23.奇襲、交戦、そして… ③
キアーラが橋の下を眺め、縄を切ろうとした時、コダマがやってきて、ビームマシンガンを放った。
キアーラは左腕を上げ、バリアを発生させる。ビームは無効化されたが、キアーラ自身も動きを止められた。
「またあの戦闘機元か。ちょこまかと邪魔しやがって!」
支配下にあったこの船の状況を一変させたのは、あの鳥だとキアーラは思った。彼は自身の持つ感覚を活かし、鳥の発信源を探る。
「あの鳥を操るのはお前か、小僧!」
トオルの頭痛は酷くなっていた。ガンガンと痛み、目眩までしてきている。こめかみを押してみても少しも良くならない。
「思い通りにはさせない。コダマ!ブリッツネット弾を撃て!」
コダマが高い声で鳴き、ネット弾を射出した。
どんなに体の状態が悪化しても、トオルはキアーラの脈音に集中していた。力はみなぎり、怒りのエネルギーも湧き上がっている。だが、それだけではない。トオルが読み取ったキアーラの心脈のリズムは、まるで狂言者のパターンのようだった。
トオルの頭にまた火花が散った。そして、キアーラの声が聞こえてきた。
(クソ、次から次へとキリがねぇ!どいつもこいつも使えねぇクズばっかりかよ!)
――何だこれ……。この人の、心の声か?
(クソガキとあのクソ鳥が出てきてから流れが悪くなった。使えないザコしかいないなら、俺が纏めて殺す!!)
――この人、強いのに焦っているのか。こんなに大勢の味方がいて、力があるのに、彼はたった一人で戦っている。何て惨めな人だ……。だけど、どんな理由があっても、人殺しなんて許せない。そうだ、こんな臆病な人、ぼくが怯える必要はない……。
キアーラがトオルをターゲットにした。襲い来るキアーラに、コダマが網を射出する。
「効くわけねぇだろ」
キアーラは右手のグローブで網を握り、破り燃やした。
トオルの反応が一瞬遅れ、キアーラの左手に押し倒される。
そして止めを差すように、キアーラが真っ赤なグローブを掲げた。
死が迫っているのを感じても、トオルは諦める気はなかった。
――叔父さんに感謝だな。
皮肉にも、トオルはそう思った。どんな恐ろしい相手であっても、あの家での暮らしより怖いものはなかった。トオルには並外れた根性と、どんな状況でも前進しようとする勇気が備わっていた。
無感情なトオルの目が、キアーラを射貫く。
「こいつ……」
目と目が合うと、キアーラは何かに怯えたように目を丸くして、咄嗟に右手を止めた。トオルには、冷や汗がキアーラの額を伝うのが見えた。
「トオルくんを放しなさい!」
よく知った声が、トオルの耳に響く。
「依織さん……?」
キアーラが声の方を振り向いた。依織がクリーフに渡されたビームナイフを手に攻めてくる。
依織の動きを見て、キアーラはトオルを掴んでいた手を放した。依織のビームナイフをグローブで受け止め、肩と腕の力で押し飛ばす。
依織は投げ技を食らい、ビームナイフを床に落とした。人の手を離れると、光の刃はまたすぐに消失した。
「お前、さっきの生意気な女だな?この小僧の知り合いなのか」
打ち飛ばされ、倒れた依織だったが、何とか自力で立ち上がり、目を細めてキアーラを睨む。
「あなたのこと、私は許さない!」
依織は白銀色の匕首を翳した。キアーラの暴行を見ていた依織には恐怖心もあったが、それよりもあまりに非道な行いに憤っていた。トオルが殺されてしまうかもしれない局面に立たされ、依織は怒りで恐怖を押さえつけ、悪に立ち向かった。
「そんな短い獲物で俺に歯向おうってのか。さすが、地球人は甘くて仕方がない」
二人が対面していると、キアーラの右腕にパチャッ!っと何かが巻き付いた。振り向くと、橋にぶら下がっていたはずの穣治が立っていた。
「お前、いつの間に……」
「女相手にずいぶん物騒な武器を使って、紳士じゃないな」
穣治はキアーラの右腕に巻き付いた鞭を、メジャーのように最短距離まで巻き取っていく。
依織と穣治が注意を引きつけている間に、トオルが急いでそこから這い出た。
