで良かった」
「どういうこと?」
「だって、アトランス界の技術は地球界より進歩してるから。もしもこの世界の技術を学んで、コダマちゃんやタマ坊をスキルアップさせられたらって、考えてるでしょ?」
「凄い。依織さん、どうしてぼくがこれからやりたいことまで分かるの?」
「だってトオルくんは、口を開けばロボットやプログラムのタグのことばっかりだよ」
「そうかなぁ」
トオルは自分でも意識できていないことまで依織に教えられ、びっくりしてしまった。
「私も、あの子たちがパワーアップした後の姿、楽しみにしてるよ」
「ま、すぐにはできないけど。これからこの世界のプログラミング技術を習得して、材料やパーツを集め、ノウハウを学ばないと」
この世界に来てから今までの間に見たものだけで、機械もソフトシステムも、地球より遙かに進歩していることが理解できた。トオルはセントフェラストに入学したら、すぐにそれらの専門的な勉強を始めたいと思っていた。
「それで良いんじゃない。ロボット作りに集中すれば、ある意味、安心だもんね」
「ん?それは……?」
「ん?あ、別に、ちょっと自分のことを言っただけだから、忘れて良いよ」
「そうか」
依織の反応に少し違和感を感じ、トオルは彼女の脈音に意識を集中する。
――何だろうこの心脈のパターン、初めて聞く。これは一体どんな感情なんだ?
依織の脈音は、沸騰直前のお湯のようにブツブツと泡だって聞こえる。その音のパターンはこれまでに聞いたことのないもので、トオルは困惑した。
「うわぁ、綺麗!」と、依織が窓外に目を向けた。
海岸線に沿って走っていた列車が進路を変え、内陸へと入っていく。眼下に見える町には有機形のシンプルな外観の建物が建ち並ぶ。それらにはかならず、水晶でできた何かが組み込まれていた。ドーム型のスタジアムが多数あり、その上方に大きなリングが付いている。リングは薔薇の茎で編まれたリースのような、トゲトゲした金属パーツで固定されており、そのトゲは鬼の角みたいに空へ突き出している。
平面の道路は少なく、自然の地形が活かされた町だ。木々は心地良く剪定され、人造の水が流れ、階段と道が繋がる広場の上空では、無数の架け橋がビルとビルの間を動いている。決まった道があるのではなく、どこへでも繋がる無限の架け橋が現れ、好きな場所へと繋いでくれるようだ。人々はスティック状の手すりに掴まって、ビル間を移動していた。
「ここがセントフェラスト?」
「ガイドさんは、目視できないほど遠い、スカイラインのその先まで、全部セントフェラストアカデミーだって言ってた。ネオ東京都よりも広くて、全域が5528平方キロメートルあるって。中央学園エリアと、四つの学院があって、ここはロッドカーナルって呼ばれているんだって。中央学園はもっと内陸に入った、旧帝国城があるところなの」
「そうか、イトマーラの本体は学園なんだな」
「そうね。国の行政機関にも学園の部門が重なっているんだって」
イトマーラは都心エリアの他に、依織の言った中央学園エリア、そして四つの学院がある。東のアイラメディス、西のハイニオス、北のフミンモントル、そしてここ、南のロッドカーナル。
「あそこに高い塔があるでしょ。あれはイールトノンって言って、ダイラウヌス機関の本拠地なんだって」
依織が指差す方を見ると、見上げるほどに高いタワーが聳え立っていた。その周囲のゆるやかに広がる台地に、何か球形のものが、円を描くように並んでいる。こうして全体を見ると、まるで日時計のようだ。
「ダイラウヌス?」
「地球界のローデントロプス機関と似たようなものだって。アトランス界全体の安全を守るための機関よ」
ということは、先日『尖兵』を派遣したのはダイラウヌス機関なのかもしれないと、トオルは思った。
「なるほど、少しずつこの世界の輪郭が見えてきた。依織さん、あの、建物にかならず付いている石は何なんだろう」
「言うと思ったから、聞いておいたよ。あれは水晶パネルっていう、発電装置なんだって。この世界の科学技術と錬金工学の賜物だって言ってたわ」
「ふぅん」と言いながら、トオルは食い入るように見つめている。
「錬金工学っていうと、地球界ではまだ研究段階だな。これから実用が期待されている分野だけど、こっちではもう、こんなに進んでいるのか……」
「凄いよね。空に浮いてる島も、人が作ったものはすべて、原子を錬成して作ったものだって」
浮遊列車はさらに内陸へと入り込んでいく。新しい町を通り過ぎると、徐々に土地の標高は高くなり、反比例するように建物は低くなり、視野がどんどん広がっていく。さっきまでの近未来感のある建物が少なくなっていき、次に見えてきたのは、城に城壁、城砦、鋭い屋根の鐘塔……。王宮へ向かう馬車道と城下町だが、やはりそれらにも、水晶パネルが付けられていた。どうやら建物の基礎はそのままに、現代の技術を使って上手くリニューアルさせているらしい。
「始業式はどこで行われるんだ?」
「あの、緑のドーム。ティアルイトって言うんだって」
そのドームは、脚のついたアイアンフラワースタンドに水風船を置いたような形をしている。6つの柱にはそれぞれ水晶パネルが組み込まれ、雫型のドーム部分は、上下3つのサークル型の鋼鉄構造だ。
外には、入場を待つ長い行列ができていた。
会場もお城も遠く去った頃、浮遊列車が徐々に高度を下げ、城下町にある駅に停まった。
トオルと依織は駅を出ると、城下町の商店街の坂道を登って、ティアルイトへと向かう。しばらく長い行列を並んでいると、ふと、トオルの頭に火花が散ったような、妙な感覚があった。会場の外の雑踏や話し声が、やけに大きく聞こえる気がする。