「紳士だと?ハハ、笑わせてくれる。俺は女を特権扱いする気はねぇ」
依織が再度、匕首で攻める。
穣治がしっかりと鞭を引きつけているため、キアーラは右腕の動きを封じられている。
依織がキアーラの目前まで近付いた。キアーラは左手の装備で刺撃を防ぎ、腕を振って依織の攻撃を受け流す。依織はそのまま走りすぎた先で、躓いて転んだ。
キアーラは片手でも依織の攻撃を受け止めた。その力の差は歴然だ。
キアーラは姿勢を変え、左手で鞭を掴むと、またも手袋で燃やし切った。
「こいつ、結構強い……」と、逃げ切られた穣治が呟く。
源使いとしての経験を持つ穣治でさえ、キアーラを退治することはできない。依織は大きすぎるレベルの差に気付き、絞り出したはずの勇気を一瞬で失った。
「こ、この人、強すぎる……」
「ネズミはまとめて炭にしてやる。この赤銅の刃で!」
キアーラが左手の装備を翳した。しかし、赤い刃は伸び出さない。
「……なぜだ?なぜ刃が出ない?」
キアーラは装備に源を集める。しかし、装備に刻まれた切り口からエネルギーが漏れていた。装備の損傷により、刃が生成できなくなっていたのだ。
「いつだ?まさか……あの女の短刀か?あいつの短刀が、俺の装備より硬いと言うことか!?」
「おい、小僧、女、お前ら、名を名乗れ」
トオルは依然として激しい頭痛に襲われていた。手で頭を支え、残りわずかな体力でかろうじて立っている。依織はトオルに駆け寄った。
「しっかりして、トオルくん!」
依織はトオルの体を支えながらキアーラを睨む。
「あ、あなたなんかに言うもんですか!」
「フン、まあ良い。お前らの情報などすぐに洗い出せる」
キアーラはそう言ってから、少しだけ興奮したような顔でトオルを見た。
「小僧、お前のその顔、その目、そして鉄灰色のような髪色。……一瞬、あの方を思い出した。まさか、新苗のなかに、お前のような謎多き者がいるとは。妙にゾクゾクさせられる」
「あなた、さっきから何を言っているの……」
トオルにはもう、キアーラの言葉を理解するだけの力も残っていなかった。意味の繋がらない言葉を考えようとすると、さらに辛くなる一方だった。
コダマは緊急的に橋に着陸し、タマ坊も動きを止めた。
「コダマが飛べない、タマ坊もガードモードに変形した……源気が切れたか……」
トオルはキアーラと穣治を見ていたが、次第に彼らの声もぼやけたように聞き取りづらくなっていった。
その時、天井に爆発が起き、無数の瓦礫が落ちてきた。
「何だ?」とキアーラが見上げる間もなく、5人の戦闘員が光弾に当たり、倒れた。
そして天井の穴から、3つの影が飛び降りてきた。
筆頭に立つ青髪の男は、腰とブーツアーマーに装備された小型ブースターから火を噴かせ、リコは左右に緑の術式を作り、それぞれに足を乗せている。
依織が二人を見て目を丸くした。
「あの二人、空を飛んでる?!」
形勢を変える奇襲に、戦闘員たちにどよめきが広がった。
連絡橋の上だけでなく、7階、8階にいる戦闘員たちが、次々と光弾を放ち、三人を打ち落とそうとしている。だが、その中で一人だけ、そっと身を退いた者がいた。
青髪の男が武装を使い、金属製のキューブを宙に展開した。三人分のバリアが発生し、光弾を防ぐ。
「これでも食らえ!フォトンスターハンティングシュート」
青髪の男は、今度は腕の装備に源を集め、キアーラと他の7人の戦闘員を照準に合わせ射撃した。一つの光弾が八つに分かれ、精度良くそれぞれのターゲットを撃ち抜いていく。
キアーラは装備アーマーのバリアを展開し、光弾を防いだ。
「リコ、まずは全員を安静にさせろ」
「分かった」
リコは頷くと、詠唱しはじめる。
「大気を司るその御名、偉大なりし聖霊シンフォネットよ、緑の波をもって、我が見守る命の幸たちに、良き眠りの揺籠をあたえまえ、『エメラルドエアシールド』
リコの持つ銃の前に、直径1メートルもの術式が現れた。そこに集まる気流から、次々と玉が噴き出して、敵味方問わず、その場にいる一人ひとりを包み込んでいく。その球形のシールドの中にいる者は、誰かを攻撃することはできず、また、外からの攻撃を受けることもない。パニック状態に陥っている現場で、敵、味方、人質、すべての行動を強制的に静止させる術式だ。
トオルたちもそれぞれのシールドを与えられ、守られた。
そして、デストロンドの戦闘員たちもシールドに捕らえられ、キアーラでさえ、その術から逃れることはできなかった。
「よくやった。では、ヘンリーは右を、リコは左側を頼む。残りの戦闘員と戦闘機元をまとめて掃討してくれ。奴らの親玉は私に任せろ」
「分かった……でも、眠い……」
「任せてください」
ヘンリー・スコピンは、イトマキエイの背に乗って天井から降りてくると、8階の廊下に飛び降りた。周囲を泳ぐイトマキエイからエレキボールを射出すると、その場にいたフェジを撃破していく。
自力でシールドを破った戦闘員はバスター砲を撃ち返したが、ヘンリーは難なく光弾を避けていく。彼の周囲に小さなエイが多数現れ、廊下のフェジや戦闘員は魚群と衝突した。エイたちは電気を発し、生ける飛び道具として戦闘員たちを電流で戦闘不能状態へと貶めていく。フェジたちもダメージに耐えきれず、次々に爆発した。
縦横無尽に宙を飛んでいるリコは反対側の廊下へと進んでいき、着地した。術銃の照準を適当に合わせると、やる気のない声で術式を詠唱する。
「装填、風よ、吹き流せ、『ウィンドフラッシュ』」
弾倉に入った水晶石が、凝集した源を放つ。銃口からは直径1メートルもある緑色の円形術式が三重に展開した。瞬間、圧縮された乱気流が竜巻を起こし、一気に放たれる。
フェジも戦闘員もガードマンも、廊下にいた者は例外なく竜巻に吹き飛ばされ、瓦礫やゴミのように壁に激突し、散り集められていく。8階廊下のデストロンドたちは一掃された。
リコ、ヘンリー両名は、そのまま7階へ移動する。一分間でワンフロアを取り戻す圧倒的なスピードで、デストロンドの支配力は弱まっていった。
一方、青髪の男は5階、連絡橋の上で、キアーラと対峙していた。
「お前……ハリソン・キングスリー・エルトラムか」
「ああ、久しぶりだね、キアーラ・アルホフ。騎士団が解散して以来か?」
「尖兵の資格を取ったのか?」
「そうだ。あの頃君は、その力にふさわしい理想を掲げ、ローワンズ団長と争っていた。それが今やこの有様とは、不甲斐ない」
「フフ、ハハハハハ」と、キアーラは大口を開けて笑った。
「クソ機関め。俺を動揺させるための手か?残念だが、誰が相手でも関係ない。俺の邪魔をする者は、全滅する」
「キアーラ様、潮時です」
鉤爪でシールドを破ったリーズが、キアーラの元へと馳せ参じた。
「潮時?」
「あの方からの命令です。ジンたちはすでに避難室の救急ボートで脱出済み。現状は一方的に不利であり、交渉も決裂。戦いを続けるメリットがありません」
「あの方の指示なら、仕方がない……」
キアーラの返事を聞いてすぐ、連絡橋に時空の穴が現れた。
「逃げるのか?大人しく命令に従うなんて、君らしくない」
「決着を付けるのは今度だ。クソ機関の番犬になった以上は、俺の敵だからな」
「Rom」
リーズが唱えると、碧色の術式が展開した。辺りには雷雲が発生し、視界に霧がかる。ハリソンは金属製のキューブを組み立て、雷撃を防いだ。
しばらくして雷雲と霧が晴れると、キアーラとリーズ、数人の戦闘員が姿を消していた。
キアーラがいなくなったのを確かめると、トオルは気が抜けたのか、膝から崩れ落ちた。気力だけで保っていたが、限界はとうに超えていた。
「トオル君!しっかりして!」
「まずいな、かなり衰弱している。すぐに源気を補充しないと」
視界がぼやけ、トオルはハリソンに脈を取られている感覚と、手当てを指示する声を聞いたのを最後に、意識を失った。
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